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『黎明の理譚Ⅱ 〜記憶の理〜』  作者: 桜井りゅうと
第一章 蒼の都に揺らめく影
1/7

第一回 ー水への誓いー

風が変わった。

それは、炎の国を

越えた旅路の果てに、確かに


“別の理”


の気配を帯びていた。

山の稜線を下る細い街道。

霧を孕んだ風が、二人の髪を揺らす。


「……空気が違うね。」


レアが小さく呟く。


「乾いてた炎の風とは違う。

ここは、湿ってる。


まるで――


世界が息を潜めてるみたいだ。」


リュカはうなずきながら、

背中の絵本を撫でた。

表紙に刻まれた文様が、淡く


“蒼”


に光っている。


「絵本が反応してる。

たぶん、もうすぐだ。

次の理が呼んでる。」


「……理に呼ばれる、か。」


レアは少し寂しそうに笑う。


「炎の理を継いだ時、私は


“終わり”


だと思ってた。

でも、こうしてまだ旅をしてる。

ねえリュカ、理って……

どこまで続くんだろう。」


「わからない。

でも、止まったら


“終わる”


気がする。」


そう言ってリュカは空を見上げた。

雲がゆっくりと流れ、遠くで水音が響く。

その先に、薄い蒼の光が広がっていた。



やがて二人は、大きな滝の前にたどり着いた。

霧をまとった岩壁の間を、

幾重にも重なる水が落ちている。


「……これが、


“入り口”?」


レアが眉を寄せる。


滝壺の奥に、淡く光る紋章が浮かんでいた。

それは、竜の翼の形をした水の印。まるで


“試すように”


二人を見つめていた。


「ここを越えないと、

リヴェリスには辿り着けない。」


リュカは剣を抜く。


「“理の通行者”


は、勇気を証明せよ――」


その言葉が、滝の中から響いた。

水の壁が揺れ、二人の足元に蒼い紋が広がる。


――『恐れを越え、己を映せ』。


「……勇気の試練、か。」


レアが剣を構える

リュカの背を見つめる。


「行こう。」


「ええ。」


二人は同時に、水の壁へと踏み込んだ。

滝の中は、まるで別の世界だった。

光が反射し、無数の鏡のように

二人の姿を映し出す。その鏡の中から、声が囁く。


「お前は、何を恐れている?」


リュカは足を止めた。

鏡の中の自分が、問いかけてくる。


炎の理で救えなかった人々――


崩れる王国、消える灯。あの時の声が蘇る。


「……俺は、まだ……


許せていない。」


水が揺れ、鏡が砕けた。

その瞬間、滝の光が強く輝く。

レアが振り向き、リュカに手を伸ばす。


「大丈夫。

あの炎も、あの痛みも、

もうあなたの中に生きてる。」


リュカは頷き、彼女の手を掴んだ。

二人が再び一歩を踏み出すと、

滝の光が静かに割れ、向こう側に


“蒼の道”


が現れた。



水の道を抜けた先――


霧の向こうに、広大な湖が広がっていた。

水面に浮かぶ都市。

無数の橋が交わり、蒼の塔が月光を映す。


“蒼の国リヴェリス”。


静かな波音の中、人々の歌声が響いていた。

その調べは、まるで記憶そのもの

のように穏やかで、懐かしい。

レアが目を細める。


「……こんなに静かな国、初めて。」


「でも……どこか懐かしい。」


リュカの呟きに、絵本がまた光る。

その光に導かれるように、

二人の前へと人々が集まり始めた。


「“炎の理”


の継承者……


ようこそ、リヴェリスへ。」


長衣をまとった青年が、

水面の橋の上からゆっくりと歩み出る。


蒼の瞳、静かな声――


リヴェリスの継承者、

セイル=リヴェリス。


「君たちの記憶を、

ここで見せてもらおう。」


その言葉を最後に、

水面の光がひときわ強く輝き、

二人の影を包み込んだ。

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