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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部・1章 星鳥燈矢
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星鳥燈矢(5)

 偏西風が吹き付けるデッキの上に立つ。


 気を抜くとすぐに流されてしまうので、スーツに搭載したガススラスターで姿勢を制御しつつ、ぐっと腰を落とす。


 周囲に広がるのはどこまでも続く藍色の世界だ。フェイスシールドを曇らせないように息を吐き、前方の一点を見据える。


 不意に灯った薄緑色の光が、軌跡を描きながら凄まじい速さでこちらに向かってきた。


 両手で星取り網を構え、到達地点を予測しながら網を振るう。


 いつだって勝負は一瞬だ。両手に確かな手応えを感じて網を覗き込む。風に強く煽られながらも、小さな薄緑色の星は網の中で煌々と輝いていた。


「まだやってるの?」


 響くノックの音に、星鳥は分厚いゴーグルを外した。


 宇宙船のコックピットみたいな個室の外から星間がこちらを覗き込んでいる。目の前のスクリーンにはさっきまでのスコアがちかちかと点滅していて、そこそこ悪くない結果を示していた。


 これは成層圏を再現したシミュレーターだ。鼻から上を覆うVRゴーグルをつけると、まるで本当の現場にいるかのように採取の練習ができる優れものである。社員であれば誰でも使用可能だが、最近ではすっかり星鳥の専用機と化していた。


「シミュレーターでは取れるんですけど……」

「反射神経は悪くないんだけどなあ。やっぱり場数が足りないのかな?」


 スコアを見た星間が唸る。


 そう。反射神経は悪くない。小学校から高校までずっと野球をやってきたからだ。ポジションは外野手。今まで数えきれないほどの球を捕ってきた。


 しかし、忘れもしない。あれは高校二年生の夏。この一戦を守り抜けば甲子園も夢ではないという大一番で、星鳥はフライを捕れなかったのだ。


 ボールがグラウンドに落ち、周囲から嘆息が漏れた瞬間を今でも夢に見る。それ以降、飛んでくるボールを見ると体が強張るようになり、部活を続けられなくなってしまった。


 挙句に野球馬鹿の父親と派手に喧嘩をして、逃げるように東京の大学に進学した結果、メッセージのやり取りすらないまま今に至っている。


 星が取れない原因は、きっとそれだ。飛んでくる星があの日のボールに重なり、上手く体を動かすことができないのだ。


 シミュレーターでは上手くいくのは空気感が違うからだろう。どれだけ精巧に作られていても、あのマイナスの外気温の中で、吹き荒ぶ偏西風に耐えながら高速で飛ぶ星を追う、ひりつくような緊張感までは再現できない。


 ――このままじゃ駄目だ。


 社員として雇われた以上、いつまでもトラウマを引きずっているわけにはいかない。頭ではわかっているのだが、現状を打破する一手がないのも確かだった。


「焦っちゃ駄目だよ。社長も言ってたでしょ。俺もそうだけど、あの星崎だって最初は取れなかったんだから」


 黙り込んだ星鳥を慰めるためか、星間がことさら優しい口調で言った。


「あいつもさ、口は悪いけど星鳥には期待してるんだよ。星は取れなくても、いつも一生懸命だって陰で褒めてんだからさ」


 とても信じられないが気持ちは嬉しい。その気持ちに応えられないのが情けないところであるが。


 ――一日でも早く、本物の星を取りたい。


 決意も新たにシミュレーターから出て星間に頭を下げる。


「ありがとうございます。そろそろITPに納品に行ってきますね。今日は何個取れたんですか?」

「十二個かな。今日は予測軌道ドンピシャだったから楽だったよ」


 中小企業では一日数個取れれば御の字だ。十個以上なんて大成果である。相変わらずうちのエースたちはすごい。


「気をつけて行っといで。明日遅刻しなきゃ直帰してもいいって星崎が言ってたよ」


 星間から社用車の鍵を受け取り、事務所を後にした。

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