輝く彼女と、陰る僕
初投稿です。昔から漠然と小説を書いてみたいと思っておりました。拙い文章&ストーリーですが、よろしくお願いします。モチベーションが続く限りは続けたいと思います。
「……あなたにはもう、何も期待してないから」
その一言が、心のどこかでずっとくすぶっていた炎に、冷たい水をぶちまけた。
仕事から疲れて帰った深夜。照明を点けたキッチンに綾香の姿はなかった。冷蔵庫には、プロテインバーと炭酸水。
蒼馬は無言で湯を沸かし、カップ麺のフタを剥がす。静かな夜。食卓の向かいの席は、もう何ヶ月も空席のままだ。
結婚して数年。
SNSでの発信が話題を呼び、綾香は化粧品メーカーのPR案件をこなすようになった。やがて自身のブランドを立ち上げ、「時代の先を行く美容研究家」として業界の注目を集める存在に。
成功していく綾香に対して、蒼馬は都内のブラック企業で泥水をすするような日々。
生活の余裕は出た。タワーマンションにも住んだ。だが、夫婦の会話は減り、綾香の不在が「当たり前」になっていく。
それでも、蒼馬は信じていた。どこかで元に戻れると。
あの頃――小さなアパートで二人して煮物を作り、夜はマイナーな映画を二人で一緒に観ていた、あの貧しくも穏やかな日々を。
けれど、夜中のノートパソコンが全てを変えた。
綾香のSNSアカウントが開きっぱなしになっていたのだ。彼女はパスワードの扱いに無頓着で、いつもログインしっぱなしにしていた。
通知欄を辿ると、そこには見慣れない名前のDM。
「明日、会える?」
「君が恋しいよ」
「この間のホテル、また行きたい」
ページを開いてしまった指を、誰が責められるだろう。
カップ麺の湯気が、目にしみた。
深夜2時過ぎ、ヒールの音が玄関に響いた。
蒼馬は無言で立ち上がり、画面を差し出す。
「これ……説明してくれないか?」
綾香は、ため息をついた。
「またそれ? 浮気って言うほどのことじゃないよ。お酒の席のノリっていうか、さ」
「ふざけんなよ……!」
蒼馬の声が震える。
自分がここまで怒鳴ったのは、初めてかもしれなかった。
綾香は、笑った。
「……ほんと、器が小さいよね。そんなだから私の成功にも嫉妬してんでしょ?」
少しの沈黙だが果てしなく長く感じた。
そして綾香に何かに誘導させられている事に気づく。
「……俺に言わせたいのか。わかった。離婚しよう」
絞り出すように言った。
彼女は静かに、そしてうっすらと微笑んだ。
「――その言葉を待ってた。慰謝料でも何でも出してあげる。やっと自由になれるんだから」
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