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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 5章・あの星を追いかけて
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あの星を追いかけて(5)

 星野の声に応じ、星間がリモコンを操作する。映し出されたのは昨年の夏に研修したITPの大講堂だった。腕章をつけた報道陣たちが椅子という椅子を埋め尽くし、しきりにカメラのフラッシュを焚いている。


 そしてその一番奥、生前の与野坂が立っていた教壇に、一ヶ月前とは打って変わって幽霊みたいな顔をした拓海が現れた。報道陣に一礼し、夜空に似た瞳をただ一点に向けている。まるで、そこに誰かが立っているかのように。


『本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございました。先ほどSNSに投稿された論文につきまして、弊社に多数お問い合わせをいただいており、非常に業務を圧迫していることから、この場を借りてご説明とご協力のお願いをいたしたく、こうして会見の機会をいただいた次第です』


 詰めかけた報道陣に臆さず、拓海は壇上に置いた書類も見ずに朗々と語り出した。


 星を神聖視する星光教や、それを支える野党など、複数の星反対団体から連名で抗議文が出され、今この瞬間もITPの社屋や施設周辺でデモ運動が起きていること。


 運動を止めようとした社員が罵声を浴びせられ、あわや暴力を振るわれそうになったこと。また、該当の動画がSNSにアップされており、弁護士を通して削除申請を提出していること。


 同様に被害を受けた大阪と九州の大手二社と共同で政府に質問をしているが、まだ回答がないこと。


 投稿された論文は真偽不明で、かつ研究結果も憶測の域を出ないものであり、政府の正式な見解が出るまでは軽はずみな行動は謹んで欲しいこと。


 やがて拓海の説明が終わり、現場は記者たちの質疑応答に移った。矢継ぎ早に飛ぶ質問に拓海は澱みなく答えていく。しかし、最後に手を挙げた記者の発言に星鳥たちは一斉に凍りついた。


『今後も星の採取を続けますか』


 講堂内に沈黙が降りる。


 激しくフラッシュが瞬く中、拓海は重々しく口を開いた。


『……政府の正式な見解が出るまで、ITPは星の採取を自粛いたします』


 星野の手からスマホが滑り落ちた。


 静まり返った部屋の中に、ガラスが割れる音が無情に響く。


 その時、星鳥は世界が変わる音を確かに聞いた。



 ***



「……ですか。しかし、それでは……ではありませんか!」


 応接室から中里の声が漏れ聞こえてくる。


 かれこれもう一時間は話しているだろうか。電話の相手は星海市の役人だ。外はとうに暗くなっているが、誰も帰ろうとはしない。帰ったとて、とても落ち着かないだろう。


 つけっぱなしのテレビは繰り返し星のニュースを放送している。SNSも不安と疑問の声でいっぱいだ。ITPがいち早く記者会見をしたというのに、政府がまだ沈黙を保っていることもそれに拍車をかけていた。


「社長が声を荒げるところ、初めて聞きました」

「俺もや。まあ、荒げたくもなるやろ。星産業の存続に関わることや。大手だけじゃなく中小も混乱しとる。ITPが採取を自粛するっちゅうことは、俺らが取っても売る先がないっちゅうことやからな」

「ITP以外に売ることはできないんですか? 確かに購入数は桁違いですけど、ゼロになるよりは……」

「どこも買わへん。ちゅうか買われへんのや。SNSの動画を見たやろ? 今、下手に星に関わったら反対団体の餌食になってまう。だから役所も港を一時閉鎖する言うとんのや」


 星崎は組んでいた腕を解くと星鳥に人差し指を向けた。


「ええか? 俺らも他人事とちゃうぞ。採取員ってだけで何されるか分からんのやからな。特に星鳥は去年目立ってしもうたんやから、外出する時はマスク必須や。信頼できる知り合い以外には極力顔を晒すなよ」


 ひく、と喉が鳴る。去年はあれだけ流星群に沸いていたのに、たった一年でこんなに変わってしまうなんて想像もしていなかった。


 記者会見の拓海の姿が脳裏によぎる。何度かメッセージを送ったものの、返事はないままだ。中里が電話をかけても繋がらないらしい。会社の共有アドレスに協力会社に宛てたメールが届いたが、記者会見の内容となんら変わりはなく、当面星の買い上げを行わない代わりに幾許かの補償金を出すというものだった。


「……ITPが星の採取を自粛するとは思いませんでした」


 ポツリと呟いた言葉に星間が反応する。


「社員に被害が出ている以上、仕方ないよ。拓海くんには従業員の安全を守る責任があるんだから」

「拓海くんも辛いわよね……。本当は自粛なんてしたくないはずよ。与野坂さんなら絶対にしないもの」

「社長に就任したばかりだったのも痛かったよね。若くて経験が浅いってだけで聞く耳持ってもらえないだろうしさ。古参の経営陣に多数決で押し切られた形じゃないかな」


 四月に会った時、拓海が『社内も二分している』と言っていたことを思い出す。


 記者会見を終えて大講堂から退出する際、拓海は強く唇を噛み締めていた。どれだけ悔しかっただろう。与野坂が星について熱く語った場で星の採取自粛を宣言するのは。


「このまま星が取れなかったら、どうなるんですか? 補償金が出るといっても、そう長くは続かないですよね?」

「うちはまだ巨大星の貯金があるから、しばらくは持つだろうね。でも、他のところはキツイだろうな……。自粛が長く続けば廃業するところも出てくるかもね」

「それもそうやが、これから夏が来るのに採取なしで電力持つか? 星は二、三週間で自壊しよるし、溜め込んだエネルギーや電気もそう長くは持たんやろ」


 星間が重々しくため息をつく。


「それまでに政府の見解が出ることを祈るしかないね」

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