あの星を追いかけて(8)
「もう二度と来るなよ!」
怒り心頭の警備員に社屋の前に放り出される。
拓海の取りなしのおかげで警察には突き出されずに済んだが、目の前に餌を放り投げられた報道陣が見逃すわけもなく、星鳥に向かって一斉にカメラを向けてくる。電力が不足していてもなお、彼らは節電に協力する気はないようだった。
「社長の友人というのは本当ですか?」
「どうして警備員を振り切って中に侵入したんですか?」
フラッシュで目が眩んで何も見えない。そのうちに報道陣の一人が星鳥の正体に気づき、歓喜の声を上げた。
「星鳥? 星鳥燈矢さんですか?」
「巨大星を取った方ですよね。社内に侵入したのは星の採取を直談判するためですか? 今、この状況についてどうお考えですか?」
嬉々としてマイクを突きつけられる。今頃、彼らの頭の中はネットのニュースにどう載せようかということでいっぱいなのだろう。今にも反吐が出そうだった。
――こんなくだらない質問をする暇があったら、困っている人の声をもっと聞いてくれよ!
そう言い返そうとした瞬間、激しいブレーキ音が響き、すぐ近くに見慣れたワンボックスカーが停車した。
「このアホウ! 無茶しやがって!」
「先輩!」
素早く降りてきた星崎に首根っこを掴まれ、後部座席に押し込まれる。
星崎が乗り込んでドアを閉めたと同時に、星間が巧みにシフトレバーを操作して車を急発進させた。みる見みうちに小さくなっていく報道陣にほっと息をつく。もう少し遅かったら取り返しのつかないことになるところだった。
「うちが中小企業でよかったな。旧式のガソリン車に感謝する日が来るとは思うてへんかったで」
「先輩、俺、俺……」
「あかんかってんやろ? そりゃそうやわ。ITPの立場で自粛を撤回できるわけがないがな」
呆れたようにため息をつく星崎に星間も続く。
「星崎の言う通りだよ。星鳥の気持ちもわかるけどさ。情に流されて中里エネルギーサービスを潰すつもり? 社長も言ってたでしょ。心配しなくても、後数日もすれば」
「それじゃ遅いんだ!」
車内が一斉に静まり返る。
「社長も拓海くんも、みんな星産業が続く前提で話していますよね。でも、もし国が星を人間の欠片と認めたら? 前時代の発電方法に戻すまでにどれだけの機会が失われるんですか? 後、数日の話じゃない。星で命を繋いでいる人たちにとっては今が全てなんだ!」
星崎は何も言わない。言えないでいる。いつも星鳥を助けてくれる両腕を掴み、必死に叫んだ。成層圏にまで届くように。
「俺たちは星の採取員じゃないですか! こんな状況だからこそ、星を取らなくてどうするんですか! 俺を成層圏まで連れて行ってください、先輩!」
星崎が唇をかすかに開いたその時、車内にノイズ混じりの声が響いた。
『……くん。星鳥……く……ん』
外部と電話が繋がっていたらしい。星間が道の脇に車を停め、スマホの画面を星鳥に向ける。画面には『中里社長』と表示されていた。
『君の覚悟は十分に聞かせてもらいました。名取さんからも事情をお聞きしましたよ。例の少年の手術が延期になったのですね?』
「……はい」
唇を噛み締める星鳥の背を星崎が撫でる。相変わらず頼りになる手だ。それだけで何でもできるような気がする。
そんな星鳥の気持ちが伝わったのか、中里が『君の成長ぶりには驚きますよ』と続けた。
『今日は風が強い。スラスターがあるとはいえ、姿勢を維持するのは苦労するでしょう。星の予測軌道も読めませんから、たとえ上がったとしても一つも取れないかもしれません。それでも、成層圏に上がりますか?』
星間が星鳥の目を見つめる。星崎が背中を撫でる手を止める。
答えは一つしかない。
力強く頷き、「はい!」と答えた。
「上がります。上がらせてください。必ず星を取って帰ります」
『……わかりました』
電力不足の影響か声はひどく割れていたが、静まり返った車の中では明瞭に聞こえた。
『港は封鎖されましたが、星の採取自体が禁止されたわけじゃない。至急、市の港湾管理者に連絡を取ります。ここは星産業の発祥の地だ。彼らとて本心は星を取りたいはずです。同業他社にも声をかけましょう。そのまま港に向かってください』
「ありがとうございます!」
『君に賭けます。星鳥くん、後は頼みましたよ』




