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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 1章・星鳥燈矢
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星鳥燈矢(7)

「ちょっと、二人とも大変大変!」


 翌日、星の採取を終えて事務所に戻ると、星野が息せき切って飛び出してきた。いつも何事にもどっしり構えているのに珍しい。


「どうしたんですか? ゴキブリでも出たんですか?」

「違うわよ! 流星群が来るの!」

「えっ? 本当?」


 顔色を変えた星間が事務所に駆け込む。星野に手を引かれて後に続くと、外回りから戻っていた中里と、書類仕事をしていた星崎が無言でじっとテレビを見つめていた。


『エネルギー省の発表では二週間後の午後十時、日本上空に多数の星が発生すると……』

『観測史上、最大規模の流星群と予想されます』


 日本上空に流星群が発生するのは三十六年ぶりだそうで、どのチャンネルも流星群のニュースで持ちきりだった。SNSのトレンドも流星群一色だ。同業他社の中には早くも採取ネットを新調したと投稿しているものもいた。


「流星群って星が大量発生するやつですよね。何が原因なんですか? ネットでは先月、大きな山火事が起きたからだって書いてますけど」

「詳しくは知らんが、成層圏のオゾン濃度が急激に変化すると起こりやすいらしいぞ。災害が起きると星が増えるっちゅうのは、『人は死ぬと星になる』の噂が一人歩きしとるだけやな」


 研修の時に与野坂が語っていたことを思い出す。


 ご先祖様たちがまだ着物を着ていた時代は写真を撮ると魂が抜けると言ったり、彗星が飛来すると酸素がなくなると言ったりしたらしいし、いつの時代も科学とオカルトは切り離せないものだ。


「二週間後ってすぐですよね。用意するものってありますか」

「いや、数が多いだけで装備はいつもと大して変わらんで。それより体力つけとけよ」

「たくさん取ってね! どれだけ伝票打てるか楽しみねー。指が鳴るわ!」

「姐さん、今から張り切っとったら持たんで。心配せんでも、抱え切れんほど取ってきたるわ」


 両手の指をわきわきさせる星野に星崎が苦笑する。それを見た中里も目尻に皺を寄せた。


「僕も期待していますよ。ですが、怪我だけはしないでくださいね。安全第一に」

「言われとんで星鳥。ミスんなよ」

「が、頑張ります!」


 反射的に答えるものの、胸の中は不安でいっぱいだった。まだ一個も取れていないのに大量の星を取れるのだろうか。


 星鳥たちがワイワイ話している間もテレビに見入っていた星間がポツリと呟く。


「これは……大変なことだよね。結果によっては、日本の経済力が一気に跳ね上がるよ」

「同業他社も一斉に採取に乗り出すやろうな。俺らも気合入れなあかん」


 星間の言葉に頷いた星崎の目がギラリと光った。



 ***



 その日の成層圏は人の海だった。


 藍色の空を埋め尽くすように色とりどりの気球が浮かび、それぞれの採取船の下部に設置されたデッキの上で、同業他社の採取員、報道陣、医者、運良くツアーに当たった観覧客、それらを規制する警察たちがひしめき合っている。採取船の大多数が白いことも相まって、彼らの姿はまるで砂糖に群がる蟻のように見えた。


「うわ……いっぱいいるう……」

「当たり前やろ。これを逃すアホウはおらんで」


 採取スーツを着た星間と星崎が泳ぐようにデッキ上を移動しながらポールを立てていく。


 デッキの柵と同じく、成層圏の過酷な環境にも耐える強化プラスチックだ。この間に採取ネットを張って、飛来する流星群を一気に捕らえるのである。もちろんネットをすり抜けていく星もあるので、それは星鳥たちが星取り網で一つずつ拾っていく。


 周囲では同業者たちが同じくデッキ上にネットを張っている。荒くれ者の多い職種だ。あちこちでトラブルが起きるかと思いきや、予想以上に粛々と準備が進められていく。


「これだけの人数がいても、縄張り争いは起きないんですね。普段は早い者勝ちなのに」

「まあ、報道陣や警察も来とるしな。それに一応協定があって、流星群の採取の場所はあらかじめ決めとくんや。公平を期すためにクジを引くんやけど、俺らの場所はめでたく予測軌道のど真ん中や。取ったるでえ!」

「クジ運いいからね、うちの社長」


 気炎を上げる星崎の傍らで、星間が穏やかに笑う。


 頭上に目を向けると、予測軌道上から大きく外れた場所にITPの飛行船が停泊しているのが見えた。


 どうやらクジ運がなかったらしい。大阪と九州から馳せ参じた大手二社も似たようなもので、中小企業ではとても買えない巨大ネットを巧みに張り巡らせつつも、社員たちは早くも意気消沈している様子だった。


 今日は拓海も来ているらしいが、これだけ離れていると顔を合わせることはなさそうだ。


 がっかりした反面少しほっとする。できれば新しくできた友人に無様な姿を見せたくはない。テレビやネットの中継に映るかもしれないと聞いたから、学生時代の友人にも知らせなかった。もしものことがあるので、さすがに姉と母には連絡したが、父親はきっと見向きもしないだろう。


「よっしゃー! やるぞお前ら! 取って取って取りまくるぞ!」


 背後の採取船から鬨の声が上がる。それに呼応してあちこちの採取船からも気合いの入った声が聞こえてくる。


 意気消沈した大手に反して、元気なのは中小企業の採取員たちだった。


 全国のインフラを維持するためには一日で四百個程度の星が要る。その半分はITPをはじめとした大手三社が取り、残りを中小企業が取り合っている。


 採取業者になるには近くに港があり、かつ当日中に核融合炉施設に搬入可能なことが必須条件なため、全国で五十社程度しかいない。つまり非常に立場が弱く、普段から溜め込んだ大手への鬱憤をこの機会に晴らそうとしているのだ。


「大手が取れない分だけ高く売れるだろうなあ。ボーナスが楽しみだね」

「妹がまだ大学生やから助かるわ。私立は金かかってしゃーない」


 普段冷静な星崎たちでさえこの調子である。


 成層圏内に蜘蛛の巣のようにネットが張り巡らされ、報道陣が十時へのカウントダウンを始めた頃、西の方で無数の薄緑色の光が瞬き始めた。


 周囲の採取員たちが一斉に色めき立つ。


「来たで!」

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