第15話
心と体をあんなにも近くに感じることが出来る行為を知った私は、寝る前の子どもが同じ本を何度でも読んで欲しがるように、しつこくかすみさんを求めるようになった。
『家庭教師の日だけはケジメをつけてそうゆうことはしない』
そうかすみさんとルールを決めたのに、私の我慢の壁はいつも簡単に崩れてしまった。かすみさんはそんな私を叱りながらも、
「もぉー、雨ちゃんはしょうがないなぁ……」
と甘やかして、同じ快感に溺れてくれた。
頻繁にかすみさんが私に会いに来るようになり、ツグミは私たちの関係に少なからず何かを勘づいていた。
いくら気に入らなくたって、かすみさんとこんな関係になったことを、私だってツグミに対して何も思わないわけじゃなかった。別れていたとは言え、自分が付き合っていた彼女と妹が付き合っていると気づいた時、ツグミはどんなふうに思っただろう。
いつも余裕の表情のツグミでも、このことばかりはさすがに傷つくんじゃないかと、少しは罪悪感を感じていた。
だけど、ツグミはそのことを詮索してくるようなことはなく、あからさまに私やかすみさんを避けることもなかった。私たちが部屋にいても、どこにも出かけず隣の部屋で過ごしたりするし、そうと思えばあの百々花さんという人を呼んだり、他の人が遊びに来たりすることもよくあった。
結局、ツグミはそれまでと何も変わらなかった。
ここまでくると、本当にあの体の中には赤い血が流れてるのかとさえ疑わしくなってくる。でもそのおかげで私の中の小さな罪悪感はもっと小さくなった。
かすみさんは相変わらず、ツグミのことを何も気にせずにはいられない様子だったし、私と同じ理由でツグミに後ろめたさを抱えていた。
それには波があって、その波が高くなっている時のかすみさんは、私とベッドへ行く空気になることを避けるように振る舞った。だけどそんな時に限って、ツグミの部屋から百々花さんの笑い声が聞こえてきたりする。するとまたかすみさんは、罪を重ねるように私の中へと戻ってきてくれた。
その日、いつものように部屋で少し話した後、かすみさんがトイレに立った。しばらくすると、廊下からかすかに話し声が聞こえてきた。私はそっと扉に近づき、耳をすました。
「ツグちゃんには関係ないでしょ」
「そうだね」
ツグミとかすみさんは二人とも声の大きさを気にして話していたけど、ここまで間近だとさすがに聞き取れた。
「よかったね……。百々花ちゃんと付き合えて」
「うん」
「ずっと好きだったんでしょ……?」
「………」
「やっぱり、 初めから私じゃダメだったんだよね……?きっと気まぐれで付き合ってただけなんだよね?」
「かすみには雨が似合うよ。雨はかすみのこと大切に想ってる。かすみも寂しい想いしなくて済む」
「そうだね、雨ちゃんは私のこと本当に好きでいてくれてる。雨ちゃんのことは私、信じられる」
「それが一番いいよ」
「……ツグちゃんは私のこと信じてた?」
「………」
「今は?どこかで信じてる……?本当は私が……」
その言葉の続きを聞きたくないと思った瞬間、
「かすみ、雨が待ってる」
ツグミがかすみさんを止めた。私は扉から離れて部屋に戻りベッドに座った。
ガチャ……
「遅くなってごめんね」
戻ってきたかすみさんに手を伸ばす。かすみさんはその手を取って隣に座った。私はそのままかすみさんをベッドに押し倒した。そして、その華奢な体に覆い被さり、首元に顔をうずめて聞いた。
「遅かったけど、何かありました?」
かすみさんの体が、私のセリフに反応してほんの少し硬くなった。
「ツグちゃんとばったり廊下で会ってね、少し話してたの」
「何を?」
私は体勢を変えてその表情を伺った。
「……今度の大学の試験の話。今回の試験、結構大変でね……」
私の視線から逃れて横を向きながら、不自然に歪んだ笑顔で答える。
「そっか……。心配して損しました」
「心配することなんか何もないよ」
かすみさんは私に嘘をついた。
私はもうそれ以上かすみさんが何も言えないように、そっと唇で唇を塞いだ。




