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童貞魔王と第四皇女:その4…畑に種蒔きゃ芽が出るもので(2)

「さて…私のこれまでの経験から、女の妊娠期間中に対処しなければならない最優先事項があります」

「うむ、ご指導願おう」

「まずは早急に、マクシムが交合する相手を見つけなければなりません」

「なんでだ!?」


 妊娠が判って4か月が過ぎ、マクシムはシルフィアが懐妊した事を世間に公表し、当然のように大パレードを行った。側室でいえばマーマジネス海洋共和国の王女とは乾導法によって子を成しているのだが、やはり懐妊となると話は違ってくる。魔王国民は大半が好意的な反応を示し、その行く末に注目した。

 その後、ノームのノムグラス共和国から第八王女が輿入れしてきたのだが、祝賀ムードの中で交合の話は持ち越しとなっていた。


「マクシム、妊婦が一番避けなければならない事は何だと思う?」

「う~む……激しい交合か?」

「うん、想像通りの答えを有難う。安定した今なら大丈夫らしいけど、今回は初産(ういざん)で怖いから避けてほしいわ」

「うむ、判っておる。必死で我慢しておる所だ」

「ありがと。さて、話を戻すけど…妊婦が避けるべき問題は、ズバリ心労よ」

「心労?問題があれば何でも言ってくれ!」

「それをこれからお願いするんだって!」


 シルフィアは子犬の様に纏わりつくマクシムを両手で押し返した。


「私は初産だし、種族の違いもあるから不安が一杯です。けどこれは悩んでも仕方ありません。好きな男の子供だから頑張って産みます」

「う、うむ…その、なんだ………あ、ありがとう…」


 シルフィアの言葉にマクシムは真っ赤な顔をし、手を握りながら小声で感謝の言葉を述べた。その姿はまるで小さな子供のようだ。


「どういたしまして。さて、では他にどんな不安があるでしょうか?」

「………衣食住?あとは将来?」

「魔王の城に不満がある訳ないでしょ?…まぁ王族だから暗殺とかあるかもしれないけど、それは悩んでも仕方ありません」

「………駄目だ判らん。教えてくれ」

「一番の不安は、旦那の浮気よ」


 マクシムはシルフィアの言葉にキョトンとし、顎に手を当てて考え、眉に皺を寄せて問い返した。


「すまん、理解できん。先ほどは”交合の相手を探す”とか言ってなかったか?」

「だからよ?知らない所で浮気されるより、計画的に交合された方が安心するもの」

「そ、そういうものなのか…」

「もう4か月もしてないでしょ?自分で気付いてないかもしれないけど、あんた、目が血走ってるよ?欲求不満で気が迷い、それが本気になられたら悲しいもの。欲求を解消するための交合は許すべきだと、私は思うわ」

「俺は浮気はせん!」


胸を張って宣言するマクシムを、シルフィアが軽く握った拳で小突く。


「だから浮気は許さないって言ったでしょ?それに魔王のお仕事には子作りも含まれてるのよ?そろそろ他のお姫様にも手を付けないとね」

「むぅ……たしかに閣僚から”シルフィア以外にも寵愛を与えるべき”との意見が上がっているな…」

「でしょ?だったら私の安心、あんたの健康管理、国の安寧、お姫様達の面目躍如の一挙四徳なんだから、交合の相手を真剣に探しましょう!」

「お、おぉ~…」


 握った拳を力強く振り上げるシルフィアに対し、罪悪感のあるマクシムのソレは余りにも弱々しかった。その後、2人で話し合いが続き、次の条件で交合の相手を探す事になった。


①市井の女には手を出さない。

 マクシムが誘えば喜び勇んで了承する者もいるだろうが、それで子でも出来れば後継者争いの火種になる事は確実である。


②魔族の貴族とメイドには手を出さない。

 現在、マクシムは西方公爵のデモイラ・マクデゾン第三公女と婚約をしている。それを差し置いて他の貴族に手を出した場合、せっかく安定した魔王国内の勢力地図が壊れる可能性があるからだ。メイドが含まれるのは、現在働いているメイドの殆どが貴族の子女だからだ。身元がはっきりしていなければ宮中で働く事すらできないのである。


