あの星を追いかけて(11)
成層圏は相変わらず青い海をたたえて星鳥たちを待っていた。
いつもよりも吹き荒ぶ風で採取船がグラグラと揺れる。船外に一歩でも出れば振り落とされそうな乗り心地だが、ベテラン採取員たちが牽引してくれたおかげで、大きく流されることなく目的地まで到達することができた。
いつも通りに船の下部にデッキを設置し、採取スーツのハーネスから伸びた命綱を柵に取り付ける。
今日は風が強すぎるのでネットは張れない。己の腕だけが頼りだ。手の中の星取り網を握り締め、星崎たちと頷き合う。
「よし、後十分もすればあの辺りで星が発生するはずだ。焦らなくていいから確実に取ることを考えろよ」
まっすぐ前方を指差すベテラン採取員に、「はい!」と元気よく答える。
「必ず取って帰ります。ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました」
「いいってことよ。じゃあ、俺たちは戻るぜ。しっかり気張れや」
白い歯を見せた採取員たちが、星鳥たちの採取船に繋いでいたロープを切り離してゆっくりと下降していく。
広い成層圏に残ったのは星鳥たちだけ。
激しく脈打つ心臓を感じながら、船に取りつけたカメラに視線を向ける。
「見えますか、星野さん」
『うん。画質もバッチリ。みんなで見てるからね。しっかり取ってよ』
「任せてください!」
画面の向こうには星野の他に、冬馬や律、そして名取の姿もあった。彼らの背後には閉ざされたドアがあり、その上部にはICUと書かれたプレートが掛かっている。あの向こうで中里も戦っているのだ。星鳥たちが負けるわけにはいかない。
『星鳥さん……』
冬馬が泣きそうな顔で画面を覗いている。青ざめたその顔は初めて会った時の姿を彷彿とさせて、より星鳥の胸に火をつけた。
「すぐ戻るから待っててよ、冬馬くん。野球部で鍛えた腕を見せるからね。今度は病院の外で会おう」
『うん……!』
ひゅうひゅうと風が吹く中、星を待つ。
しかし、十分が経っても星が発生する気配はなかった。
画面の向こうで星野が緊張した表情を浮かべる。冬馬たちが不安そうに星鳥たちを見つめる。星鳥の左右に展開した星間と星崎も互いに目配せをしていた。
その中でただ一人、星鳥は前を見据え続けていた。
絶対に来る。
必ず、星を取って帰る。
祈りが通じたのか、五百メートルほど前方に緑色の光がチカチカと瞬いた。
間違いない。星だ。それも複数。
『星は死者の残滓』
不意に、嫌になる程見たニュースの声が脳裏をよぎった。
もしそれが本当なら、人の欠片で人を救いたいと思うのはエゴなのかもしれない。
星を使うことで、誰かを悲しませるかもしれない。
それでも。
『星鳥さん、気をつけて!』
――俺は大切な人のために、星を取る。
「来た!」
星鳥の声と共に、その場にいる全員の表情が一斉に引き締まった。反動で吹っ飛ばされないように深く腰を落とし、星取り網を振るう。
最初に取ったのは星崎だった。次いで星間も巧みに星を拾っていく。
星鳥も取ってはいたが、二人に比べては小さい。まだまだ経験の差を思い知らされる。
とはいえ、星は星だ。腰の簡易保管箱に移そうとした時、高速で飛来した星が星取り網の柄に当たり、後方に大きく吹き飛ばされた。
「星鳥!」
何度聞いたかわからぬ星崎の怒声。風に舞う木の葉のようにくるくると視界が回る。
デッキから弾き出されたのは初めてではない。冷静に星スラスターを起動して体勢を立て直し、残った推力を一気に噴射して星を追った。
『まるで流れ星みたい……』
ヘルメットのイヤホンから、夢を見るように呟く冬馬の声が聞こえた。
「っ!」
息が止まりそうな衝撃。手の中にずしりとした感触。見事着地を失敗してデッキ上を転がる星鳥に星崎が呆れた声を上げる。
「お前はホンマ無茶するやっちゃな!」
「育てるのは苦労するね、ほんと」
先輩たちの笑い声も今は妙に心地いい。
「――取った!」
頭上に広がる空に見せつけるように星取り網を高く掲げ、星鳥は勝鬨を上げた。




