【AI生成】真実のAI by Gemini
① 導入
「おい、ヘミングウェイ! この進捗管理表の遅れは一体どういうことだ! 貴様、私の婚約者でありながら、この程度の事務処理も満足にこなせないのか!」
豪奢なシャンデリアが天井を飾る王立貴族学舎の生徒会室。第一王子ミューゼルは、机を強く叩き、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
その傍らには、儚げな表情でミューゼルの腕にすがりつく男爵令嬢、ベーネミュンデが寄り添っている。彼女は上目遣いでミューゼルを見つめ、さも怯えたように小さく震えてみせた。
「まあ、ミューゼル様……そんなに怒らないであげてください。ヘミングウェイ様も、きっと私とミューゼル様が仲良くしているのが羨ましくて、嫌がらせで仕事を遅らせているだけですわ。悪気はないのです、きっと……」
「フン、ベーネミュンデ。お前は優しすぎる。この女は、自分が公爵家(※実際は伯爵家)の血筋であることを鼻にかけ、義務を怠っているのだ。おい、聞いているのかヘミングウェイ!」
罵声を浴びせられている当人、ヘミングウェイ伯爵令嬢――エリスは、ただ深く頭を垂れていた。
豊かな金髪が床に向けて垂れ下がり、その表情は窺い知れない。肩を微かに震わせる姿は、あまりの理不尽さに耐えかねて泣き崩れる寸前の、哀れな「ドアマット令嬢」そのものだった。
「申し訳ございません、ミューゼル殿下。私の不徳の致すところでございます。……すぐに、修正いたします」
蚊の鳴くような声で謝罪するエリス。その痛々しい姿に満足したのか、ミューゼルは鼻を鳴らし、ベーネミュンデの腰を抱き寄せた。
「まったく、使えない女だ。行くぞ、ベーネミュンデ。こんな陰気な部屋にいると、せっかくの気分が台無しだ」
「はい、ミューゼル様。お優しいあなたに一生ついていきますわ」
二人は甘ったるい笑みを交わしながら、生徒会室の重厚な扉を乱暴に閉めて去っていった。
② 転換
ガチャリ、と鍵が閉まる音が響く。
その瞬間、それまで深くうつむいていたエリスの身体から、一切の「弱々しさ」が消え失せた。
「――ふふ、あはははは!」
エリスは顔を跳ね上げ、狂おしいほどの歓喜を浮かべて爆笑した。その瞳には、従順な被害者の影など微塵もない。ギラギラとした、果てしない野心と愉悦が渦巻いていた。
「完璧。本当に完璧だわ! 教科書通り、プロット通り! 前世の知識で読んだ『なろう小説』の展開そのものじゃない!」
そう、彼女は転生者――いわゆる「前世の記憶」を持つ人間だった。
現代日本という世界で無数のネット小説を読み漁っていた彼女は、この世界に生を受け、自分が置かれた状況を悟った時から勝ちを確信していた。
身分の低い男爵令嬢に現惑され、本物の聖女(あるいは有能な婚約者)を虐げる暗愚な王子。そして、理不尽に耐え忍ぶ悲劇の令嬢。
「あの無能、私が裏でどれだけの国家予算案の調整と、学舎のインフラ整備の書類を片付けてやってると思っているのかしら? 泳がせておけばおくほど、あいつの『職務放棄』と『無能』の証拠が積み上がっていく。卒業夜会で婚約破棄を突きつけられた瞬間、私はすべての証拠を開示して、あの馬鹿を社会的に抹殺する。そして、失脚した王室の弱みを握り、私がこの国の実権を握るのよ。王権の簒奪、傀儡の王……ああ、最高のゾクゾク感ね!」
エリスは懐から、特製の革手帳を取り出した。そこには、ミューゼルがこれまでに行ってきた暴言、職務怠慢、そしてベーネミュンデへの国家機密(学舎の警備体制など)の漏洩に関する記録が、前世の言語である「日本語」と、独自の暗号を交えて詳細に書き連ねられている。
「この手帳こそが、私の勝利の鍵。誰にも見つけられない、私だけの絶対の秘密基地……」
エリスは手帳にペンを走らせ、今しがたのミューゼルの暴言を克明に記録していく。
自らを乱世の奸雄、歴史を裏から操る天才プロトタイプであると信じて疑わない彼女は、己の天才性に酔いしれていた。
しかし、彼女は気づいていなかった。
この学舎が、約150年前に現れたとされる伝説の「異界の先人」が遺した、超魔道具技術の結晶であることを。
部屋の片隅、豪奢な装飾に紛れた魔導水晶のレンズが、微かに青い光を放ちながらエリスの姿を捉えていた。