③シルフィアが候補を決め、マクシムが了承し、シルフィアが探りを入れる。

 今回の相手探しはシルフィアが不安を覚えない為であり、人選はシルフィアに一任する事にした。そして一応はマクシムの許可を得る。接触についてはシルフィア以外の女性に免疫を持たないマクシムでは話し合う事は難しいと思われ、仕方なくシルフィアが行う事になった。


以上の条件で考え得る候補は、次の3人となる。


第一候補:エルスペル首長国連合の第三王女、エフィリ・エルスペル。

 先の連合大使であるエフィリは現在、マクシムの側室である。つまりいつでも手を付けて良い存在だ。だがエフィリは2人の交合を覗く事を至上とし、エフィリからの行動は皆無である。さらにこの4か月は交合を覗いていない為、シルフィアとも接触を持っていない。話し合いに持ち込めるかどうかも不安が残る。


第二候補:大ゴウディン魔王国の西方公爵、第三公女のデモイラ・マクデゾン。

 マクシムが即位した直後に婚約した女性。しかしマクシムですら話したことが無い。現在、魔王とマクデゾン公爵家は良好な関係にあるものの、公爵家から婚姻を急ぐ動きなどは無い。魔王の側室とはいえシルフィアから接触するのは難しいだろう。


第三候補:ノムグラス共和国の第八王女、ロノリー・ノムグラス。

 実はここが一番難易度が高い。輿入れしているのだから手を付けても良いのだが、問題は体格である。彼女の種族はノームであり、身長はマクシムの半分程度しかないのだ。見た目も幼く、人間でいう10歳前後だろうか。とてもマクシムの交合に耐えられるとは思えない。


(う~ん…とりあえず、エフィリを探してみるか…)


 シルフィアはマクシムの許可を得て、メイドを引き連れて魔王の城を探索した。人を使う事を考えたがマクシムの交合相手を探していると情報が漏れた場合、暴走する貴族が出ないとも限らないので諦めた。それに妊婦には運動が必要である。目的があれば散歩しやすいというものだ。


「うぅぅ…思ったより体力落ちてるなぁ…」


 娼館時代は雑用、皇女時代は礼法の練習などで身体を動かしていたが、輿入れしてからはマクシムとの交合以外で身体を動かしていない。ほんの30分程度歩いただけでも汗が滲んでくるが、これはこれで身体の血液が循環しているようで気持ちが良い。

 メイド達は連携しているのか、散歩途中にあるテラスなどで冷たい果実水などが用意され、シルフィアは水分補給をしながら運動する事が出来た。


 そうして広い魔王城を3日も捜索していると、中庭に建てられた巨大な温室付近でエフィリを見かけた。しかしその様子はどこか違和感があった。エフィリは整備された歩道を歩かず、木々の合間を隠れるように移動していたのだ。しかしエルフとは言えお姫様だからだろう、その隠密行動は一つも成功しておらず、逆に草木を揺らしてその存在をアピールしているようだった。エフィリからシルフィアが見えないだろうが、シルフィアからは丸見えだった。


(う~ん、声を掛けるべきか……しかし身を隠しているようだし…今日は私が覗く側に回るとするか!)


 マクシムとの交合を覗かれているシルフィアは、恥ずかしい姿を見られている恨みがある。機会があればエフィリをギャフンと言わせたいと思っていたのだ。

 シルフィアはメイドを手で制すると、ペタペタと鳴るスリッパを脱いで素足になった。そしてエフィリが向かっている温室に近付いてゆく。

 エフィリは木々の合間から抜け出すと、周囲を伺いながら温室へと入っていった。その人影が奥に消えるのを確認し、シルフィアも温室へと足を踏み入れる。


 後ろ手で温室の扉を静かに締めると、シルフィアは忍び足で温室の奥へと進んだ。温室の中は冬でも温かく湿度も高い。冷えかけた足裏が暖まっていくのを感じた。


 草花を縫うように整備された歩道を進むと、明るく開けた場所へと出た。そこには白亜の東屋(ガゼボ)が建てられており、そのベンチにエフィリが座っていた。そしてその対面の人物を確認した時、シルフィアは声を出しそうになってしまった。


(……二人は、どういう繋がりなんだろう……)


 そこにはエフィリと楽しそうに話す、デモイラの姿があった。

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