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今夜新宿西口で  作者: 綾瀬大和
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第2話新宿恐怖の回

新宿の朝は、夜の狂気を洗い流すように静かだった。


事件から三日。由梨の葬式を終え、裕太はただ黙って日々を過ごしていた。職場復帰したファミマのレジ打ちは、どこか機械的だった。


「……温めますか?」


客の返事も聞かず、弁当をレンジに入れる。心の中の空洞は、あの夜から埋まる気配を見せなかった。


 


*** 


 


「おい!」


 そんな彼に、ある日、声をかけた少年がいた。


 「なにか手伝うこと、あるなら言ってくれよ!」


 突然現れたのは、ボサボサ頭にパーカー、目つきだけは妙にギラついた中学生――エイトと名乗った。


 「お前、誰だよ……学校は?」


 「バックレた! でもさ、あんた“千住の青鬼”だったんだろ? 俺、あんたみたいな伝説に会ってみたかったんだよ!」


 「……」


 くだらない。そう思った。でも――その真っすぐな瞳に、由梨がかつて見せた光が重なった。


 「おい坊主、伝説は過去のもんだ。今の俺は、ただのファミマ店員だよ」


 「でも、“伝説”にしかできないことってあるじゃん。あんた、由梨って人の仇、討ったんだろ? 俺、それ見てた。ネットで。かっけーって思った」


 


 裕太はため息をついて、空を見上げた。西新宿の空は、いつだってビルの隙間からしか見えない。


 それでも、青かった。


 


***


 


 その日の夜、裕太はエイトを連れて「西新宿の廃ビル」に再び足を運んだ。かつての“赤猿の本営”はもう静かだったが、牙城はいた。


 「珍しいな。……弟子でも取る気か?」


 「そんなんじゃねぇ。こいつが勝手に懐いてきただけだ」


 「エイトっす! あんたが牙城さんっすよね!? 超有名っすよ!てか、まだ未成年も弟子入りOKっすか!?」


 「……誰もそんな制度ねぇよ」


 吹き出す牙城の顔に、数日ぶりに笑いが戻っていた。


 そして彼は、裕太にそっと耳打ちした。


 「トー横の“残党”が動いてる。白狐はただの“先兵”だったらしい」


 「……まだ、終わっちゃいねぇのか」


 「お前が決めろ、裕太。戻るかどうかは。……ただ、あのガキが背負うには重すぎる世界だぞ?」


 裕太は横を見る。エイトは、壁に飾られた由梨の遺影を見つめていた。


 「誰かを守るってことは、誰かに守られた記憶があるってことなんだよね」


 ……こいつ、ただの不良ガキじゃねぇな。


 


***


 


 数日後。


 ファミマの前に、ひとりの女性が立っていた。背は小柄で、パーカーのフードを目深にかぶっているが、澄んだ瞳が印象的だった。


 「すみません、ここで働いてる……青島裕太さんって……」


 「俺だけど」


 「――由梨さんの、いとこです。なぎさって言います」


 裕太の心臓が跳ねた。由梨と同じ瞳だった。


 「会いたかった。……最後に、誰と一番笑っていたのか、知りたかったんです」


 渚の目は、泣いていなかった。でも、その奥にある感情が痛いほど伝わってきた。


 「……由梨は、笑ってたよ。最後まで、俺のこと、気にしてた。だから、もう俺は……逃げないって決めた」


 その夜、渚とエイトと三人で、職安通りの公園に座った。


 「一緒に探してる。由梨が遺した、“優しさの残り火”みたいなもんをさ」


 渚は微笑んで言った。


 「なら、私も少しだけ力を貸してもいいですか?」


 


 裕太の物語は、新たな始まりを迎えていた。


 拳ではなく、守るための覚悟として。


 




 


 翌朝。


 新宿駅西口。通勤客の波に紛れて、エイトは一人の若者を見つけた。


 「……あいつ、赤猿のマーク持ってる。けど、変だ。違う“気配”がするなんか黒い変なのを持ってっ.....」


 敵のグループのスパイを中島が走って会いに来た、「おい!聞いたか!敵の京極会がテロを起こってよ!夜の11時27分発の池袋行きが終わった瞬間らしい!今すぐ戦闘体制だ!」 


牙城は驚きもう一度中島になぜこうなったのか聞いた 中島は冷静に答える「俺たちレッドモンキーもそう 貧乏人嫌いな奴を潰すだけだ」


 




 


