第六幕:《砂上の誓い》
悪魔を殺した少年は、
再び“知”を求めて砂の街へ戻った。
彼を迎えたのは、叔父ジャファー――
新たな導きと、新たな欺き。
ボクらは旅に出る。
真理という名の蜃気楼を追って。
やあ、君。前に咲いた赤い花が、君の心に残っていないか心配してる。
第五幕では、愛を知る悪魔をファウストが魔法のナイフを使って、計画的に彼を仕留めたことを話した。
ファウストは、
自分がもともと住んでいた貧困地区へと歩いている。
汚い塗装を踏みつけて、
彼は優雅に歩く。
ボクらには、鼻歌が聞こえてくる。
彼の鋭い目は、
人間の魔術に惹かれていた。
深淵こそ、彼を満たすかもしれない。金なんて、もはや意味がない。
純粋な真理探求。
彼の叔父はファウストに、
約束していた。
彼は少年を信頼して、
魔術師であることを明かした。
悪魔の話をした時、
彼をどう始末をつけるかを考えた。
計画は上手くいった。
悪魔を出し抜いた。
人間の知恵で。
彼は家の前につくと、
そこで瞑想している叔父に声をかけた。
「叔父よ。私はやりました。
悪魔を始末し、
真理探求への覚悟ができたのです」
叔父のジャファーは赤い外衣を目深に被り、その表情は分からなかった。
「ファウスト。悪魔は狡猾だ。
きわめて油断のならないケダモノだ。
君と私の知恵が彼を打ち破った。」
魔術師は顔をあげる。視線が少年とぶつかる。
「このために、
唯一神は私を遣わせたのだ。
君は救われた。」
その言葉に胸を撫で下ろす少年は期待を込めて彼に、「次は?」を聞く。
「ファウスト。これから、我々は遺跡の謎へと挑む。そこには秘宝が隠されている。だが、そこには選ばれた者しかいけない。」
少年は深く頷く。
この会話の後、
ボクらは街をでて三日三晩歩く。
赤の外衣をまとう魔術師の背中を、ファウストは追った。
彼も赤い外衣を身にまとう。
ボクらは、陽の光と月の光を交互に浴びて、夢をみる。
財宝の先の真理を。
ファウストが、途中、よろけても、
彼の叔父は無視して進む。
ゆらゆらは日が経つにつれ、どこか早くなる。
「ファウストよ。金銀財宝に目を囚われるな。金の輝きは永遠だろうが、知性の前では大した輝きではない。」
大地が裂けて、
中途半端に砂を飲み込んだような、
遺跡の入り口につく。
とても眠い幼児の口がミルクを飲み終えきれず、白液を垂らして眠りについたような穴だ。
ファウストは戸惑う。
「叔父よ。いつか砂で出入り口が閉じそうです。蟻地獄のような柔らかな砂は降りることも、登ることも難しい」
その少年の話を聞き、魔術師は何度もうなづく。
「悪魔に立ち向かった勇気を思い出せ。ファウスト。君には私の導きがある」
少年は片足を穴の中に入れ、
叔父の逞しい手をしっかりと掴む。
魔術師はしゃがみ込み、少年を遺跡の中へと押し込む。
単純な作業だ。
ズルーーズルーーと蛇が巣の中に潜るように、少年の身体は飲み込まれた。
え、ボクら?
ボクらは、ここに残りたいな。
君さえ良ければ待っていよう。
長い時が流れた気がする。
だけど次の位置は、たいして変わらない。少年がどうなったのか、君は気になる。
ボクは瞑想する魔術師を見つめてた。
彼の手の指から指輪が3個か消えていた。
(このように、第六幕は少年と共に地下へと閉じていく)
三日三晩歩いても、真理には届かない。
砂漠は沈黙して、ボクらの足跡を飲み込む。
それでも進むのは、愚かだからではない。
欲望の果てに、きっと“答え”があると信じていたからだ。