第三幕: 《背徳の晩餐》
君、覚えている? 初めて神に背を向けた夜を。
ボクは悪魔とテーブルを囲み、
理性をワインで溶かし、
純粋な思考を毒のように飲み干した。
それが知性の悦びというやつだった。
やあ、君かい。
ボクらは限りなく冒涜的な場所にいる。
商人の夜を満たす場所。娼館にいるんだ。そこはプライベートもへったくれもなくて、テーブルの上に、女の生足が突き出される。用意された二つのコップの位置が不規則にずれた。
第二幕では、黒髪の鋭い目をした少年ファウストは、街中の商人たちに対して、「神は君たちを助けない」と言い切った。
彼の知識を買う者は警戒を強め、
知識を買わない者は、この貧困地区の少年を追い払ったのだ。
そして、彼は裏社会の連中の一人と話をした。知識が欲しいと伝えた。
それが目の前の彼だ。
彼は目の前にいる金褐色の短髪をしたやけに美しい男だった。
この不潔で、うるさくて、背徳の場所には似つかわしない。
「オレの知識を金でね。曖昧だな」と男は目の前のコップを掴んで、口に運ぶ。
「オレがクソみたいな話で、お前をバカにするかもしれないぜ。ファウスト。君のことは、調べさせた...」と笑みを浮かべる。
「最近、親を二人も無くしたんだってな。かわいそうに...」
そう言いながら、ファウストの下唇に手を伸ばす。
「かわいそうに。君は街の中で、一人になった。知識よりも、大人がほしいんじゃないか?」
ふたたび、テーブルに女の足が突き出され、嬌声が響き渡る。リズミカルな動きがいたるところに鳴らされる。
「どうした?酒は飲まないのか?」と男は含んだ笑いをする。
男はグラスを差し出した。琥珀色の液体が、娼館の灯に揺れて光る
ファウストは答えなかった。
ただ、ゆっくりと男の目を見返した。
その瞳は、獲物を観察する蛇のように冷たい。
「あなたの知識を買いたい」と、再び言った。
声は震えていない。
彼は恐れてなどいない。
むしろ、この世界の汚れた熱に、
どこか惹かれているようにも見えた。
「欲しけりゃ盗め。欲しいモノが、目の前にある。かっぱらえばいい。それが盗賊だ。」と男は言い切った。
「お前が欲しかった知識だ。ありがたいだろ?」といい、酒を少し飲む。
「それは理想的な回答だ。実際には、もっと策を用意すべきだ。取り返されないためには。」とファウスト。
「殺せ。スッキリするぜ」
「それは継続的ではない。あなたは選ばない。もっと狡猾だ。ゆすり、たかり、口先だけ、それがあなたのやり方だ。どうやって、そんな言葉を得た?」
男の目が金色へとチラチラと変わる。
「あなたは盗賊を生き方として、選ぶ男ではない。」
「お前!俺を監視してたのか!?」と男は仰け反る。
「少し高いところから見ていた。あなたが、この街で、もっとも賢く狡猾だ。だから、知識が欲しいと思った」
男は唾を勢いよく床に吐く。女に夢中になってる男の足に少しかかる。
「不愉快だ。」と言った彼の目は金色に変化していた。
「その知性は、危険すぎる。俺はお前を殺さなきゃならん。」
「いいや、あなたは私を殺さない。あなたは、賢い。私を利用する方を選ぶ」
「バカな。お前が側にいたら安らげない。いつ寝首をかかれると怯えなきゃいけないんだぞ?」
「ーー人間ならば」
男の口は耳まで裂ける。笑ったのだ。
(こうして、第三幕は悪魔の歓喜にて幕を閉じる)
愛と知の区別がつかなくなった夜。
ボクは理解したんだ。
真理とは、決して清らかなものじゃない。
むしろ、罪を飲み干せるほどの強さを持つ者だけが、
その光に触れられるのだと。