表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/24

大きなリンゴの木の下で

「どうしてこんなところに王子がいるの……」


気持ちよさそうにする王子の空間は、そこだけ時間がゆっくりと進んでいるように思えた。

ゴクリと息を飲む。


(やっと見つけたのに……どうしよう)


セーラは膝をついたまま、しばらく王子を観察した。

ポケットの中で寝ていたノワが、黄ばみがかったエプロンの生地をしっかり掴んでよじ登ってくる。


「おはよう、ノワ……ちょっと静かにしててね」


ノワは目を擦りながらコクンと頷くと、セーラの髪の中に入って振り落とされないよう身体にセーラの髪を巻きつけ、グッドサインを出した。

王子は疲れているのか眠りが深いように見えた。


(そっと近づいたら大丈夫かな……)


セーラは茂みから四つん這いのまま、そっと王子に近づく。


ザッ、ザッ、ザッ

(……あと少し)


手が白く煌めくリボンの半分の端を掴んだ。

近くで見る王子の肌はきめ細かく、雪の結晶よりも繊細で透き通っている。

眉を歪めながら鋭い視線を向けてくるあの氷結王子と同一人物とは思えないような穏やかな表情をしていた。

まるで昔の思い出を夢で見ているような、そんな優しい表情をしていた。


(王子って、こんな表情するんだ……どんな夢を見ているんだろう)


男性とは思えないほど洗練された美しい顔立ちに、吸い込まれるようにセーラの視線は吸収されていった。


(私ったら何見つめているの……リボン取らなきゃ。ゆっくり、ゆっくり引き抜けば気づかれないわよね)


セーラはゆっくりと王子の頭と木の根の隙間に挟まったリボンを引っ張った。


「ふぅ……」


3分の1くらいリボンを引っ張り出したところでセーラは一旦手を離した。


(なんだか変な汗が出る。でもあと少し)


再びリボンを引き抜こうと下を向いた時だった、さっきまでセーラの髪にしがみついていたはずのノワの姿がどこにもなかった。


(一体どこにいったの!?)


セーラはキョロキョロと辺りを見回した。

すると眠りから醒めたばかりのノワは、お腹が空いたのか木になっていた赤いりんごを取ろうと木の幹にしがみついていた。

ノワの真下には国の第一王子であるルイスが寝ていて、その美しい顔があった。

寝ぼけているのか、ノワが足を滑らせようと下にずり落ちる。


(危ない……!!)


セーラはノワが落ちてくるのを受け止めようと両手で器を作り、体を木がある方へと前のめりに傾けた。

ノワはセーラの両手に受け止められるまでもなく、自分の足でしっかりと木の幹にとどまった。


「よ、よかった」


ホッとした時、セーラの赤毛の束がスッとルイスの耳に触れた。

王子の穏やかだった表情が季節の変わり目の空のように急変し、雲行きが怪しくなる。


(お、起きないで……!)


セーラは目をギュッと瞑り、王子が目を覚まし何か言われることを覚悟した。

恐る恐るセーラが目を開けると、何事もなかったかのように王子は寝息をたてて横になったままだった。


(助かった……!!)


セーラはリボンの半分を慎重に引き出すことに成功した。


「やっと取れた」


セーラが胸を撫で下ろし、木にしがみついているノワに話しかけようとした時だった。

リボンを引き抜いたセーラの右手をパシリと何かに掴まれる感覚があった。

木の幹にしがみついているノワを見ていた視線を、下にスライドさせる。

さっきまで寝ていたはずの王子の目がしっかりと開いていた。


「お前、こんなところで何やっているんだ」


ルイスが目を覚まし、その美しくも鋭い視線でセーラの目を見つめていた。


「ここはわたしのお気に入りの寝場所だぞ、昼寝の邪魔をしに来たのか」


ルイスは寝起きのせいか馬車で話した時よりも機嫌が悪いように思えた。


「申し訳ありません。実は探し物をしていて、ここに落ちていたので……」


セーラは半分にちぎれた貝殻のリボンをルイスに見せた。



「…………」



すると、気だるげそうな表情を浮かべながらルイスは右手で頭を掻きながら体を起こした。

そして手で口を抑えて、静かにあくびをする。

ボサボサになった白髪がヒョコンと後ろではねている。


(なんだか……アヒルの尻尾みたい)

「……ふっ」


セーラはその王子らしからぬしぐさと格好に思わず、吹き出してしまった。


「なんだ」

「ふふっ」


「……おかしなやつだな、何がそんなに面白い」


ルイスは、目の前の娘が急に笑いだした意味がわからないといった表情を浮かべている。


「い、いや……ルイス様も同じ人間なんだなと思いまして。あっ、同じ人間ですが、平民の私と違って同じではないですね。ただ、親近感と言いますか……王子もこうやって外で寝転んだりするんだなって」

「そんなことか……わたしだって、外で昼寝くらいする」

「そうですよね! 失礼しました、、」

「まぁ、いいが……。 ん?」


ルイスの視線がセーラの持っているリボンに視線が止まった。


「お前が探しているものは、そのリボンなのか?」

「そうです。もうあと半分が風に飛ばされてしまって、母からもらった大事なものなんです」

「そんなに大事なものなのか。しかし、またどうしてそんなになってしまったんだ?」

「それは……」


セーラがミナにリボンを裂かれてしまったことを迷っている時だった。

なんとルイスの頭の上にりんごに齧り付いたノワが落ちてきてしまった。

「……!!!」



読んでくださりありがとうございます。

励みになりますので、評価、ブックマーク、感想お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