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初めての友達

ドタドタドタ

突如の騒々しい足音で目が覚める。

セーラは身体をゆっくりベッドから起こすと、恐る恐る廊下のドアを開けて外の様子を伺った。

召使達が慌ただしく、洗濯され積み上げられたタオルが振動によって崩れるのにも誰も気づかないほどに。それはそれは忙しそうだった。


「何かあったのでしょうか?」


聞いた女性の召使いは、周りを見回して誰もいないことを確認する。


「姫様が癇癪を起こされたのです」


そう一言だけ残し、ティーポットやらクッキーやらを銀のお盆に乗せ足早に歩いていった。

噂に聞いたことはあったが、昨日会った第一王子には妹がいて、その妹はわがままな姫様であり、従者たちが手を焼いているとか。

召使いが走っていった方を見たまま、考え込んでいると後ろから声がした。


「セーラさん、おはようございます」


それはザクだった。


「さっそく、馬車で村へとお送りしたいところなのですが、その前に一つ頼み事を聞いていただけないでしょうか?」


  ゴクリ

セーラは唾を飲み込んだ。

ザクさんに案内されたのは西の離れた塔だった。

淡い桃色のドアから何やら、騒がしい声が聞こえてくる。


「これじゃ嫌! これじゃ私可愛さが半減しちゃうじゃない! こんなものを着るなら、その辺のカカシから取ってきた服を着た方がマシよ!」


  ビリビリビリビリ


「お嬢様、おやめください! このままでは本当にお召しになるものがなくなってしまいます」

「失礼致します」


さっき廊下で声をかけた女性の召使いが、ドアを開け中から出てきた。

彼女はこちらを身もせず、ふぅ〜とため息をついた。

彼女と目が合うと、彼女はしまった!という顔をした。


「お嬢様は今ご機嫌がよろしくないようで、それでお茶を……」


彼女は慌てて状況を説明しようとしたが、ザクさんは「いいから。下がりなさい」と言った。

  コンコンコン


「ミナ様。ザクであります。入ってもよろしいでしょうか」

「ザクね! いいわ。入りなさい」

「失礼します」


ザクさんの後に続きセーラも中に入った。

中にいたのは、金髪のウェーブがかった髪が腰まで伸び、搾りたてのミルクのように白い肌を持った小柄な少女がムスッとした表情で身体と同じくらいのピンクのクッションにしがみついていた。

艶のある髪が無造作にピョンピョンと方向を構わずにはねまくっている。


「またそんなお姿で……」


ザクが呆れた声で言った。

よく見ると、寝起きなのか白いサテンとレースでできたネグリジェ姿のままだった。

ザクの一言を聞いたその少女の桃色の瞳が、キッとザクを睨みつける。


「だって、ばぁやがマシなドレスを用意しなかったんだもの」


部屋の隅に立っていた、白髪を後ろでお団子にまとめ緑のロングドレスに身を包んだお世話係。通称「ばぁや」が困った様子で、その少女を見つめていた。


「お嬢様、これが今季の新作のドレスになります。わがままを言われても、変えのドレスはないのですよ」

「だって〜!! 可愛くないぃぃぃ!!」

「そんなことだからいつまで経っても子供扱いされるのですよ!」

「いいもん、ミナ一生この部屋から出なくたって生活できるもん」


ふてくされたミナは先ほど運ばれてきた、クッキーをしゃくしゃくとかじっている。


「ザク様、今朝からこんな感じなのです」


困り果てたばぁやは助けを求めるように、ザクそう言った。

任せてくださいとでも言うように、ザクは軽く踵を持ち上げ手を前で組み、ミナに話しかけた。


「ミナ様。ミナ様は今季のドレスはお気に召さなかったようですね。そこでご提案なのですが、この者にミナ様の“かわいい”を教えては頂けないでしょうか。この者は絵が描けます故、ミナ様の“かわいい”を形にできると申し上げます」


