余命宣告
「キミの寿命はあと5分だ」
突然目の前の白衣を着たおじさんがボクに対して冷静に言い放った。
「…そっか……」
ボクはベッドの上で天井を見ながら呟いた。
普通なら涙の一つでも流すんだろうけど、ボクはそれほど死ぬのが嫌じゃないんだ。
お母さん、そんなに泣かないでよ。
ボクは後悔したことなんてないんだから。
ただの一度だって自分の行動を悔やんだことがないんだから。
お父さん、そんなにボクを哀れみの目で見るのはやめてよ。
ボクは誇りなんだよ。
ボクがこれまで生きてきた人生を誇りに思ってるんだよ。
世界中の人に胸を張って言えるよ。
もう一度生まれ変わることが出来るんなら、ボクはボクになりたいって。
お父さん。
口をなんだか動かしてるけど。
なんて言ってるかよくわかないよ。
もっと大きな声で話してくれないと。
それに、さっきから手を握ってくれてるお母さん。
ボクにはアナタの暖かさがわかりません。
力強く握り返したいけど手がどこにあるのかわからないんだ。
おかしいな。
さっきまでそこにあったはずなのにな。
忘れるはずないと思ってたのにな
忘れちゃった。
あれ?
目がぼやけるな。
視力が落ちたのかな。
お父さん?
お母さん?
世界がぼやけて区別がつかないよ。
今まではっきり見えてたのに。
どうしたんだろう。
お母さんが言ってたようにテレビは離れてみてたのにな。
お父さんが言ってたように暗い部屋で本を読んでないのにな。
おかしいな。
そうか。
もうすぐ僕は死ぬんだっけ。
なんで死ぬってわかったんだっけ?
そうだ。
お医者さんに言われたんだ。
どうして病院になんて来たんだっけ?
ああ。
立ってたらいきなり倒れたんだ。
それで病院にお父さんとお母さんが連れてってくれて。
それでレントゲンを撮ったんだ。
そしたら僕は病室のベッドに寝かされて。
お父さんとお母さんはお医者さんと部屋に残ってて。
少ししたら泣きながら戻ってきて。
そして言ったんだ。
お医者さんが言う前に。
確かにお母さんは言ったんだ。
「ごめんね……」って。
お母さん。
僕はその言葉の意味、何か悪いことをして謝るときに使う言葉だって教わったんだ。
お母さんは、ボクに何か悪いことをした?
ボクにはなんでお母さんがそんなこと言ったのかわからない。
だから、いつもボクがお母さんに謝ったとき、お母さんが言ってくれる事を僕も言うよ。
ありがとうって。
ああ、なんかまぶたが重たいな。
目を開けてるのってこんなに大変だったんだ。
目の前が肌色だ。
お父さんとお母さんかな。
ボクにはもう1色にしか見えないけど。
ボクのことはどう見えてるのかな。
もしも輝いて見えているんだったら、そんなに嬉しいことはないんだけどな。
ああそうだ・・・。
最後に言っておく事があったんだ。
おとうさん。
おかあさん。
彼は焦点のあってない目で両親を見つめ、唇を震わした。
彼の口からは空気の抜ける音しか私には聞こえなかった。
だけど私はわかっている。
彼の声が両親にだけは聞こえるということが。
彼の想いが両親にだけは届いたということが。
僕はいつもみたいに眼をつむった。
明日が来るのを楽しみにしながら。
明日が来ないことを知りながら。
目の前が真っ黒だ。
EnD
もし私が後5分の命だと言われたら・・・
今書いている小説を全部このサイトに投稿してくれと言い残すでしょう
そして後悔するでしょう
死ぬでしょう