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たまご天と人が恋しい春の日のスーパー

作者: 降井田むさし
掲載日:2024/04/16

たまご天。

たまご天。

たまご天が、食べたい。


黄身が半熟で。

軽い衣をまとった。

たまごの天ぷらが食べたい。


久しぶりに出会った。

スーパーで出会った。

かなり安かった。

だから、買いたかった。


でも届かない。

気持ちは届かない。

食べたいのに、届かない。


目の前にあるのに。

目の前にあるのに。

手に入れられない。

そんな存在。


左手を骨折してるから。

右手しか使えないから。

そんな哀れな、僕だったから。


天ぷらは、セルフ。

トングで、セルフ。

そんなスーパーだった。

まあだいたいが、そのスタイルだろう。


両手が使えるオジサンがいた。

先に取っていた。

そのオジサンでさえ、苦戦していた。


天ぷらを、トングで掴み損ねたり。

薄い専用袋の口を、見つけることができなかったりで。

だから、右手だけでできる気がしなかった。


一般のお客さんが、手こずっているんだ。

いくら片手お手玉ができる僕でも、無理だ。



人見知りだから。

かなりの、人見知りだから。

人見知り越えて、人見知り知りだから。

誰かに、頼めるわけがない。


たまご天の黄身みたいに、ねっとりしたタイプじゃないから、無理だ。

人間とねっとりした関係に、すぐなれないタイプだから、無理だ。

そう思った。たまご天だけに。


たまご天の白身みたいに、淡白なタイプに近い性格だから、頼めない。サラッとしてるというか、クールな感じだから、頼めない。

そう思った。たまご天だけに。


4回ほど、天ぷら売り場前に行ったが、買えず。

その後、もう1回行ってみようと思った。

たまたま5回目で、察して、優しく接して助けてくれる人がいないかな。

そう思った。たまご天だけに。


度を超えたマゴマゴ具合だったから、誰か助けてくれたらいいなと思った。

たまご天だけに。


でも、助けてくれなかった。

そもそも、お客さんも店員さんも、近くにいなかった。

落としてしまった殻みたいに、心が粉々になりかけた。

たまご天だけに。


えっぐるぐる見回しても、誰もいないなぁ。

そう思った。

たまご天だけに。


誰かが助けてくれる。

そんな考えが駄目だった。

半人前っていうか、未熟っていうか。

僕って半熟だよな。

そう思った。たまご天だけに。


ちくわ天とか、カニカマ天とか、カボチャ天とか。

他にも、いろいろな天ぷらが安かった。

おいしそうだった。

でも、他の天ぷらには目がいかなかった。

視線は。たまご天だけに。


たまご天って、無性に食べたくなるよね。

あたたかくて、やわらかくて、おいしいから。

たまご天が、恋しくって恋しくって、たまらないときがある。

あたたかくて、やわらかくて、おいしいから。

まあ普段から、小石食っているわけじゃないけども。


今まで、人が恋しくなかったのにな。

困っている人を、助けることはあっても、

助けてほしいと思ったことは、なかったのに。


急に、人が恋しくなった。

骨折は、人を人恋しくさせるんだな。

骨折は、インドよりも、人生観を変えるのか?


結局、たまご天は買えなかった。

完治後に、たまご天が売っていたなら。

たくさん買って、ミニたまご天御殿を作るんだ。

はっ?

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 たまご天、美味しいですよね。 たまに食べたくなります。 スーパーで売っていたんですか!? 私の周りでは見ないな。 羨ましいです。 是非、骨折を治して、丼を食べてやりましょうよ!…
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