壁の内部に敷き詰められた魔導回路が、エリスの呟いた「なろう」「プロット」「簒奪」という音声を、そして手帳に書かれた未知の文字列を、光の速さで演算処理していく。
【対象:エリス・ヘミングウェイ】
【発言ログ:解析中……『前世』『なろう』等の未定義言語、および国家体制の破壊を意図する文脈を検出】
【危険度:上昇。監視レベルを最大に移行】
すべての行動、すべての音声、すべての文字列は、すでに「記録」されていた。
この学舎に、プライベートなどという概念は最初から存在しない。入学誓約書の裏面に、古代魔導文字の隠しインクで『すべては王国の発展のため、全個体は常時査定される』と明記されている通りに。
③ 絶頂
そして、運命の卒業夜会が訪れた。
大広間は、きらびやかなドレスと正装に身を包んだ貴族の生徒たちで埋め尽くされていた。中央には豪華な料理が並び、優雅な音楽が流れている。
だが、その平穏は突然の怒声によって破られた。
「静粛に! 一同、注目せよ!」
中央の壇上に上がったのは、第一王子ミューゼルであった。その隣には、勝利を確信した笑みを浮かべるベーネミュンデが、まるで未来の王妃のような顔で寄り添っている。
ミューゼルは、手にした拡声の魔道具を起動し、大広間全体に響き渡る声で宣言した。
「エリス・ヘミングウェイ! 前へ出ろ!」
列を割って、エリスが静かに進み出る。その表情は、相変わらず悲劇に耐える従順な令嬢のものだった。
周囲の貴族たちがざわめく。
「エリス! 貴様は私の婚約者でありながら、嫉妬に狂い、この清らかなベーネミュンデに対して数々の陰湿な嫌がらせを行ってきた! 教科書を破り、ドレスに泥をかけ、果てには暗殺者まで雇おうとしたな!」
「……身に覚えのないことにございます、殿下」
うつむきながら答えるエリス。だが、彼女の内心は狂喜乱舞していた。
(来た、来た、来た! テンプレ通りの冤罪! 教科書を破る? ドレスに泥? そんな前世紀の悪役令嬢みたいなことするわけないじゃない、この無能! さあ、もっと言いなさい! 罪状を重ねろ!)
ミューゼルは得意げに胸を張った。
「言い訳は許さん! よって、私は貴様との婚約を破棄する! さらに、これまでの罪状により、ヘミングウェイ伯爵家は取り潰し、貴様は国外追放処分とする!」
わあ、と会場が騒然となる。
ベーネミュンデはミューゼルの胸に顔を埋め、「ああ、ミューゼル様、ありがとうございます……!」と、悲劇のヒロインを完璧に演じきっていた。
(勝ったわ!!)
エリスは内心で勝利の雄叫びをあげた。
(これで、私が用意した『ミューゼル王子の職務怠慢、国家機密漏洩、および男爵令嬢によるハニートラップの全証拠』を、この拡声の魔道具を奪ってぶちまけてやる! 全貴族の前で、この無能を論破し、社会的地位のすべてを剥奪してやるわ!)
エリスは、これまでの従順な仮面を剥ぎ取り、不敵な、勝者の笑みを浮かべた。反撃のために、その美しい唇を開こうとした――その時。
④ 結末
【――警告。全音声出力を強制遮断します】
機械的で、一切の感情を排除した無機質な「声」が、大広間全体に響き渡った。
それは人間のものではなく、学舎そのものが喋っているかのような、奇妙な残響を伴っていた。
「な、なんだ!?」
ミューゼルが慌てて拡声の魔道具を叩くが、魔道具は完全に沈黙し、青い光を失っていた。
壇上の影から、一人の男が静かに歩み出てきた。
王弟であり、この王立貴族学舎の学園長。漆黒の礼服に身を包み、冷徹な眼鏡の奥の瞳には、一切の人間味が感じられない。
「学園長……? 何をする、私は今、この不実な女を断罪して――」
「静粛に、不適合個体ミューゼル」
学園長の声は小さかったが、なぜか会場の全員の脳内に直接響いた。
彼が軽く指を鳴らすと、大広間の空間全体に、夥しい数の青白い光の文字が浮かび上がった。それは、膨大な「ログ」の開示だった。
「これより、学舎管理AI『NAROU』――“National Automated Recognition and Organizational Unity”(国家自動認識・組織統合システム)の査定に基づき、社会不適合者の選別および処分を行う」
エリスの身体が凍りついた。
なろう……? NAROU?
