6話 親友達と
服を選んで、都を歩いていると、偶然見回りの……休憩か。この時間だと。
休憩の、フュリーナ達に会った。
「ベレンジェア様。今日も、都にいらしてたんですね」
「リーグ、都で泊まるって言っていたでしょう」
「そうだった」
「本当に、記憶力を疑いますわね」
「……リーグは、いつもの事」
「ひどっ⁉︎」
相変わらず騒がしい。でも、その騒がしさが、落ち着くんだ。みんなといる時は。
「仕事中に抜け出して何してんの?」
「休憩ですよ」
「リーグは始末所で休憩ないんじゃなかった?」
「ありますよ!そこまでブラックしてまぜん!」
「だったら、そんな警戒せず休憩するさ」
僕らは、幼馴染で、良く遊んでいた。だから、みんなも気づいていたんだろうね。リーグは、ずっと、辺りを警戒していたんだ。魔物が入ってこないかって。
「休憩する時は休憩しろ。しっかり休息を取れ。何かあった時のためにも」
「……はい。申し訳ありません」
「じぃー。フォル、クレープのお店があるの。行きたい」
「じぃー。フォル、アイスのお店があるの。行きたい」
ゼロ、君が見える視界の範囲にそんな店はないよ。クレープはあるんだけど。
「フォル、行こ」
「フォル、行こ」
片方の意見だけ聞くわけにはいかないし、デューゼにどっちかを頼んでも、後で絶対拗ねる。もう、分かりきってる事。
どうするか。二人の機嫌を損ねない方法が思いつかない。
両方売ってる店を知らないんだ。
……そういえば、フュリーナは、甘いものが好きだった。フュリーナに聞けば、どこか知っているかな。
「フュリーナ、アイスとクレープ両方ある店知ってる?」
「はい。私も行きたいので、一緒に行きましょう」
「ありがと。お礼に、一個くらいなら奢ろう」
「ありがとうございます」
休憩が終わるまでに帰らないとだから、早速フュリーナに案内してもらう。
「……エレ、自分で払えるの。こっそりお金貯めてたから」
「ゼロも、自分で払えるの。こっそりお金貯めてたから」
うん。何して貯めたとか、聞きたいけどさ、それよりさっきから何がしたいの?ゼロはエレの真似ばかりしてるけど。
これをすれば可愛いから、僕がなんでも頼みを聞いてくれるとか思ってるわけ?
……否定はしないけど。
「今日も可愛らしいですね」
「俺の弟どもに見せつけてやりたいですよ。最近ヤンチャ盛りか、悪戯ばかりして」
リーグは、孤児院で育ったんだ。捨てられたとしか聞いていないし、聞く気もない。
孤児院に恩を返したいと言うから、僕が推薦して、軍部の試験に受けさせたから、今こうしている事が嬉しいんだ。宮へ勤められる階級じゃないから、いくら推薦があったとはいえ、本人の努力が成した事なんだろう。
相談された日から、僕が暇な時間は全部注ぎ込んで、教えた甲斐もあったのかな。
「たまにはリーグにも奢ってあげるよ。孤児院に入れていて、普段は配給品だけなんだろ?」
「えっ⁉︎そ、そんな、悪いですよ。俺は」
「僕からの労いだと思って受け取ってくれ」
「……はい。ありがとうございます」
「ついでに、子供達への土産も買ってあげないとだ。僕は、今は双子姫の身の回りの事で忙しくて、渡せそうにないんだ。君が代わりに渡してくれる?」
最近は行っていないけど、リーグに勉強を教えるので、前は毎日のように行っていたんだ。ついでに、子供達にも勉強を教えていた。みんな、分からないとなんでも聞いて、教え甲斐はあったかな。
いたずら好きで、いつも仕返しして遊んでいたら、すごい仲良くなりもしたっけ。今思うと、あれは可愛い方だけど。布団に潜り込むどっかのゼロと違って。
「ありがとうございます」
「エレ達もあげるの」
「あげるの」
「ありがとうございます。双子姫様。本当に素直で可愛らしいですね」
「君の弟達の方が可愛げがあるよ。今朝なんて、ゼロに寝込みを襲われたから」
「襲ってはない!ちょっと、布団に潜り込んだだけだ」
「え、えっと、元気で、良いですね」
「リーグ、貴方は知らないでしょうけど、恋をしたら、どんな手段を使ってでも、好きになって欲しいと思うものですわ」
「ミュンはそういう経験があるの?」
「もちろん、ありませんわ」
もちろんって、うん、そうだとは思っていたけど。彼女は、ミュンティン。この中では僕やデューゼを除くと、一番階級が高いかな。神獣の中でも身分が高いから。
階級は、身分と功績とか色々。それを定期的に審査して更新するんだ。
ミュンティンは、恋愛小説好きで、そこから得た知識が多いんだ。自分は興味ないらしいけど。
「ミュンティンとクリーは別のものの方がいいかな?というか、ミュンティンは奢られるのいやかな?」
