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守りたいもの

「アザゼル様、こちらが狩猟祭り用のお召し物になります」


ジャン皇太子の背中を見送った後、部屋に戻ると何事もなかったかのように、アザゼルは金の蔦のような模様があしらわれた白銀のカソックを差し出した。


「ありがとう。……あの、アザゼル兄さん。ジャン皇太子とは昔からあのようなお方なのですか……?」


「…………」


アザゼルは絨毯を見つめ、再びルイスを見た。

何を考えているのかわからない表情だったが、アザゼルが多方面から物事を捉え慎重に行動する人物であるということは、ここで過ごしたことからわかっていた。


「ジャン皇太子様は昔から癖のあるお方ではありました。ですが、今ほど悪い関係でもなかったのですよ……」


アザゼルはそう言うと、本棚の古そうな本の隙間から写真を取り出した。

幼いアザゼルとジャン皇太子、そしてミナ姫が仲良く写真に並んでいた。

頭の上にはお揃いの青い花冠を乗せて。


「昔は仲が良かったんですね」

「だいぶ昔のことです……」

「でもどうして……」

「それが国を納める一族の定めなんでしょう。きっと」


アザゼルは写真を再び本に挟みなおして、本棚にしまった。


「……ルイス」

「……?」


アザゼルはルイスの方に身体を向け名を呼んだ。


「さっきジャン皇太子が言っていたように。私にはもうミナを守る力がない。……君が頼りだ。」


「それはどう意味ですか……? 初めて出会った時も同じことを。」


「君が負ければ、今回の狩猟祭りを最後に、ミナは隣国のスベリオ王国へと嫁がされることが決まっている。父上は国土を差し出す代わりに、我が子をあの皇太子の元へと行かせる考えらしい」


「そんなことって! 父親なのに、そんなことができるはずがない!」


「それができてしまうんだ。王族とはそういうもの」


「ひっ、ひどすぎる……アザゼル兄さんはそれでいいんですか!? 何かできることはあるはずです!!」


「……私には何もできない」

「アザゼル兄さん!!!」


「だってもう私はこの国の第一王子ではないから!!!」

アザゼル の中の何かが破裂する瞬間だった。

無理やり押さえ込んでいた風船が割れて、中の空気が一気に外へと噴き出すように、アザゼル の苦しみ、怒り、悔しさなどの感情が外へと解放された。


顔を伏せ、赤髪の隙間から光る筋が一瞬頬をつたった気がした。

アザゼルは佇んだまま両手を強く握りしめている。


「……」


僕はこの時、何も言い返すことができなかった。

深呼吸をし、天井を見上げるアザゼル。

そして薄桃色の瞳で僕を見た。


「そう……今、この国の第一王子はルイス……君なんだ。君が勝てばミナは自由になれる」


目尻に滲んだ涙は、どうすることもできない自分のやるせなさと妹を思う優しさが溢れていた。


「ルイスお前は優しい。私は本当の弟のように思っているよ」


ルイスに向けられたアザゼルの笑顔は生まれたてのウサギを見つめるように、慈愛に満ちていた。




コンコンコン。

誰かがルイスの部屋の扉をノックした。


「いるんでしょ! 開けなさい」


ミナの声がする。

目を擦り、アザゼルが何事もなかったかのように扉を開けた。


「あら、兄さんも一緒だったのね。お邪魔するわ」


ズカズカとミナは部屋に入り、躊躇もせずにどさっとルイスのベッドに座った。


「もう嫌になっちゃう! あのバカ王子ったら、私の部屋の前でプレゼント持って待ち伏せしているのよ! もう、たまんないわよ! 兄さん! なんとかあのバカ王子に言ってちょうだい!」


顔を見合わせるルイスとアザゼル。


「ルイスでもいいわよ! あんたにそんな度胸はないだろうけど!」


ミナの通常運転な毒舌に二人の口角は徐々に上がっていき、ついには腹を抱えて笑ってしまった。


「っふ、お前ってやつはだな……」

「何よ……」


むくれ顔のミナは、ルイスとアザゼルがどうして笑うのか全くわかっていない様子だった。



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