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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 5章・あの星を追いかけて
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あの星を追いかけて(12)

「そうですか。ようやく正式に発表されましたか」


 消毒液が漂う部屋の中で、小さなテレビを眺めながら中里が頷く。その頭には包帯が巻かれているものの顔色は良く、医者が太鼓判を押すほど予後は順調だった。


 隅の机にはたくさんのお見舞いが積まれている。一番大きなフルーツ籠は拓海のだろう。彼は星鳥たちが地上に戻り次第、宣言通り再稼働させていた核融合炉で星をエネルギー化し、発電したばかりの電力を各地の医療施設に送電した。


 そして、すぐさま記者会見を開くと、報道陣に向けて星鳥が伝えた病院の窮状を切々と訴え、採取の自粛を撤回すると語ったのだ。


 まっすぐに前を見据え、ITPは今後もインフラを支え続けていくと話す拓海の姿は、まるで生前の与野坂がそこに立っているかのようだった。


「テレビでは論文を流出させた研究員が博物館から盗んだ遺伝子情報を意図的に星に混入させたって話していましたけど、本当なんですかね。その上、研究員は星の反対団体から送り込まれていたって、できすぎじゃないですか」


 唇を尖らせる星鳥に中里が穏やかに返す。


「さあ、どうでしょうね。いずれ真実がわかる時が来るかもしれません。星の研究はこれからも続いていくのですから」


 中里の視線に釣られて窓の外に目を向ける。空は雲一つない快晴だ。成層圏では今頃星崎と星間が星を追いかけているだろう。


 一連の騒動を忘れたかのように、世界は元の秩序を取り戻した。スーパーやモールは一日中賑やかな音楽を流しているし、道路から警察官の姿は消え、いつも通り電気自動車があふれている。


 しかし、星鳥は決して忘れることはないだろう。眩く輝く薄緑色の流星を前に胸を熱く燃やした瞬間を。


「中里エネルギーサービスが廃業せずに済んだのも、君たちが頑張ってくれたおかげですね。去年に続いて一躍時の人ではないですか」


 空を飛ぶ鳥を眺めていた中里が、星鳥の膝の上に置かれた雑誌に視線を移した。


 大きく開かれたページには成層圏で星を取る星鳥たちの写真が特大サイズで載せられている。はたから見れば格好よく見えるのかもしれないが、大勢の人を巻き込んだ手前、また黒歴史が増えてしまった気分だ。


「まさかカメラの映像がそのままネットに流れているとは思いませんでしたよ。こんなにデカデカと雑誌にも載っちゃって、また連絡ガンガン来ちゃう……」

「星崎くんの元同期の方のアイデアだったみたいですね。ですが、そのおかげで世論は君たちに傾き、非難の目は反対団体に向けられた。だからこそ国も事態の収集に動けたのではないですか」


 それは反対団体をスケープゴートに仕立て上げたと言っているようなものだが、正直、星鳥もあの団体には腑が煮えくり返っているので、あえて聞こえない振りをした。


「みんな勝手ですよ。あれだけ非難しておいて」

「まあまあ、それが人間というものですよ。君たちの動画、僕も見せてもらいました。どこまでも広がる藍色の世界は本当に美しかった」


 うっとりと目を細めた中里が星鳥に向かって優しく微笑む。


「君のおかげで、大事な約束を思い出すことができました。僕はあの景色を二度と忘れることはないでしょう」

「約束?」

「遠い昔の話です。今を生きる若い人にはとても退屈な、ね」


 そっと目を伏せる中里に首を捻っていると、窓の外から星鳥を呼ぶ声が聞こえた。雑誌をベッド脇の側机に置き、椅子から立ち上がって窓に近づく。


「星鳥さーん! 後で一緒にキャッチボールやろうよ!」


 すっかり元気になった冬馬が、ゆうと手を繋いでこちらを見上げていた。少し離れたところでは、あきらを連れた星野が律と話している。


 もう少しすれば星崎や星間も中里の見舞いに来るだろう。星崎は嫌がりそうだが、拝めばキャッチボールに付き合ってくれるはずだ。ひょっとしたら名取も参加するかもしれない。拓海は今頃、忙しく走り回っているだろうから、また休みの日でも誘うとしよう。


「これからも採取員を続けますか?」


 静かな問いに、しばし口をつぐむ。


 初夏の風が星鳥の頬を撫でていく。成層圏とは違う暖かくて優しい感触だ。このまま地上にいればデッキの外に放り出されて死にかけることも、星が取れなくて落ち込むこともないだろう。


 ――だけど。


「もちろん!」


 にっと口角を上げ、満面の笑みで答えた。


「先輩が驚くほど取ってみせますよ!」


 星を掴むように空に腕を伸ばす。


 希望はいつだって、この手の中にある。


 さあ、明日もあの星を追いかけよう。

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