「たまにはこういうのも良いですわ。ベレンジェア様の奢りというのであれば、ありがたく頂戴しますわ」
他の男に奢られるのは断るくせに、僕は良いのか。
「ミュン、ベレンジェア様にだけは良いんだ」
「もちろんですわ。ベレンジェア様は、貢ぐ気なんて全くないんですから」
「貢ぐ気ならあるよ。君が僕の部下として働いていた頃は特に。それで、仕事を頑張ってくれるなら安いものだ」
ミュンティンは、求婚者が後を絶たないほど人気なんだ。美人で気が強く、大胆で、それでいて繊細さも持ち合わせている。
だから、良く貢がれるけど、本人はそれが嫌いらしくて。
ちなみに、フュリーナも人気なんだけど、あの子がリーグ一筋だから。それに、フュリーナの場合、仕事はできても私生活が若干怪しめ。柔らかく、可憐で、遠巻きで見る人が多くても、求婚とかはほとんどないかな。
「クリーはどうする?」
「甘さ控えめで」
「クレープなら、おやさ……おやさ……お野菜のクレープもあるの」
そんなにいや?野菜クレープ。泣きそうなんだけど。
「エレ、野菜も食べないとだめ」
「やだー」
泣いちゃった。ゼロがとどめ刺しいったよ。
「デューゼは奢る気ないから。というか、君も異動命令出てたはずだけど?」
「なんで知ってんだ⁉︎」
デューゼに、メッセージを見せてやった。エレが寝た後、届いたんだ。従兄のルノから
『双子宮にデューゼ兄さんと一緒に異動命令出た。フォルも出てるんだって?本当に申し訳ないけど、別件で、すぐに行けない。ごめん』
「これ、どう言い訳してくれるかな?」
「……フォル、実は、デューゼにぃ」
「わああああああああああ‼︎ゼロ、それ以上言うなあああ‼︎」
女遊びか賭け事か……はないか。好きそうだけど。
「ふみゅ?お隣のお部屋で女の人と密談していたの?それとも、お金受け取っていたの?あとあと……」
「受け取っていた?」
「えっえっと」
「女の人、双子宮の元使用人なの」
そういう事か。
「何か言っていた?」
「……」
「後で聞く」
「そうしてくれ」
二人には聞かれたくない。僕にここで追及されるのを防ぎたかったみたいだ。エレとゼロが聞きたくない内容をここで聞こうとなんて思わないけど。
「ここです。ごめんなさい。遠くて、疲れましたか?」
「疲れてないの。エレ、神獣の年齢に合わせて十六歳なの」
「ゼロも十六歳なの」
「……ちゅかれたのー」
僕に甘えたいだけというのが見え見えの嘘。
「つかれたのー」
うん。だろうね。エレがやったから。
「……にやり。フォル、エレね、チーズクリームのクレープが欲しい」
「エレ敵」
「やだったら、帰ったらエレを甘やかすの。一緒にお風呂入るの。ついでに、直で血を吸うの。魔力も吸うの。なでなでするの」
要求が多い。ほんとどこで覚えてきてんの?
「……やるって言えば、買わない?」
「ふにゅ。買わない。こっちの生クリームましましクレープの生クリームましましにする」
「……くどそう」
「フォル、あまあまきらい?」
「えっ、すき、だよ」
気を遣わせないようにしないと。エレが変な事言うから、思わず口に出しちゃったけど、誤魔化せないかな。
「嘘なの。きらいなの」
「きらいってわけでもないよ。食べてはするから」
「ふみゅ。今度フォルの好きなもの教えて」
「エレとゼロ」
「それは知ってるの」
「ベレンジェア様、流石にそれは」
「好きと言ってくださっている方にそれはありませんわ」
「ゼロとエレはフォルのペットなの」
「ペットであり、恋人でもあるの」
本人達はこれで喜んでいるんだよね。
「あれ?そう言えば、ベレンジェア様、前に見た時は指輪をつけておりませんでした?」
「ああ、あれは、エレとゼロが失くして、外したんだ。二人にプレゼントしたものだったから」
「という事は」
「……考えてなくはないかな」
エレが目を輝かせてる。狩られるのかなぁ。
「エレ、片方やれば片方拗ねる作戦も順調だな。次の作戦も考えようぜ」
「ふみゅ。よろしくなの。エレは苦手だから。適材適所なの」
「……」
まさかの事実。作戦だったか。ほんとに油断できない。
「エレはすりすり作戦が良いの」
「……やり方によれば良いかもしれねぇな」
「……」
「ははっ、元気ですね」
「ベレンジェア様に、ここまで迫る人は初めて見ましたわ。見た目が良くとも中身がと、一度近づこうとすればすぐに諦める人ばかりでしたのに」
何度も来ると面倒になって、対応が適当になってただけだよ。
エレとゼロのように、僕を純粋に好きでいてくれる人って少ないんだ。だから、エレとゼロには、そんな事しないよ。