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雪解け……? (ルイス視点)

「これは命令だ。お前が断れるはずもない、然もなくばこの森の樹々を薙ぎ倒し、焼き払う羽目になるだろう。そうなればお前の両親や村の人々はさぞかし困るだろう」


ルイスの発言に対し、セーラは不服そうな表情を浮かべる。


「……」


(感情を素直に顔に出す女だな。わたしも関係のない者をやたらとは巻き込みたくはないが……しかし利用できるものは利用してやる)


鼻で笑いながらも、ルイスの意思は石よりも固かった。

そしてその意思は、熱せられた石のように音を立てながら沸々と煮え滾っていた。


(何よりこの女は、たった今わたしに嘘をついた。大鹿様のことを何か知っているはずだ)


ルイスは大鹿様から助けられるセーラの姿を見ていた。





ぬかるんだ森の中を進んでいた時、川の方から波のようなものすごい水の音が聞こえてきた。


「川の方からだ」


聞いたことない水の音に自然と早足になる。

木々の隙間から、一部分だけ青空が見えた。


「おかしい……、あそこだけ晴れている」


晴れ間に近づくにつれ雨音が遠ざかっていくことがわかった。

神々しい光が見えたかと思った時、水の音が止んだ。

時を奪われたかのように川は水の流れを止め、光を避けるように水が道を作っていく。

あまりのも眩しい光は太陽そのものであるかのようだった。

ルイスは手をかざし、指の隙間からそれを見た。


「大鹿だ……」


ルイスは肩にかけていた銃に手を伸ばし、銃口を向け大鹿様を狙おうとする。

しかし引き金を引く手が恐ろしく震える。


(なぜだ……このわたしが今更怖気づこうというのか)


牡鹿を打った感覚を思い出し、引き金を無理やりに引こうとした。

その時、水の中に浮かぶ人影が見えた。


(……!)


そこに向かって伸びていく光の蔓。

持ち上げられた人物にルイスは見覚えがあった。


「あれは、ザクが連れてきた……」


その人物は光の蔓に持ち上げられ、太陽の元に掬い上げられた。

大鹿は壊れものを扱うかのように、彼女を背中に乗せるとジッとこちらを凝視してきた。


「まずい!!」


ルイスは咄嗟の判断で茂みに体をねじ込んだ。

しばらくして、眩しい光が消えたかと思うと、時間を取り戻したかのように再び川の水が流れ出した。

恐る恐るルイスは顔を上げる。

そこにはもう大鹿様の姿はなかった。





ルイスは全てを見ていたのだ。


(この女には利用価値がある)


ルイスの直感がそう言っていた。


「そこまで言うなら…………わかりました」


何か言いたげな表情を浮かべながら、セーラはその役目を引き受けた。


「そうか、わたしの手伝いができるのだ光栄に思いたまえ」


(なぜ大鹿はこの者の前に現れた……? なぜ隠す……?)


様々な疑問がルイスの頭の中を駆け巡っていた。


(どうしてこの者の前に大鹿は現れたのだ、わたしの時は現れなかったのに……)



「あれは、お前の兄だ」



父の低い声で言われたあの言葉が頭の中で繰り返される。

声と共に頭を劈くような痛みが走った。


「うっ……」


ルイスは頭を押さえ込んだ。


「だ、大丈夫ですか?」


(この女、自分を脅した相手を心配するとは……馬鹿がつくほどお人好しだな……)


そんなことを思っていたルイスの前に差し出される小さな手。


「この手はなんだ……」

「手を出してください! きっとすぐに楽になります!」

「わたしに触れるなど、許されるわけ……」


わたしの言葉を聞きもせず、彼女はわたしの手を取ってマッサージし始めた。

小さな柔らかい手がルイスの手に触れる。

両手で包みきれないほどの大きな手の壺を確実に押していく。


「合谷って言って、この親指と人差し指の骨が交差しているところを押すんです。楽になりませんでしたか?」

「……言われてみれば」


スッとつき物が取れたかのように痛みが引いていく。

執務中や、食事中、前触れのない症状に悩まされていたことが嘘かのように痛みが和らいだ。


「お前…………上手だな」


ボソリとルイスの口から本音がこぼれ落ちる。


「私の祖父も狩人だったんです。それでよくこうして手をマッサージしていて……」


何かに気づいたようにセーラは手を止めた。


「って、すみません! こんな!つい」


パッとセーラはルイスの手を離した。


「…………」


「続けてくれ」

(わたしはいったい何を言っているんだ……?)


押し戻された手を再び渡す。

セーラは申し訳なさそうに再びルイスの手に触れた。

セーラの手が触れる感覚がさっきよりも一段とこそばゆく感じた。


「さっきの頼み、無理にとは言わない」

「え?」


セーラが驚いたような表情を向けてくる。


「そしたら私は一体どうしたら……」


その時、馬車の扉が開いた。

扉を開けたザクが何やらニヤリとした表情を浮かべる。

ルイスは手に触れていたセーラの手を思い切り振り解いた。

そして階段を1段降りる。


「お前が決めればいい」


ルイスは一言だけ残して、馬車を降りた。



遅くなって申し訳ありません。更新しました。

読んでくださりありがとうございます。

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