クッキーをつまらなさそうにかじっていたミナの目がセーラを捕えるなり、ガバッと見開いた。

ベッドからピョンピョンと飛び降りる姿はまるで生きた雪うさぎのようだった。


「あなた! お名前はなんと言うのかしら!」


ミナの金髪の髪がワサっと靡く。

桃の香りが、天使の羽で包むようにセーラの身を優しく触った。


「ピーチティーの香り……」

「ん? あなたの名前ピーチティーって言うの? 変わった名前ね」

「いやっ、私の名前はセー……」

「ふふっ、変な名前だと思った! テキーラね!」


ミナはセーラの言葉を聞く前に、言葉を被せた。

(違うんだけどなぁ……)

そう思いつつ嬉しそうにイタズラっぽく笑うミナは、まさに天使のようだと思った。


ミナはセーラの手を引っ張ると、ドレッサーの前に座らせた。


「はいはい! ザクさんはお仕事に戻られて。ばぁやも外に行って!」


ザクさんは少し申し訳なさそうにしながら、ニコリと笑った。

ザクさんとばぁや出ていくと、ミナはクローゼットからテラコッタ色のドレスを引っ張り出した。


「この色が一番貴方の栗のような瞳に合うと思うの! 私と行動を共にする仲なんだから可愛くしてもらわなくっちゃ」


セーラはミナにされるがままドレスを着せられた。

田舎娘のセーラにとって、スベスベと肌触りも良く、高級な布がふんだんに使われたドレスはまさに非日常そのものだった。

母に連れられ、町に買い物に行った日に見たショーウィンドウに飾られたフリルのドレスよりも贅沢な品だった。

ミナは手慣れた様子で、セーラの髪を櫛で梳かし始める。


「テキーラはどこから来たの?」

「私はここよりずっと森の中にある貧しい村から来ました」

「そうなんだ。私ね、ほとんどこのお城から出たことないの。町にはたっくさんのかわいい物があるって聞くのだけれど、それは本当?」

「私もそんなに町に詳しいわけじゃないのですが、そうかもしれないですね。それでもミナ様なら、満足するほどの贈り物をいただけるんじゃないですか?」


ミナはセーラの赤毛の髪を梳かす手を止めた。


「そうだったらいいのだけど、どれも私のかわいいではないの。100個の贈り物の中でも、私が思うかわいいは2個くらいしかないの。きっと兄上かお父様が選んでいるのよ」


ドレッサーの鏡に映るミナの顔は、さっきまで天使の羽のようにふわふわな笑顔は暗く、水で濡れたかのようにシュンとなっていた。


「あれね……、きっとお父様が外の世界との交流をやめてしまったからだわ」


ドレスが気にくわないと駄々を捏ねていた同一人物とは思えないほど、大人びた話し方をする。


「何でだろ、テキーラの顔を見てたら嬉しくなっちゃって」


コツンと、ミナが髪を動かしていた櫛に何かが当たる。

キュン、キュー

セーラの赤毛の髪に隠れていたノワの頭に櫛が当たった様子だった。

文句を言うように、ノワはミナに向かって鳴いている。


「なぁに、この子!」

「ごめんなさい……! 動物を連れ込んでしまって!」


セーラが謝ろうとした時だった。


「きゃわ、きゃわうぃぃ!!!」


ミナは両手でノワを持ち上げて、きめ細やかな頬で頬ずりをした。


「テキーラ! この子、あなたのお友達!? こんなにプリチーで、小さなお友達がいるなんて素敵ね!!」


ノワは調子に乗ったのか、髪を唾で整え7:3に分けている。


「あっ! でもなんかブドウの汁くさいわ」

「ごめんなさい。この子、昨日ブドウを沢山食べてそれからそのままだったんだわ」


よく見ると、ノワの首元が紫に染まったままだった。


「あなたノワって言うのね。なんてやんちゃな子。ねぇ、テキーラ貴方の村にはこんな小さなお友達が沢山いるのかしら」


ミナがノワの首元をガーゼで優しく拭きながら言った。


「もう少し大きなお友達も沢山いるわ。ウサギとか、鹿とか……」

「まるで御伽話のようね」

「そうだ!」


セーラは持っていたスケッチブックをミナに渡した。


「これは?」

「私が書いた村の動物達の絵よ。ノワの変なポーズもあるけれど……」

「え!見ていい??」


ミナは嬉しそうにスケッチブックを手に、椅子をセーラの椅子に近づけて言った。


読んでいただきありがとうございます。

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