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『黎明の理譚Ⅱ 〜記憶の理〜』  作者: 桜井りゅうと
第二章 記憶の泉と蒼の殿堂
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第三回 ー蒼の涙ー

朝靄が、静かに殿堂を包んでいた。

夜の光が去り、蒼い空気だけが、

薄く残っている。リュカは一人、


“記憶の泉”


の前に立っていた。

前夜に砕けた鏡の光は、もう跡形もない。

ただ、泉の表面がわずかに波打ち、

その奥から淡い蒼の光が滲んでいる。

彼は、そっと手を伸ばした。

だが、泉は沈黙していた。


「……昨日は、見せてくれたのに。」


声は、水に吸い込まれていくように消えた。

どれだけ覗いても、何も映らない。

まるで理そのものが

彼を拒んでいるようだった。


「……俺は……何を見たんだ……?」


リュカは膝をつき、

泉の水面に映る自分の顔を見つめる。

そこには、確かに


“恐れ”があった。


けれど、その奥には小さな決意の火もあった。



「……リュカ。」


背後から優しい声がした。

振り向くと、アリアとレアが立っていた。

アリアの手には、白い布が握られている。

その布は


“鏡の破片”


を包んでいるようだった。


「もう……無理はしないで。」


レアがゆっくり歩み寄り、リュカの隣に膝をつく。


「昨日のあなた……怖かった。

 まるで、別の誰かみたいだった。」


「……そう見えたかもな。」


リュカは苦笑した。


「でも、見たんだ。


 “俺じゃない俺”を。」


アリアがその言葉に反応し、静かに首を横に振る。


「理は、誰の記憶も否定しない。

けれど、見るべき時があるの。

あなたは、まだ


“その時”ではない。」


「……“その時”……?」


「ええ。理は常に選ぶ。

人を、場所を、


そして――


“瞬間”を。」


レアはアリアの言葉を聞きながら、

リュカの肩に手を置いた。


「あなたが信じられないなら、私が信じる。

だから、今は休んで。」


その言葉に、リュカはほんの少し笑った。


「……ありがとう。」



静寂の中、もう一人の足音が響いた。


「……ここにいたか。」


セイルだった。

彼は少し眠そうな顔をしながらも、泉の前に立つ。


「この泉……おかしい。」


セイルが呟く。


「昨夜までは、


“記録”


が流れていたはずなのに、


今はまるで――


眠っている。」


「眠ってる……?」


レアが問い返す。

セイルは頷き、泉の縁に手を触れた。


「……確かめる。」


そう言って、彼もまた水面に手を伸ばす。

波紋が静かに広がった。


すると――


空気が一瞬、変わった。

風が止み、殿堂全体が淡く光を放つ。


そして、水面の奥から――


重く、深い声が響いた。


『……継承者たちよ。』


全員が息を呑んだ。

その声は、水の底から届くような響き。

同時に、どこか懐かしい温かさがあった。


『記憶は、流れの果てに在る。


止まるな――


まだ、見ぬ理の彼方へ。』


声が途切れると、泉は静かに光を失った。

セイルが手を離し、深く息を吐く。


「……今のは……」


アリアが小さく呟く。


「――“水竜アクルス”の声。」


リュカとレアが顔を見合わせる。

セイルは泉を見つめながら、

その瞳に微かな震えを浮かべた。


「理が、俺たちを導こうとしている。」


リュカは立ち上がり、再び泉を見つめた。

もう何も映らない。

けれど、その沈黙が確かに

何かを語っている気がした。


「……行こう。

 あの声の意味を、確かめに。」


三人は静かに頷き合い、殿堂を後にした。

霧の向こうには、まだ見ぬ


“蒼の理の核心”


が待っていた。


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