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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 5章・あの星を追いかけて
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あの星を追いかけて(9)

 港に着くと、グレーの作業服を着た男が小さく手を振っていた。周りに報道陣やデモ隊はいない。港に停泊している採取船に爆発の恐れがあるということで、この辺り一体に規制線を張ったそうだ。さすがのデモ隊も自分の命は大事だとみえる。


 報道陣は遠くから様子を伺っているだろうが、もうすぐ夜の帳が下りる頃だ。街灯が切れた港を目視することは不可能だろう。


「こちらです、この裏から進んでください」


 守衛所の向こう側を指差す男の左腕には『星海市役所』と書かれた腕章がついていた。彼が中里の言っていた港湾管理者だろう。窓から顔を出した星間が男に頭を下げる。


「ありがとうございます。よく聞き入れてくれましたね」

「港を守るために封鎖しましたが、市長は根っからの星賛成派ですから。……それに、私にも入院している妻がいるんです」


 男に手を振り返し、車は中里エネルギーサービスの採取船を停泊しているドックに辿り着いた。中里から連絡を受けた同業他社はすでに中にいるらしい。色とりどりのワンボックスカーが入り口の前に停まっている。


「おう、来たか。馬鹿野郎どもが」

「気球は整備しといたぜ。ガスを注入すりゃ、いつでも飛べる」


 星鳥たちを出迎えたのは顔馴染みの採取員たちだった。みんな星の採取が本格化した頃から採取員を務めている猛者たちだ。星鳥がどれだけ逆立ちしても、彼らの経験に及ぶべくもない。


「星スラスターの残量も十分だね。これだけあれば風が強くても十分停泊できると思うよ」


 採取船をくまなく確認していた星間が表情を綻ばせる。その横でロッカーから取り出した採取スーツを広げながら星崎が頷いた。


「採取スーツも問題あらへん。後は予測軌道やな。社長が言ったように闇雲に成層圏に上がっても取れん危険がある。ある程度はアタリをつけていかんと」

「それは俺たちに任せてくれ」


 口元に深いほうれい線が刻まれた採取員の一人が手書きの地図を床に広げた。そこには星が発生する可能性の高い空域と詳細な予測軌道が記されていた。


「これ……AIの予測じゃなくて手計算? そんなことが可能なんですか?」

「三十年近くかけた経験の蓄積よ。先輩たちに聞いてないか? 星の予測軌道を読むのは採取員の必須技能なんだぜ」


 にっと歯を見せて笑った採取員が、床に跪いて呆然と地図を見下ろす星鳥の背中を勢いよく叩いた。


「成層圏で長く留まれるほど、俺たちの船には推進力が残ってない。だが、俺たちが必ずお前たちを星の近くまで連れていく。だから、中小企業の意地を見せてくれや!」


 胸が熱くなり、涙がこぼれそうになる。しかし、採取員に涙は厳禁だ。フェイスシールドを曇らせるわけにはいかないから。


「よろしくお願いします!」


 力強く頷き、星崎たちと採取スーツを身につける。久しぶりにまとった採取スーツは、まるで星鳥を待っていたかのようにしっくりと馴染んだ。


「じゃあ、そろそろ行くか。規制もそう長々としてられんやろうしな」


 天井のハッチが開き、満天の星空が星鳥たちを見下ろす。星間と星崎の後に続いて船に乗り込もうとした時、開け放していた鉄扉の向こうから息を切らせた星野が駆け込んできた。彼女の後ろには名取もいる。星野を連れて来てくれたらしい。


「待って待って、これも持っていって」


 駆け寄ってきた星野の頬はひどく汚れていた。事務所に飛び込んできた名取みたいに服にもかなり土汚れが付着している。


「どうしたんですか、その格好。まさかデモ隊に……」

「違うわよ。急いでて、ちょっと転んじゃったの。それより、これ。船に取りつける外部カメラ。これで成層圏の様子を写してくれたら、地上でも逐一様子がわかるからって」


 受け取ったカメラは事務所に保管していた記録用のカメラだった。成層圏の観測データを収集するため、たまに研究所から請われてつけるものだ。衛星を通してデータを送信するので映像もある程度鮮明である。


「ありがとうございます。社長は? 事務所にいるんですか?」


 星野の顔が一瞬だけ曇った。すぐにいつもの笑顔を浮かべたが、どこか無理をしている気がする。その様子に不審を感じ、問いを重ねようとした刹那、脱ぎ捨てたズボンのポケットの中でスマホが着信音を奏でた。


『与野坂拓海さんからビデオ通話を受信いたしました』

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