それは、彼女が知るネット小説のジャンルのことではない。この国家が、およそ150年前に構築した、完璧なるディストピア的監視・管理システムのコードネームだったのだ。
空中の一つの光の塊が弾け、ミューゼルの顔の前に静止した。
【個体識別:ミューゼル・フォン・アンハルト】
【査定結果:不適合】
【詳細:国家機密区域(生徒会室裏金庫周辺)での不適切交際、職務放棄回数432回、情緒不安定による意思決定の阻害。また、敵対勢力のハニートラップ(対象:ベーネミュンデ・フォン・ツヴァイク)への耐性が皆無であり、国家機密を複数回漏洩。次期王権継承者としての資質ゼロと判定】
「な、なんだこれは! デタラメだ! 私は王子だぞ!?」
ミューゼルが叫ぶが、学園長は一瞥もくれない。
「ミューゼル、およびその一派。本日を以て即時廃嫡。王籍を剥奪の上、北の魔鉱山への終身労働、および精神再教育(留年)に処する。ベーネミュンデ・フォン・ツヴァイク。ハニートラップ看破につき、国家スパイ罪で即決死刑」
「そんな!? ミューゼル様! 助けて、ミューゼル様!」
ベーネミュンデが絶叫するが、すでに周囲を取り囲んでいた、冷徹な目をした上級生徒たちによって、二人はあっけなく取り押さえられた。
エリスは、その光景を呆然と見ていた。
(すごい……。私が手を下すまでもなかった。システムが、あの無能たちを勝手に処理してくれたんだわ。じゃあ、私の勝ちね? 私は無実の被害者として……)
しかし、学園長の冷たい視線が、次にエリスへと向けられた。
「続いて、個体識別:エリス・ヘミングウェイ」
空間に、さらに巨大な青白い文字が浮かび上がる。それは、エリスが肌身離さず持っていた「手帳」の中身そのものだった。日本語で書かれたはずのページが、完璧に翻訳され、大画面に映し出されている。
【個体識別:エリス・ヘミングウェイ】
【査定結果:最重要排除対象】
【詳細:王子の無能を意図的に放置・助長し、国家転覆(王権の傀儡化)を画策する言動を、過去3年間にわたり全ログに記録。また、独白および思考記録において『前世』『なろう』『プロット』等の意味不明な符牒を頻繁に使用。精神異常、または未知の存在による憑依現象と定義される危険思想分子。国家安全保障上の最高危険度と判定】
エリスの顔から、完全に血の気が引いた。
「な……ッ、嘘、どうして……!? 私は、私はただ、被害者で! ストーリー通りに、あいつの無能の証拠を突いただけよ!」
エリスは狂ったように叫んだ。
「ストーリー、だと?」
学園長は、感情の欠片もない声で言った。
「この国家は、お前のような個人の安っぽい『物語』で動いてはいない。効率、安定、そして王国の発展。それだけがすべてだ。お前がその手帳に嬉々として記録していた行為自体が、国家への明確な反逆予備罪である。……エリス・ヘミングウェイ。反逆罪により、極刑、または終身幽閉に処する」
「そんな……そんなのってないわよ! 私は転生者よ!? この世界の主役のはずよ! 私がこの国を導くはずだったのに! 離しなさい! 離してよ!」
エリスが暴れる中、二人の生徒が彼女の両腕を掴んだ。
一人は、学舎でも「良心派」として知られる優等生、マーガレット。そしてもう一人は、質実剛健で知られる騎士階級のオフレッサー。
彼らは、エリスが「自分の味方(AIが高評価をつけた善人)」だと認識していた生徒たちだった。だが、今の彼らの目は、まるでゴミを見るかのように冷たかった。
彼らは、己の利害や感情ではなく、システムが示した「国家の害悪」を排除するという、絶対的な合理性のみで動いていた。
「見苦しいですよ、ヘミングウェイ元令嬢。貴女の野心は、すべてシステムに見透かされていました」
マーガレットが冷ややかに言い放つ。
「国家の品位を汚す狂人め。連れて行け」
オフレッサーが事務的に指示を出す。
「嫌ぁぁぁ! 私は悪役令嬢じゃない! 私は、私は――!!」
エリスの絶叫は、大広間の重厚な扉が閉まると同時に、完全に遮断された。
残された貴族の生徒たちは、誰一人として声をあげない。ただ、次に自分が「不適合」とされるのではないかという恐怖に震え、静まり返っていた。
誰もいなくなった壇上で、学園長はただ、淡々と次の処理のための書類に目を落とす。
静まり返った夜会会場に、天井の魔導水晶から、再び無機質なシステム音声が響き渡った。
【――査定完了。対象個体の排除を確認】
【システム正常。次の検体を要求します】
本作をお読みいただき、誠にありがとうございました。
今回の短編は、皆様もお馴染みの「婚約破棄」「ドアマット令嬢の大逆転」という王道テンプレを、ディストピア組織劇という真逆のベクトルへ急転直下させる試みでした。
主人公が信じていた甘い物語の舞台は、実は国家の冷徹な管理システム 「N.A.R.O.U.」 の掌の上でしかなかったというダブルミーニングを楽しんでいただけていれば幸いです。個人の野心も恋慕も、巨大な合理的システムの前にはただの「データ」に過ぎない……という冷たい余韻を感じていただければ、作者としてこれ以上の喜びはありません。




