星鳥燈矢(9)
そこに浮かんでいたのは通常よりも遥かに大きな星だった。いつもの星がピンポン玉ぐらいだとしたら、あれは野球のボールぐらいある。
「きょ、巨大星です! 巨大星がこちらに向かってきます! 観測史上、ここまで大きなものは初めてです!」
興奮したアナウンサーががなりたてる。周囲の採取員も目を奪われたように立ち尽くしていた。
「あ、あかん! あれがぶつかったら、ネットが破れてまう。そうなったら全部台無しや!」
珍しく焦った様子の星崎を見て、ようやく我に返った。こうしている間にも巨大星は刻一刻と近づいてくる。
全部駄目になる?
みんなが頑張って取ったのに?
俺はまだ、何一つ成し遂げていないのに?
そう思った瞬間、頭の中がスッと冷えた。
握り締めていた星取り網を星崎に手渡し、腰のポーチからグローブ型の採取器を取り出した。
風で飛ばされないよう慎重に左手のグローブの上から装着する。これは星取り網が破れた時の保険で、野球のミットみたいな形をしている。つまり星鳥には使い慣れた道具だということだ。
「……おい、お前何考えてんねん?」
意図を察した星崎が星鳥を止めようと手を伸ばす。それをすり抜け、星鳥は一人ネットの前に立ちはだかった。
「あかんて、無茶すんなや! おい!」
痛みで体が上手く動かせないのだろう。空中を泳ぐように両手を掻く。それを見た星間が自分の持ち場を離れ、再び星崎の元に駆け寄るのが視界の端に見えた。
巨大星の軌道上に陣取り、左手の採取器を構えて腰を落とす。
目の前に広がるのは、あの日の試合会場だ。向かってくるのは打主に打たれたボール。
そう、対象をよく見て。決して目を逸らしてはいけない。
――最後まで、獲物を捉えるんだ。
「星鳥ぃ!」
星崎の叫びと同時に、腕に鈍い衝撃が走った。
放物線を描いた体がネットを越えて一気に後方に吹っ飛ばされる。
周囲からいくつも悲鳴が上がり、視界がぐるぐると回転する。
けれど、頭の中はやけに冷静だった。星の採取に事故はつきもの。今まで先輩たちに教えてもらった緊急避難の方法が脳裏を駆け巡り、咄嗟に星クラスターで姿勢を制御した。
頭上には輝く星々。足元には広がる地球。
そして、あの日感じることのできなかった確かな手応え。
ジンジンと痺れる手の中には、キラキラと光る薄緑色の塊があった。
「取った!」
雄叫びを上げ、巨大星を掲げる。
それはまるで、夜空に輝く一等星のように周囲を明るく照らしていた。
「誰か命綱曳くの手伝ってくれ!」
星崎の声かけで集まった採取員たちの手を借りて、ようやくデッキに戻ることができた。
星もしっかりとミットの中に収まっている。
星スラスターの容量は残り十パーセントを切っていた。放出量まで調整する余裕がなかったからだ。
もう少し投げ出されていたら危なかった。今更ながら心臓がバクバクしている。
「お前え! 心配させんなや!」
「怪我は? 手は大丈夫?」
割れんばかりの拍手と歓声の中、すかさず飛んできた星崎と星間に手荒く体をチェックされる。多少手は痛いが大したことはない。それよりも、初めて星を取れた喜びの方が大きかった。
「これで俺も一人前ですね!」
「まだまだじゃ、アホウ!」
目を潤ませた星崎に容赦無くヘルメットを叩かれる。
どこまでも続く成層圏の中に笑い声が響いた。




