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あの星を追いかけて  作者: 遠野さつき
第1部 1章・星鳥燈矢
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星鳥燈矢(10)

「お疲れ様—!」


 星野の号令の下、勢いよくジョッキをぶつけ合う。仕事終わりの一杯がこんなに美味しいのは初めてだ。どんどん運ばれてくる料理を前に星鳥は満足感に浸っていた。


「本当によく頑張ったね! おかげで創業以来の大黒字! ボーナスも奮発してくれるって!」


 満面の笑みを浮かべる星野の隣で目を細めた中里がうんうんと頷いている。その隣には星間、向かいには早々とジョッキを空にしておかわりを頼んでいる星崎の姿があった。


 星が直撃したのに酒なんか飲んで大丈夫かと心配になるが、体調に変わりはなさそうだ。


 地上に戻った後、夜間病院に担ぎ込み、当直の医者が顔をしかめるぐらいしっかりと診てもらったが、幸いにもヒビ一つなく少し重めの打撲で済んでいた。


「それにしてもさあ。星鳥の取ったやつ、すごかったよね。あれだけでもう一個事務所建てられそうだよ」

「エネルギー省の人も目を丸くしてたもんね。全国ニュースにも取り上げられてさ。一躍、有名人よね」

「どんな研究結果が出るのかなあ。楽しみだね。これで就職希望者がもっと増えるかもよ。お手柄だよ、星鳥」


 チヤホヤしてくれる先輩たちに、頭を掻きながら微笑む。ニュースを見た友人や知り合いからもガンガン連絡が入っていた。拓海からも安否確認のメールがいくつか届いている。


 それに――。


『ナイスキャッチ』


 たった一言。無愛想の極みみたいな文面。相変わらずだなと思いながら、ボールを咥えた間抜け面の犬のスタンプを返す。向こうもまだ起きているらしい。四年前から途絶えていたSNSのトーク画面に新しい既読マークがついた。


 この気持ちを言葉にするのはまだ気恥ずかしい。拓海に言ったように、そのうちこちらから連絡をしてみよう。最初に話すのが『ごめん』なのか、『ありがとう』なのかは決めかねている。


「せやけど調子に乗んなよ。まだまだヒヨッコなんやからな」


 いつも通りのぶっきらぼうな口調。けれど、その目はとても優しかった。


 今回はたまたま上手くいっただけで、一歩間違えれば死んでいてもおかしくなかったのだ。スラスターの使い方だって全然なっていなかった。とても今の星鳥では星崎みたいに星がぶつかる直前にスラスターを噴射して衝撃を殺すなんて芸当はできそうもない。


 星の採取も結局巨大星一個だけだ。いくらニュースで取り上げられても、己の稚拙さが全世界に公開されている恥ずかしさの方が勝っていた。


 星崎の言う通り、まだまだ星鳥には経験も技術も足りない。


 深呼吸し、両手を膝に乗せて頭を下げる。


「わかってますよ。これからもご指導よろしくお願いします、先輩」

「妙に素直やんけ。――まあ、これからもビシビシ鍛えたるわ」


 星崎がジョッキを掲げる。星鳥もそれに応えて笑顔で酒を酌み交わす。


 頬が熱いのは、きっと酔っているだけじゃない。頭の中がふわふわとして、まるで宇宙空間を漂っているようだった。

 


 ***



「ご馳走様でーす!」


「いえいえ。こちらこそ、大成果をあげていただいてありがとうございます。これからも期待していますよ」


 レジ前で財布を鞄にしまいながら中里が鷹揚に頷く。お酒と料理でお腹はもうパンパンだ。満足げにお腹をさする星鳥に星崎が呆れた声を上げる。


「お前、奢りやと思ったらホンマに遠慮ないな。星間もよう飲むけど、それ以上やで」

「はは、俺、歳下に負けるの初めてだよ。でも、まだ星野さんには敵わないよね」

「ほほほ、精進しなさいお坊ちゃんたち」

「僕はお酒が弱いから羨ましいですねえ」


 ほろ酔い気分のまま居酒屋を出る。空には相変わらず星が瞬いている。


 時刻は午前三時。後一時間もすれば徐々に明るくなっていくだろう。


 夜風に当たりながら目を細めていると、電信柱の影からこちらをじっと見つめる男の姿に気づいた。深夜といえど、周囲は流星群の興奮で沸いていて、他に注意を払う人間はいない。酔っ払いだろうか。それにしては目つきが不穏な気がする。


「おい、星鳥。行くぞ」


 声をかけようかと思ったところで先を行く星崎に呼ばれ、慌てて駆け出した。


 背中に刺さるような視線を感じながら。

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