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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部・1章 星鳥燈矢
2/5

星鳥燈矢(1)

星鳥(ほしとり)ぃ! 何やってんねん、アホウ!」

「すみませんっ!」


 イヤホン越しに聞こえる星崎の怒号に肩をすくめる。


 必死に星取り網を振るうものの、星はすぐ横を次々とすり抜けていく。星の採取は採取船の下部に設置した採取デッキの上で行うのが基本だ。逃した星は薄緑色の筋を残してあっという間に成層圏の彼方に消えていった。


 ――また失敗した。


 分厚いグローブ越しに星取り網をぎゅっと握り締める。


 星取り網は星を取るために特化された採取器で、見た目はホームセンターで売っている虫取り網によく似ている。


 使い方もほぼ一緒だ。世の中の多くの男子の例に漏れず、星鳥も夏休みになると網を片手に蝉を求めて駆けずり回った。だから使い方は熟知しているつもりだったし、シミュレーターでも何度も練習したのに、星を前にするとどうしても体が固まってしまうのだ。


 己の情けなさに大きくため息をつく。そのせいでヘルメットの強化プラスチックの内側が白く曇り、視界がゼロになってしまった。


 この状況で周囲を見失うのは命取りだ。採取デッキには柵が張られ、採取スーツと太い命綱で連結されているとはいえ、吹き付ける偏西風に晒され続けるとすぐに体勢を崩してデッキから転がり落ちてしまう。


 最悪外に放り出されたとしても、腰に取り付けた星スラスターの推力を使えば戻ってはこられるが、ただのミスでいちいち高価な備品を消費していられない。


「やばいやばい、また怒られる……」


 慌てて口を閉じ、曇りが消えるのを待つ。マイナス五十度にも達する成層圏といえど、宇宙服に似た完全密封の採取スーツの中はもう汗まみれだ。


 水冷チューブで常に温度が一定に保たれてはいるが、激しく動くとまあまあ暑い。背中に重い酸素タンクを背負っているから尚更だ。


「星鳥! お前、またフェイスシールド曇らせたな! ため息つくなて何度も言うとるやろ!」


 イヤホンからは相変わらず星崎の怒声が聞こえてくる。しかし不甲斐ない後輩に怒る合間にも、彼は確実に自分の仕事を果たしている。


 星崎の動きには無駄がない。星が飛んでくる方向を予測して、さっと網を差し出す。それだけで星は面白いように網へ吸い込まれていく。採取率はほぼ百パーセント。さすが中里エネルギーサービスのエースだ。


 ――いつになったら一人前になれるんだろう。


 そう心の中で独りごちる。就職して三ヶ月が経っても、星鳥はまだ一度も星を取ったことがなかった。いくら温和な社長といえども、このままではクビになるかもしれない。


 星、それは四十年前に突如現れた正体不明のエネルギー物質だ。夜空に浮かぶ星と見た目が酷似しているため、便宜上「星」と呼ばれているが、もちろん別物である。


 大きさは平均してピンポン玉程度。偏西風の影響を受け、成層圏内を西から東に時速百五十キロ以上の速さで飛ぶ。


 発生原因は不明。主成分は隕石と同じケイ酸塩鉱物であるが、わずかに地球上の有機体と未知の物質Xを含んでおり、抽出した原子核を核融合させることで、前時代の原子力発電を遥かに上回るエネルギーを生成することができる。


 社長からは未知の物質が量子トンネル効果を強制的に増幅させるとか何とか教えてもらったが、理系ではない星鳥にはよくわからない。


 わかるのは、星は低温による核融合が可能で核廃棄物も出ないため、次世代を担うエネルギー源として広く利用されているということだけだ。


 星鳥たち星採取業者の仕事は、より良質で大きな星を採取して顧客に販売することである。顧客は仕入れた星を核融合炉でエネルギー化し、そのエネルギーを用いて発電した電気をさらに先の顧客に販売する。


 そう。星とは今や世界中のインフラを支える大切なものなのだ。星鳥たちが二、三時間といえども成層圏に留まれるのも、従来のイオンスラスターに星エネルギーのバッテリーを組み合わせた星スラスターという推進力があるからである。


『本日の業務は終了です。お疲れ様でした』


 ようやくシールドの曇りが消え、自由に動けるようになった時、船に搭載されたAIの涼やかな音声が耳に届いた。

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