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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 5章・あの星を追いかけて
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あの星を追いかけて(3)

「うう……もう限界……子供の体力やっば……」

「子供は風の子って本当だよね」


 よろよろとベンチに戻った星鳥を律が温かく迎える。グローブには限りがあるので交代で参加しているのだ。隣には拓海もいる。彼は球技があまり得意ではないようで、もっぱら子供たちの撮影係になっていた。


「案外体力ないな。野球部だったんじゃないのか? 今も現役採取員なのに」

「そういう拓海くんも星産業の社長なのに球技苦手じゃん。お互い様だよ」


 頬を膨らませ、二人の間に割り込むように体を捩じ込ませる。そんな星鳥に律が笑顔で湯気の立つカップを差し出してくれる。


「はい、あったかい紅茶持ってきたから飲んで。生姜は大丈夫だよね?」

「うん。ありがとう律ちゃん。ああ、染みる……」


 じんわりと両手に広がる熱にほっと息をつく。目の前では星野兄妹と冬馬がキャッチボールに興じている。病院に許可を取った時、激しい運動は控えてくれと言われたので、走らなくても済むようにと思って選んだのだが、どうやら正解だったようだ。


「腎臓移植か……。上手くいくといいな」


 拓海は父親を亡くしたばかりだから特に気になるのだろう。


 星鳥にお代わりを注ぎながら律が答える。


「今は予診や麻酔管理にAIを使うし、成功率は高いと思うわ。六月ならギリギリ電力も安定しているはずよ。この病院には簡易核融合炉もあるから、よっぽどのことがない限り手術が延期することはないと思う」

「詳しいね、律ちゃん」

「燈矢くんには言ってなかったっけ。私、医療機器のメーカー勤務なの。だから病院がどんな設備を持っているか、ちょっとだけ詳しいのよね」


 星の核融合は原子力発電の四倍のエネルギーを生むが、AI技術の発展や電子機器の普及により、電力の供給事情は前時代に比べて安定しているとは言えなかった。


「AIが電力を食うんだよな」


 拓海の言葉に律が頷く。


「そうそう。夏は冷房も使うしね。星の長期保管が実現していない以上、エネルギー化にも限界があるし、どうしても電力不足になっちゃうのよ」

「そのためには燈矢に頑張ってもらわないとな。少しでも質のいい星を取ってくれよ」

「が、頑張るよ」


 引き攣った笑みを浮かべた時、ボールが足元に転がってきた。


 座ったまま拾い上げて投げ返す。「ありがとー!」と声を上げたゆうが、グローブを嵌めた手をぶんぶんと振った。


「律ちゃんも、やろーよ!」

「おっ、負けないよー。こう見えても学生の頃はソフトボール部だったんだから」


 律がグローブを手にゆうたちの元へ駆けていく。楽しそうに子供たちとはしゃぐ笑顔には歌舞伎町で見せた悲しみは残っていない。星鳥経由で事情を聞いていた拓海が唇を綻ばせた。


「中岡さん、だいぶ元気になったみたいだな」

「うん。今日誘ったのも気分転換になればいいと思ってさ。それに、拓海くんと話もしたかったんだ」

「僕と?」


 拓海が目を丸くする。


「社長業はどう? 大企業の舵を取るのは大変でしょ」


 少し間を置いて、拓海は呟くように答えた。


「……大変だよ。インフラを支える責任は重いし、多くの社員を抱えている分、舵取りも一朝一夕にはいかない。こんなに早く後を継ぐことになるとは思っていなかったから、経験も圧倒的に足らないしな。毎日、父の偉大さを思い知らされてる」


 端正な横顔には疲労が色濃く浮かんでいた。


「星反対—!」

「星の使用は神への冒涜だ! 今にバチが当たるぞ!」


 拓海にどう返すべきか言葉を探していると、白い壁の向こうを星反対団体が通り過ぎた。星産業を牽引していた与野坂が亡くなってから、より活発化している気がする。


 主義主張を叫ぶのは結構だが、何も今でなくていいだろう。タイミングの悪さに自然と剣呑な目つきになる。


「病院の前でやるのはやめて欲しいよな。子供もいるのに。あれ、どうにかなんないのかなあ」

「……難しいだろうな。ITPの社内も二分しているぐらいだから」

「えっ、ITPが? どうして?」

「ITPは元々、原子力発電と火力発電を主としていたからな。古参の社員を中心に原点回帰の声が根強いんだ。今までは父がいたから表面化しなかっただけで、火種は至る所に転がっている。燈矢も気をつけろよ」


 真剣な眼差しを向けられ、ごくりと喉が鳴る。しかし、すぐに気を取り直して笑みを浮かべた。星鳥が不安がっていたら拓海も安心できないだろう。たとえどこに火種が転がっていようと、星鳥は星を追うまでだ。


「俺は頼りになる先輩たちがいるから大丈夫だよ。拓海くんこそ無理してない? 頼りにならないかもしれないけど、何かあったら言ってよ?」


 拓海は黙って頷くと膝の上で両手を組んだ。


 それはまるで、何かに祈りを捧げているような仕草に見えた。


「大丈夫だ」


 ゆっくりと顔を上げ、星鳥をまっすぐに見つめる。


「僕は『海を開拓するもの』だからな。星の海だって開拓してみるさ」

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