隣国のバカ王子
城に隣国のスベリオ王国皇太子がやってきた。
フレール王国とスベリオ王国の毎年の恒例行事の狩猟祭りである。
以前はフレール王国とスベリオ王国の仲は悪く、領地を奪い、奪われを繰り返してきた。
人々が戦争にくたびれた時、国をつなぐ存在になったのが大鹿様に見そめられた人物である。その人物に己の国の力を証明し捧げ物をするために始まったしきたりが、この狩猟祭りという。
朝5時に起こされたルイスが城の入り口で待った。
「明日到着なはずでは……?」
ルイスは隣に立っているアザゼルに聞く。
「その、スベリオ王国の皇太子様は良い方なのですが、なんと言いますか……」
アザゼルは言葉を濁した。
「気難しい人なのか……?」
「それは…………」
「あいつは考えが浅いのよ……」
いつの間に降りて来たのか、目を擦りあくびをしながらミナはずばりと言う。
「あっミナさん、おはよう」
「…………」
この前の食事の時の機嫌がまだ治っていないのか、ミナはルイスの挨拶を無視する。
「…………」
「ミナさん、昨日は僕のマナーがなっていなっ」
ルイスがこの前の食事会の事を謝ろうとした時だった。
「私が来てやったぞ〜!!!」
重い扉が開くと同時に高らかで威勢のいい声が、青く美しい氷柱のようなフレール城を溶かしそうになるくらい響いた。
驚いた鳥たちが一斉に羽ばたく。
「ふん。私はスベリオ王国皇太子ジャン・シュタイン・ゼルクである。我が大国が今年も勝つ。さぁ、アザゼル勝負!!」
マントを翻し、従者を何十人も連れ城に乗り込んでくる。
馬車には乗らず、白馬に腰を据え登場した。
「でたよ、バカ王子……」
隣で、ミナがボソッと呟いた。
従者の手も借りず、馬から勢いよく王子は飛び降りた。
葡萄から作られたワインより深い紫の髪は、髪先まで計算されたように綺麗に整えられている。
チャームポイントであろう右頬の泣きぼくろは、彼のセクシーな魅力のアクセントに見えた。
白い正装はまさに王子というもので、金色の装飾が鬱陶しいほどに散りばめられている。
ツカツカとこちらに近づいてくるとわかった。
(ち、小さい……!!)
ジャン王子はミナと同じくらいの身長しかなかった。
ミナを見つけるや否や、僕らに挨拶をする前にジャンはミナの手を取り、目を輝かせている。
「私のクピト。ミナ姫、君に会える日をどれだけ待ち侘びたことか……!!」
「ああっ、鬱陶しい! これだからジャンク王子は!」
「相変わらず、ミナは毒舌だね〜。そういうところも好きなのさ☆」
「もういい! 知らない!!」
ミナは機嫌を悪くしたようで、フンスフンス言いながら部屋へと戻って行った。
「また後でね! 私の親指ひめ〜!!」
「あんたもチビじゃない!!!」
アザゼルは二人のやりとりを見ながら苦笑いをしていた。
ミナの姿が見えなくなってから、ジャン皇太子はやっとこちらを見た。
「っで、お前は誰だ。知らない顔だな」
さっきまでの子犬のような態度とは想像できないような、急な口振りの変化にルイスは驚いた。
「僕はルイス、この国の一応第一王子です。よろしく」
差し伸べた握手をパンッと払う、ジャン皇太子。
「触るな。俺はお前らと馴れ合うつもりはない。父上の命令で、こんなしけた国に足を運んでやっているだけだ」
あっけに取られているルイスの表情を確認すると、ニヤリと口角をあげた。
「相手がアザゼルじゃなくなった以上、俺の勝ちは確定したようなものだな。ミナさえ頂ければ、この国には用はない」
そして後ろに立っていたアザゼルにこう言い放った。
「惨めだな、アザゼル……そこで何もできない自分の運命を呪うがいい」
「……そうですね。お部屋は3階です。用意は済んでいるので、どうぞおくつろぎください」
アザゼルはいつもの調子で紳士的に落ち着いた様子で案内した。
しかし、ルイスはアザゼルの拳が強く握られ、赤いシミがじんわりと白い手袋に滲んでいることに気づいていた。
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