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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 1章・星鳥燈矢
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星鳥燈矢(6)

 納品先はITPの本社ではなく、採取船の発着地よりもさらに沖合の核融合施設だ。医療施設や公共施設の簡易核融合炉とは違い、ITPの核融合炉は世界でも類を見ない大きさのため、万が一事故が起こった際に都市部を巻き込まないようにする配慮である。


 守衛の指示に従って降ろし場に向かい、配達用の白いワンボックスカーから銀色の保管容器を降ろす。


 見た目は液体窒素の保管容器にそっくりだが、中に入っているのは紛れもなく星だ。星は零度以上の大気に触れると構造変化を起こしてしまうので、こうして人頭大の真空断熱容器に一つずつ入れて運ぶ。


「こんにちはー! 中里エネルギーサービスでーす。本日の納品にきましたー」


 台車を手に倉庫の入り口で叫ぶと、中からグレーの作業服を着た男が駆け寄ってきた。


 汗に濡れた帽子の下の顔に目を丸くする。


「拓海くん?」

「ああ、燈矢か。納品お疲れ様」


 手際よく受領印を押す拓海をまじまじと見つめる。


「研修の時はありがとう。倉庫にいたんだ。てっきり本社勤務かと思ってた」

「適正を見るために新人の間はいろいろな部署を回るんだ。来月には別の場所にいるんじゃないか」


 受け取った受領書を胸ポケットにしまい、倉庫の中を見渡す。


 東日本で一日に採取される星は約二百個。その大部分がここに集まってくる。毎日エネルギー化するといえども、在庫は千個近くあるだろう。文字通り山と積まれた保管容器を前に、星鳥はうんざりとした表情を隠せなかった。


「もしかして、これ全部一人で整理するの? 他の人の姿見えないけど」

「……いないわけじゃないんだけどな」


 含みのある言葉に首を傾げた時、倉庫の外にある喫煙所が目についた。拓海と同じ作業服を着た男たちがコーヒーの缶を片手に電子タバコを吹かしている。


 星鳥が納品に来たのが見えているはずなのに彼らはこちらに近寄ることなく、何やらヒソヒソと話していた。どうにも嫌な感じだ。


 拓海にチラチラと向けられる視線は研修の時にも感じた。与野坂の一人息子で、その上養子とくれば、きっと色々なしがらみがあるのだろう。


「俺も手伝うよ。ここにあるの奥に運べばいいんだよね?」

「いいよ。他にも仕事があるだろ」

「大丈夫。今日は納品ここだけなんだ。先輩からも、明日遅刻しなきゃ直帰していいって言われてるし」


 星は取れなくても単純作業はできる。AIロボットを駆使しつつ、拓海に指示を仰ぎなら黙々と運んでいると、あれだけあった山があっという間に綺麗になった。


「ありがとう、助かった」


 拓海が笑みを浮かべた瞬間、終業のチャイムが鳴った。


 外は夕焼けの光に包まれている。サボっていた社員たちと顔を合わせるのも嫌なので、拓海としばらく休憩することにした。


 自販機で買った缶を手に倉庫の片隅に並んで座り、同じタイミングでプルタブを開ける。星鳥はジュース、拓海はブラックコーヒーだ。


「あの人たち、結局一度も手伝いに来なかったな。俺があんなことをしたら先輩にこづき回されるよ」


 憤慨する星鳥に拓海が小さく口角を上げる。


「燈矢の職場は楽しそうだよな。父がよく話してる」


 一瞬驚いたが、きっと社交辞令だろうと納得する。天下のITPの社長が一介の中小企業に詳しいとも思えない。


 共に研修を受けたとはいえ、まだ二回しか顔を合わせていない関係では会話もすぐに尽きる。


 とはいえ、不思議と気まずさは感じない。拓海は表情があまり変わらず、自分から話すタイプでもないので感情が読みにくいが、星鳥と同じ気持ちなのは何となくわかった。


 お互いが飲み物を啜る音が響く中、ふと湧いた疑問を口に出す。


「拓海くんはどうしてITPに入ったの? やっぱりお父さんの会社だから?」


 拓海は少し考えた後、一息で缶の残りを飲み干すと前を向いたまま答えた。


「僕も星が好きだからな。父のことも尊敬してる。いずれ肩を並べて働きたいと思うけど……どうだろうな。父が待っていてくれるといいが」

「拓海くんなら大丈夫だよ。研修の時も飛び抜けて優秀だったじゃん。俺と違って星もバンバン取ってたし」


 自分の失態を思い出して顔をしかめる。天は二物も三物も与えるものだ。飲み干した缶を横に置き、大きく伸びをする。


「うちの父親はしがない配送員だしさあ。そもそも喧嘩して家を飛び出してから四年以上連絡取ってないし、拓海くんみたいに感じたことないな」

「何で喧嘩したんだ?」


 邪気のないまっすぐな瞳で見つめられると嘘をつくのも気が引ける。渋々、星崎にも言っていない事情――大事な局面で捕球をミスして部活を辞めたことを話した。


「あまり人の家庭に口出しはしたくないが、連絡はとったほうがいいと思うぞ。いつまでも元気でいてくれるわけじゃないし」

「まあ、そのうちね……」


 明け放たれた鉄扉の向こうに目を向ける。空には徐々に夜の帳が下り、地面の向こうに広がる海は沈みゆく夕日でまだらに染まっていた。もう少し経てば、対岸の街に一斉に明かりが灯ってさぞかし綺麗だろう。


「そういえば、燈矢はどうして採取員になったんだ?」


 波の音に耳を傾けながら、星鳥は答えた。


「俺も考えてる」

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