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ミナの夢

「アザゼルお兄様が喜んでくれるなら、こんな服もたまになら着てみてもいいのかな……」


ミナは金髪の毛先を指でいじっている。


「ミナは何を着てもきっと似合うと思うよ」

「そうですよね! お兄様! 」


白い雪のような肌の頬がうさぎ舌色にポッと染まった。


「そういえば、ジャン皇太子が「楽しみにしてる」って言っていたよ」

「その服装で狩猟祭に来てくれってことなんじゃないのか?」


アザゼルの言葉に嫌そうな表情をミナは浮かべる。


「まぁ、あいつのためじゃないけれど。お兄様が褒めてくれたし、お礼くらいはしてやってもいいか……。すごく嫌だけど‼︎」

「まぁまぁ、そう言うんじゃないよ。ミナ」


アザゼルはミナをなだめた。


「ルイス、私は少し出てくるがミナをよろしく頼むよ」

「あっ、わかりました」


にこやかな表情を浮かべると、アザゼルは部屋を出ていった。




ミナと部屋に二人きりになる。



「…………」



気まずい沈黙が数分流れた。


「ルイス、今回あんたジャン皇太子に勝てるんでしょうね」

「勝つつもりではあるけれど」

「勝算はあるの?」

「ないけれど、どうにかする」

「ないけれどって、あんた知らないの? ジャン皇太子は狩猟の名手なのよ?」

「知らなかった……」

「あんたってやつは」


ミナは呆れた様子でため息を吐き、そのままベッドに座った。


「毎年行われる狩猟祭でアザゼルお兄様と勝敗を奪い合う仲だけど、アザゼルお兄様以外に彼とまともに戦える人物なんてそうそういないのよ。前回なんて、食事会の最中に飛んでいたハエをスープのひよこ豆を親指で飛ばして仕留めていたわ」


「そんなことが」


「何も知らないようだから教えてあげるけど、狩猟祭は3日間。どちらかが先に熊を仕留めた時点で決着は決まるわ」


「熊!?」


「そう、あんたが仕留めないといけない相手は熊よ。あんたなんかよわっちぃから、逆に仕留められちゃうかもしれないけれど。それで難しいところが、自分で武器を選べないことね」


「え!?」


「毎年ランダムで使用可能な武器が3つ選ばれるのよ。去年は猟銃・長刃・槍だったかしら。プレイヤーはその3つの中から自分の得意武器に近いものを選んで戦うの。ジャン皇太子が去年選んだのは長刃ね」


「熊に対して剣で挑んだのか?」


「そうよ、あの脳筋バカらしい正面からの真っ向勝負ね。だけどジャン皇太子の凄いところは関節の柔らかさなの。だから熊に対峙したとしても、ありえない角度から攻撃を繰り出すことができるから戦えるわけね。サーベルを持たせたら銃さえも凌駕する実力よ」


「ほう……」


「ちなみにアザゼルお兄様の得意武器は銃。銃なら、あんたでもなんとかマシな勝負ができるんじゃないかしら」


「銃、銃か…」


「アザゼルお兄様に指南をいただくといいわ。私から頼んであげてもいいけれど」


「それは自分で頼むから大丈夫」


「そう……何がなんでもあんたには勝ってもらわないと困るんだからね! ちゃんと練習するのよ!」



ミナはそう言って、自分の部屋の方へと戻って行った。





「アザゼル兄さんはどこに……」


ルイスは銃の指南をお願いするために、城中を探し回っている時だった。

狩猟祭まであと5日、時間がないことはルイス自身もわかっていた。

その焦りが、自ずとルイスの歩くスピードを速めた。


「どうしてお父様はわかってくださらないの‼︎」


広間から王とミナの言い争う声が聞こえ、思わず足が止まってしまった。

恐る恐る、扉の隙間から中を覗き見る。

壇上の椅子に貫禄を漂わせて座る国王モネス・グクロフ・リス、そして部屋を先ほど出て行ったミナの姿が見えた。


「ミナのファッションブランドのお店を、この国で出すことが一生の夢なの‼︎」


「お前は世間を知らなさすぎる。ましてや国王の娘という立場でありながら、民衆の服を作るなんぞ絶対あってはならんと何度言ったらわかるのか」


「お父様は私に一生、籠の中のウサギになれと言っているのね……。服を作りたい! ミナの「かわいい」で世界中の女の子を笑顔にしたい! それの一体何がいけないと言うのよ! 城の中で閉じこもっているだけじゃ、誰にも「かわいい」を伝えられないじゃない!」


「城で服を作れば良いではないか。それで充分だろ?」


「作った服を自分で着ろと? 確かに前まではそれで満足していたわ……でもね、それほど虚しいものはないの。お父様にはわからないかもしれないけれど。いい洋服のアイディアが浮かんだ時、ミナの中のミナが嬉しそうに笑うの。「これを着た女の子がどんな顔をして笑うのかな」って。ミナは、それが見たいの」


「やらせてあげたい気持ちはあるが、世の中の人間はいい人間ばかりではないのだ。国王の娘という地位を狙って、もしかしたらお前を誘拐・殺そうとする者もいるかもしれん。お前が作った洋服だって、皆が皆喜んでくれる物でもないかもしれん。お前の「かわいい」が否定されて、お前が酷く傷つけられるかもしれん。私はお前が心配なのだよ」


「そうかもしれないけれど、それでもミナは洋服を人のために作りたい……!!」


「と言われてもだな……」



「わかりました。お父様、賭けをしませんか」

「賭けだと……??」

「はい、賭けです」


「もし今回の狩猟祭でジャン皇太子が勝ったのならば、私は大人しく籠の中のウサギになりましょう。でも、もしルイスが勝った場合は、自分のお店を持つことを許してくださいませんか?」


「お前がそこまで言うとは……わかった。その時は好きにすればいい」


「ありがとうございます」


「ただしかし‼︎」

「もしジャン皇太子が勝った時は、お前は王女として自分の責務を果たすのだ。そして、二度と私の前でその話をするのではないぞ」



「わかりました……」



ルイスはそこで扉から静かに離れた。


(あんなに一生懸命なミナを見たのは、はじめてだ……)


アザゼルがいそうな場所を点々と探しながら歩いていたが、歩を進めるたびに自分の肩にのしかかった責任の重さが増すようだった。


(ミナはすごい。僕よりも年下なのに、もうずっと先の未来を見つめている。僕は目先のことで、こんなにも精一杯なのに)


あの迫力のある父・国王を前に、気圧されずに堂々と自分の意見をまっすぐ述べる彼女の姿には、憎まれ口を叩く普段の振る舞いとは違って敬意を払うべきものであり、ルイス自身に不思議な勇気を与えるものだった。


(あの様子を見れば、モネス国王はまだスベリオ王国に嫁ぐことをミナには伝えていないのだろう)


「負けられないな……」


ルイスの中で勝負に対する責任の重さを自覚し、負けられないと覚悟が決まった瞬間だった。





ドンっ!!





ルイスは考え事をしていたせいで、廊下の角から出てきた影に気づかないまま衝突してしまった。

「あいったたた……」

白衣に身を包んだ紺色の長髪の青年が地面に尻餅をついて腰を押さえている。

彼が持っていた麻袋の中のジャガイモが床に散らばった。


読んでくださりありがとうございます。

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