あの星を追いかけて(10)
周りの視線が集中する中、グローブを外してスマホを取り出す。応答ボタンを押すと、間髪入れずに拓海の怒声が響き渡った。
『何をやっているんだ!』
いつもの冷静さを微塵も感じない。星鳥も負けじと言い返す。
「何やってるって、星を取るに決まってるだろ。俺は採取員なんだから」
『ふざけるな! お前が目立つことをしたから、事務所にデモ隊が押しかけて中里社長が怪我をしたんだぞ! その上で星を取ろうなんて自殺行為だ! 今すぐ戻ってこい!』
その場にいた全員の視線が今度は星野に集中した。星野は気まずそうに視線を逸らすと、「大丈夫よ」と自分に言い聞かせるように言った。
「……命に別状はないの。でも、ちょっと頭をぶつけちゃってね。今、病院のベッドの上にいる」
直感で嘘だとわかった。もし意識があるのなら、中里は必ず星鳥たちを見送ってくれるはずだ。
スマホを握り締めたまま、星崎と星間に視線を向ける。二人とも眉間に皺が寄っているものの、その下の目の力強さは失われてはいない。
もちろん、星鳥自身も。
「……それでも俺たちは成層圏に行く」
『燈矢!』
「前に俺に聞いたよね。どうして採取員になったんだって。正直に言うと、就職試験に全滅して他に行き場がなかったからだよ」
星鳥は唾を飲み込むと静かに続けた。
「――だけど採取員を続けているのは、きっとそれだけじゃないんだ」
目を閉じて冬馬の顔を思い浮かべる。患者たちを助けてくれと縋った名取の顔や、律の笑顔や、あきらや、ゆうの顔が次々と浮かんでは星鳥の胸を熱く焦がしていく。
ようやくわかった。ずっと考えていた答えは最初からここにあったのだ。
「俺が取った星で誰かの生活が成り立っている。星が未来に希望を繋いでいく。俺たちはただ星を取っているだけじゃない。俺が――俺たちが、この国のインフラを支えているんだ!」
それは研修の時に与野坂が熱弁した言葉だった。
拓海の目が大きく見開かれ、喉仏が上下に動く。
『耳を貸してはいけません!』
ドアが開く音と同時に画面外から複数の人間が駆け寄るのが見えた。おそらく古参の経営陣なのだろう。嗄れた声で星鳥たちを止めるようしきりに捲し立てている。
『星は死者の残滓なのですよ! 使えば反対団体が黙っていない。中里はITPの協力会社です。成層圏に上がったと知れたらITPにも責任が……』
『うるさい!』
画面越しでも空気がビリビリと震えるのを感じた。
『星は死者の残滓? 消費は神への冒涜? 今更、何を言っているんだ。綺麗事だけじゃ文明は維持できない。有史以来、人間はどれだけのものを犠牲にしてきた? すでに僕たちの足元は赤く染まっているんだよ!』
目を丸くしている社員たちを一人一人見渡し、拓海が大きく息をつく。長らく海中に沈んでいた生き物が地上の空気を取り込もうとするように。
『もし星が本当に死者の残滓だとしても、父が星になったなら遠慮なく使えと言うはずだ。あの人は星産業の発展を誰よりも望んでいた。それが未来を繋ぐと信じていたからだ』
『社長! それは暴論です! あなたのお父様がそうでも、他の人もそうとは……』
『そうだ! ITPの社長は僕だ! 助言は聞く。だが、誰にも邪魔はさせない。父の遺志は僕が継ぐ!』
額に脂汗を浮かせた社員たちに吠えるように叫ぶ。その目は夜空に浮かぶ星のように煌々と輝いていた。
『全国の核融合炉を今すぐ再稼働させろ! 星の搬入が済み次第、エネルギー化する準備を整えるんだ。燈矢が戻ると同時にITPも飛ぶ。今すぐ港湾に許可を取れ!』
拓海の号令の元、画面の向こうで激しく駆け回る音が聞こえる。
もう成層圏に飛んでも大丈夫だろう。拓海の一等星は確かに光を取り戻したのだから。
「行ってくるよ、拓海」
拓海はまっすぐに星鳥の目を見つめ、静かに笑った。
『ご安全に』




