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第七幕: 《蛇のウインク》

「ねぇ、ねぇ、叔父さん。」

遺跡の奥から囁く声が聞こえる。

ファウストは暗闇の底で、

自分より狡猾な魔術師を試そうとしていた。

これは、少年が初めて“大人を試す”物語だ。

【第七幕】

「ねえ、ねえ、叔父さん。」と穴の中から声がする。

大地が裂け、中途半端に砂を飲み込んだ遺跡の入り口の穴から、囁くような声がする。


やあ、君。来たんだね。

月夜の闇に照らされた遺跡。

その周りにボクらと魔術師が座り込んでた。


第六幕で、少年を遺跡の中に押し込んだ魔術師は、ここで彼が持ってくるものを待ち望んでいた。


君がいない間、

ボクは調べていた。

なぜかって?

ボクも気になったのさ。

魔術師の正体が。


金銀財宝に囚われない先にある秘宝。

彼はそれを魔法のランプだとわかっていた。

このランプは、大した代償も無しで、無制限に近い願いをバカみたいに叶えるヤバいものだ。

少年の賢すぎる知性なら、必ず見つけられる。


いや、見つけてもらわなければ、

困るのだ。

ここまで来た利益がない。

そう魔術師は思ってた。


彼は砂の魔術師ジャファーと言って、

予言をもって、

利益を得ようとするケチな魔術師だ。


指輪の力に頼ってて、

対して知性を磨けてない。

悪魔のアドバイスが正しかった。

ファウストの知性とは違う。

借り物の知恵だから、

遺跡になんて入ったら即死だ。


「ねえ、ねえ、叔父さん。」と再び声がした。

魔術師の神秘的なベールをボクがはいたから、滑稽なものだ。

ゆっくりと穴の前に近づく。

「見つけたのか、ファウスト」と囁く。

「ええ、ええ、ランプを見つけました。どうか、手を、手を貸してください」と少年が囁き返す。

砂が遺跡の中に潜り込んでいる。

幼児がミルクを飲みなおすように、

穴に砂が大量に流れ込む。

「お前は真理を見つけたぞ。先に渡しなさい」


ファウストの手が止まる。

「ねぇ。ねぇ。叔父さん。ボクに証拠を見せてほしい。指輪の残りをボクに全てください。そしたら、ランプはあなたのものだ。」



「指輪の残り?」と魔術師はたじろく。


砂が小さく鳴る。まるで心臓の音みたいに。

「私の、私の指輪を?なぜだい?」と魔術師。

「ボクは俗な人間だから、証拠がほしい。全ての指輪をボクにはめて。早くしないと、全て砂に沈む。また奥へと戻す」と少年。

「この、この、クソガキめ!恩知らず!真理を求めると言ったじゃないか。ムスタファが、兄が聞いたら悲しむぞ!」

しばらくの沈黙。

「ボクに指輪をよこせ、魔術師」と唸るような響き。


魔術師は、指輪を彼の、ファウストの

手にはめていく。


手がゆっくりと砂に飲み込まれた。


代わりに現れたのは、金色の双眼。ま巨大な蛇が遺跡から頭を出した。

ズルズルと砂を這い、金色の目を輝かせて。蛇は胸から血を垂らしていた。

蛇が愛する者に刺された傷なんだ。


魔術師は唖然としていた。


ボクらも後ずさる。

蛇に睨まれたカエルは、きっとこんな感じだ。


【去れ、人間の魔術師。貴様の牙は失われたのだ】と慈悲をこめた声をだす。


魔術師は踵を返す。


蛇は、彼の背中を見届けると、そっと遺跡の中へと戻っていく。

ボクらにウインクして、うれしそうに。


こうして、ファウストの魂を受け継ぐ男は悪魔と共に深い地下へと残ることになる。

ファウスト。彼がどうなったのか?


ボクらは地下に潜らなかった。

怖くてできやしない。


こうして、物語は幕を閉じる。

第七幕は蛇のウインクで閉じたんだ。


魔術師の指輪が砂に沈み、

代わりに現れたのは金色の蛇。

その目に宿るのは、かつて刺した悪魔の光。

ウインク一つで、過去が繋がる。

ボクは理解した。――愛も、知も、裏切りも、同じ名をしている。

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