第四幕: 《幻視の訪問者》
ある日、ボクの前に“叔父”を名乗る男が現れた。
名はジャファー。赤い外衣に包まれ、
ボクの知性を愛するような眼で見つめてきた。
その視線の奥に、
ボクは初めて“人間の野望”を見た。
やあ、君かい。
前の話はドキドキしたね。
ボク、途中で惚けてしまってたよ。
第三幕では、ファウストと悪魔の出会いが背徳的な場所で行われた。
二人は意気投合したのだ。
こうなったら、話は早かった。
街で少年が神を否定し、
神を肯定した商人は少年にリスト化されて、悪魔から優先的に狙われた。
新しい商人が街に入ったら、
少年が予言をし、悪魔が狙う。
少年の人気は高まり、
知識を共有し、
悪魔に何割かの金銭を譲る。
この流れを構築した。
ファウストは、
街で博士のように扱われるようになる。
ファウストが17歳になって、
彼がある男を見つけるまでは。
その男は砂漠の国からやってきた。
目立つ赤い外衣を目深に被り、
ほぼ全身を覆っている。
ゆらゆらと身体を左右に揺らしているが、その体つきはがっしりとしていた。
ファウストは、スルタンの宮殿のバルコニーから彼を眺めた。
商人でもない。
旅人にしては、
赤い外衣が異様だった。
目立ちすぎる。
時折、赤い外衣から男の手が出る。
全ての指に指輪をはめている。
金持ちの道楽かと考えたが、
全ての可能性は否定された。
悪魔とも違う。
彼の動きは人間だ。
「魔術師もしくは錬金術師だ」とファウストの表情は歓喜に染まる。
まるで、恋する乙女のように頬を染めた。悪魔が近くにいたら、唾を吐いていたろうね。
高い所から、滑り降りるようにファウストは駆け出していた。
「待って!待ってくれよ!」とファウストは声をあげて、赤い男の背中に追いつく。
男は一瞬立ち止まって、
ゆっくり、本当にゆっくりと振り返る。
彼の目は、まるで顔中についているかのように思えた。至る所に目がある。
ファウストは、その目を見て胸が熱くなった。
勢いよく、走ったせいでもあるが、心臓を高鳴らせて、男にたずねた。
「あなたは、魔術師だ。そうだね?錬金術師なら、道具を多く持っている。彼らは旅よりも機材を使う。本で読んだことがある。父さんが、父さんが買ってくれた—」
「父さん?」と男が聞き返した。
「わたしが、君の父に似ていたのか?」と冷静さを込めて少年に返す。
「父さんは、ボクの自慢だ。でも、流行病で死んだ。あの女が殺したんだ—」
魔術師の目は彼を見て目を細めた。
「ぶっそうな話だな」と軽く笑う。
「君は誰だ?」と男はファウストに名を聞く。
ファウストは、一息ついてから答えた。
「閣下。私はアラジンと申します。
ですが、親しい者からは、ファウスト博士。またはドクトル・ファウストと呼ばれています。
閣下には、ぜひ、私をファウストと呼んでいただきたい」
男はしばらく黙った後、アラジンという名を繰り返した。
それから、ファウストに向かっていうんだ。
「よろしく、アラジン・ファウスト。
わたしはお前の叔父のジャファーだ。
お前を探していた。兄のムスタファは死んだのか。これは運命かもしれん」
ここで、ジャファーは一息つく。
「わたしがお前を導こう。お腹は空いてないようだな。肌が実に栄養に満ちてる。母のおかげか?」
「いいえ、母代わりの女は死にました。本当の母は覚えていないんです。それが私です」とファウストは吐き捨てるように言った。
(こうして、第四幕は母の愛を知らずに閉じていく)
悪魔の声が言った――「信用するな」。
だが、ボクは人を信じた。
神も悪魔も信じないボクが、
たった一人の人間を信じたのだ。
それが、この悲劇の歯車を回した。




