第九幕:《本当の蛇足》
地獄の底には、まだ空がある。
君、知ってた?
砂の底からでも、月は見えるんだ。
少年は欲望の道具を捨て、
悪魔と共に、知性のまま立ち上がる。
やあ、君。ここは地下遺跡。砂に飲み込まれた砂漠の秘密だ。幼児はミルクを飲み続け、この子の謎は人の目には触れない。
ボクら以外は。
ほら、地上から大蛇が降りてくる。
松明の残り火の方へ這っていくぞ。
そこはファウストが、
奪った獲物を調べた場所だ。
彼らが手に入れたのは、魔術師の10個の指輪。蛇が残りを吐き出しす。
みるみるうちに、人の子の姿になる。
「ああ、痛い!変身の痛みなのか!」とファウストが叫ぶ。
「それとも、ボクが刺した痛みなのか」と裸の胸を撫でる。
「指輪も、そしてこれからランプさえ、ボクのモノになるんだ」と囁く。
彼の目は金色になっていく。
『ランプには触るな。指輪もはめるな。ファウスト。君の知性を腐らせたくたなければ』と悪魔がいう。
少年の手が止まる。
「なぜだ、メフィ。道具は使いようだ」
『これらは道具というより、呪いだ。依存させるためにある。愛のように』メフィと呼ばれた悪魔は言葉を続けた。
『こんなモノ、使わない方がいい。ランプもそうだ。君、知性を働かせなよ』
「...わかった」少年の鋭い知性が走る。
不機嫌な顔になる。
「欲望を叶え続けることで、
使用者に不必要なことさえも、
むりやり願わせる堕落の呪い。
目的は魂の堕落だ。強制的な。
ーーボクらには必要がない。」
少年は立ち上がると、
目の前の指輪を踏みつけた。
「ランプも触らない!」と宣言する。
「人間として、ボクは挑戦する。それで死ねたら本望だ。」
『君のような、賢すぎる子が好きだ』と悪魔が笑ってた。彼の口を使って。
『さあ、地上にでて、オレの身体を探さなきゃならない。』と悪魔がいう。
「あの後、どうなったの?」と少年が聞く。
『悪魔は死なない。でも、困った事がある。身体が勝手にうごく事がある。
残留思念だよ。』と言葉を濁した。
『動いてるのか、
止まっているのか分からない。
神のみだ。
全てを見通せる御方は』
少年は黙った。
神は貧乏人を放置する。
少年は下唇を噛み、
しばらくしたら顔を地上に向ける。
「空を見に行こう。
ボクらはやれる。
どこまでも。
どこまでも!」
宣言は、砂の下の虚空に日々にわたって消えていく。
これがボクらの見たものだ。
(第九幕の幕が少年の声の響きと共に閉じていく)
ボクはようやく気づいた。
真理とは、神のものでも悪魔のものでもない。
それを見ようとする意志こそが、人間の証だ。
ボクらは地上へ還る。
地獄の手前から、空の向こうへ。