 かつての伝説、“千住の青鬼”は――今、仲間とともに、真の正義を探しにゆく。 

新宿西口――夜、午後11時47分。


電車の発車メロディが鳴り終わったその瞬間、地下ホームのどこかで“重く鈍い音”が響いた。


「……っ!?」


地下の空気が一瞬、押し上げられた。小さな揺れ。粉塵と金属の軋む音。

それは“事故”ではなかった。


爆発。


新宿駅、丸ノ内線ホームで起きた局所的な爆破だった。

だがそれは、“宣戦布告”だった。


 


*** 


 


「やはり京極会だ」


 その報せを、牙城はビルの屋上で聞いた。


 風のない夜だった。煙草の火だけが揺れている。


 「奴ら、ついにやりやがったか……テロまで手を出すとはな」


 「ここまで来ると、もう“ヤクザ”じゃねぇ。“戦争屋”だ」


 隣にいたのは、レッドモンキーの参謀格・関口。元暴走族の頭で、戦術と情報分析に長けた男だった。


 「京極会の狙いは、“新宿の支配”だ。それも昭和式の、暴力による完全な支配。俺たちが路上を守ってる限り、それは実現できない……だから、先に叩こうとしてきた」


 牙城は唾を吐いた。


 「守りに入ったら負けだ。こっちから仕掛ける」


 


***


 


「お前、来るのか?」


 新宿中央公園裏の路地に集結する赤スカジャンたち。その中心に、青島裕太がいた。


 「……来るに決まってんだろ。由梨がいた街を、こんな風にされて、黙ってられるかよ」


 その横には、エイト。背は小さいが、目は獣のように鋭かった。


 「俺も行くよ。俺、初めてだから、超緊張してるけど……だけど、誰かを守るって、そういうことだろ?」


 牙城は笑った。


 「よく言った、ガキ。なら一緒に来い。“地獄”ってやつを、案内してやる」


 


***


 


 京極会の拠点は、歌舞伎町の裏手、旧ラブホテル街に潜んでいた。看板もない、ただの雑居ビル――その地下に、“アジト”があると情報が入った。


 レッドモンキー、総勢18名。


 ナイフ、スタンバトン、催涙スプレー、防刃ベスト。全員が“素人殺し”の装備を纏っていた。だが、向かうのはヤクザ――本物の殺しを知る連中。


 「突入は2分後。俺と裕太は正面、関口班は裏口、エイトとマウスは上の階の監視カメラをハックし続けろ」


 「了解!」


 かすかな緊張の中――突入。


 


 ビルの階段を一気に駆け下りる。ドアを蹴破った先には、暗闇。そして――


 「来たな、サル共がよ……!」


 京極会の若頭・戸田。両腕に入った墨と、血のように赤い目が暗闇に浮かぶ。


 「よう、戸田。てめぇの趣味、変わってんな。公共施設に爆弾とは」


 牙城が嘲るように言うと、戸田は唇を吊り上げた。


 「はっ……街を浄化してやってんだよ。ガキと年寄りと貧乏人、全部まとめて消えてもらう。俺たち京極会が“正しい東京”を取り戻すんだ」


 「クソが……てめぇの正義のために、由梨は死んだんじゃねぇよ!」


 


 戦闘開始。


 狭い地下室に怒号と金属音が響く。京極会の構成員は、スタンガンやナイフで応戦。だが、牙城たちも一歩も退かない。


 裕太は殴る。ナイフを避け、手首を極め、喉を叩く。


 「オラァ……!!死ね!」


 エイトも別のフロアで警備と戦っていた。小柄な身体を活かし、通気ダクトを使って不意打ち。


 「くらえぇっ……ッ!」


 だが、京極会の“本体”はまだ動いていなかった。


 突入から20分。構成員数名を制圧したところで、異変が起きる。


 「っ……爆薬の反応!?」


 マウスが無線で叫ぶ。


 「牙城!外にサツがいる!逃げろ!こいつら、俺たちを誘い込んでた!」


 「――チィッ!」


 撤退命令。


 全員が出口に向けて走る。だが、最後に笑っていたのは戸田だった。


 「今度は“池袋”だぜ。覚悟しとけよ、“正義の猿”どもが……!」


 


***


 


 新宿。夜明け前。


 レッドモンキーの拠点では、無事戻った仲間たちが息を整えていた。


 「京極会……やばいな」


 「いや、こんなんただの....今回のは“火花”だ。燃やすには、もっとデカい“炎”が必要だ」


 牙城はそう言い、腕を組んだ。


 「次は……俺たちの番だ」




 

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