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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 4章・星野あかり
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星野あかり(9)

「もう! 知らない人にはついて行っちゃダメってあれほど言ったでしょ!」

「ごめんなさい……」

「まあまあ、お母さん。ゆうちゃんもお母さんにもう心配かけちゃダメだよ」


 優しげな婦人警官に見送られ、取調室を後にする。


 ここは星海市の治安維持を一挙に担う本署だ。ゆうを見つけてから実に二時間ほど経っていた。幸いなことにゆうに怪我は一つもなく、山口に連れまわされていたショックもすでに落ち着いているようだった。


 山口は通学路で呼び止めたゆうに星野と二人で写っている写真を見せて安心させた後、「お母さんと仲直りしたいから、クリスマスプレゼントを選ぶのを手伝って」と嘘をついてモールに連れ出したそうだ。スマホは知らない間に抜き取られていたらしい。


 最初は山口も優しく、星野との思い出を語ったり、お菓子をご馳走したりしてくれた。しかし、ゆうがそろそろ帰りたいと漏らした瞬間に豹変して無理やり連れて行こうとしたので、咄嗟に公園のジャングルジムから飛び降りて転倒通知を送信したのだという。


「なんて無茶なことを……。一体誰に似たのよ」

「ママだよ。だって私、ママの子供だもん」


 あっけらかんという娘に苦笑する。


 山口がゆうと接触したのは子供が恋しくなったからではなく、横領した金を補填するために星野の実家に身代金を要求しようと考えたからそうだ。


 星野がまだ東京にいる時点で実家とは縁が切れたままなのだと、よく考えなくてもわかりそうなものなのに。あんな男に一度でも熱をあげた自分に呆れてしまう。


「あ、ママ。星間くんだよ。待っててくれたんだね」


 小さな指が差す先にはスマホに目を落とした星間がいた。先に事情聴取を終えたのだろう。背の高い星間には待合所の長椅子は窮屈そうだ。


「星野さん、ゆうちゃん、二人ともお疲れ様」


 星野たちに気づいた星間が大きく手を振った。それに応えながら長椅子に駆け寄る。


「社長は星崎に連れて帰ってもらったよ。星鳥と律ちゃんも、星野さんちであきらくんとご飯食べてるって。拓海くんもまだいるみたいだよ」


 こちらが質問する前に聞きたいことをすべて説明してくれる。さすが中里エネルギーサービスのエースだ。そつがない。


「お巡りさんとお話し終わったの? 怒られたりしなかった?」

「ゆうちゃんは優しいね。俺は大丈夫。手は出してないしね。そっちはどうだった?」


 優しい目で見上げる星間に安堵しながら答える。


「山口はしばらく外には出られないだろうって。どうも他にも余罪があったみたいよ。少なくとも、ゆうが独り立ちするまでは安心できそう」

「そっか。よかった。星野さんにいなくなられると困っちゃうからね。俺も殴られた甲斐があったってもんだよ」


 星間の頬にはガーゼが貼られ、切れた唇にはまだ血が滲んでいた。痛々しい顔に胸が締めつけられる。自分のせいだから余計にだ。


「ごめんね、星間くん。怪我させちゃって……」


 そっとガーゼに触れて顔を覗き込む。


 星間は何故か嬉しそうに瞳を輝かせた。ゆうも。


「いいよ、慣れてるから。もう家に帰るよね? 車回してくるから玄関前で待ってて」


 満面の笑顔で物騒なことを言い、星間が外へ駆けていく。その背中を黙って眺めていたゆうが星野を手招きして耳元で囁いた。


「新しいパパは星間くんがいいな。イケメンだし」


 面食いなのも星野に似たようだ。


 吹き出しながら玄関を出て夜空を見上げる。


 一際大きな一番星が紺色のベールの中で瞬いていた。

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