第6話
次の日、二人が起きてくる前に朝から家を出た。ツグミは別としても、かすみさんとはとても普通に顔を合わせられる気がしなかった。
喫茶店でサンドイッチを食べた後、図書館に行き真面目に勉強をした。
日が暮れ始め、もういい加減外にいることに疲れてしまった私は、そろそろ大丈夫かな……と、図書館の外へ出て敢えて家に電話をかけてみた。
ツグミが出たら、かすみさんが帰ったかどうか聞こうと思った。
プルルルル……プルルルル……
なかなか出ない。
出ないということはツグミもかすみさんもいないのか?ということは、帰るかすみさんをツグミが駅まで送りに行ってるのかもしれない。
それならもう帰ろう……と、電話を切ろうとした時、
「……もしもし、上坂です」
電話越しでも寝起きだと分かるぼやけた声で、ツグミが電話に出た。
「まだ寝てたの?」
「雨?外にいるの?てか、いつのまに出掛けたの?」
「朝。二人ともよく寝るね」
もう夕方の4時を過ぎていた。
「いや、一回起きたよ、昼に。でもその後また疲れて寝ちゃって」
私はツグミの言葉を聞いて、昨晩の二人を思い出した。
まさか一度起きて、また昨日のようなことをしてたんじゃ……。『疲れてまた寝た』という言葉がやけにいやらしく伝わってくる。私は改めて、外出して正解だったと思った。
「何?用件は」
その時、電話の奥からかすみさんの声がした。
「ツグちゃん、寝癖おもしろーい!」
「ちょっと、かすみ!」
電話の向こうのかすみさんはいつになく楽しそうだった。ツグミはそんなかすみさんの何かを制止している。
「かすみさん、まだ帰ってないんだね」
「うん、いるよ」
「雨ちゃんからなの?ツグちゃん!代わって!」
突然受話器のすぐ側から聞こえたセリフにあたふたした。
「ツグミ!いいよ!私もう切るから!」
まだかすみさんと話をする勇気はない。私は焦って電話を切ろうとした。
「雨ちゃん?何してるのー?」
電話口のかすみさんはお酒でも飲んでいるかのように上機嫌だった。私はそれに反比例してイラつきを覚えた。
私には解っていた。
かすみさんはお酒に酔っているんじゃない。ツグミと二人だけの濃密な時間に酔っているんだ。
「……友達と……遊んでます……」
私は惨め過ぎて、一人で図書館にいたとは言えなかった。
「そっかぁー。じゃあもう今日は会えないのかな?」
何も気にしていなそうなこの様子だと、あの時、目が合ったと思ったのは気のせいだったのもしれない。それならそれでよかった。
「……そうですね、まだもう少し帰らないと思うから。かすみさんはいつ頃帰るんですか?」
それでもやっぱり、まだ対面する気にはなれなかった私は会うことを避けた。
「うん、あと一時間くらいしたら。すでにかなり長居させてもらっちゃったしそろそろ帰らないと」
「そうですか。じゃあ、私、友達が待ってるんでそろそろ行きますね」
「あ、うん!お友達待ってるのにごめんね!また来週ね!」
電話を切った私は大きくため息をつい後、再び図書館への道を引き返した。