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たまご天と人が恋しい春の日のスーパー

作者: 降井田むさし

たまご天。

たまご天。

たまご天が、食べたい。


黄身が半熟で。

軽い衣をまとった。

たまごの天ぷらが食べたい。


久しぶりに出会った。

スーパーで出会った。

かなり安かった。

だから、買いたかった。


でも届かない。

気持ちは届かない。

食べたいのに、届かない。


目の前にあるのに。

目の前にあるのに。

手に入れられない。

そんな存在。


左手を骨折してるから。

右手しか使えないから。

そんな哀れな、僕だったから。


天ぷらは、セルフ。

トングで、セルフ。

そんなスーパーだった。

まあだいたいが、そのスタイルだろう。


両手が使えるオジサンがいた。

先に取っていた。

そのオジサンでさえ、苦戦していた。


天ぷらを、トングで掴み損ねたり。

薄い専用袋の口を、見つけることができなかったりで。

だから、右手だけでできる気がしなかった。


一般のお客さんが、手こずっているんだ。

いくら片手お手玉ができる僕でも、無理だ。



人見知りだから。

かなりの、人見知りだから。

人見知り越えて、人見知り知りだから。

誰かに、頼めるわけがない。


たまご天の黄身みたいに、ねっとりしたタイプじゃないから、無理だ。

人間とねっとりした関係に、すぐなれないタイプだから、無理だ。

そう思った。たまご天だけに。


たまご天の白身みたいに、淡白なタイプに近い性格だから、頼めない。サラッとしてるというか、クールな感じだから、頼めない。

そう思った。たまご天だけに。


4回ほど、天ぷら売り場前に行ったが、買えず。

その後、もう1回行ってみようと思った。

たまたま5回目で、察して、優しく接して助けてくれる人がいないかな。

そう思った。たまご天だけに。


度を超えたマゴマゴ具合だったから、誰か助けてくれたらいいなと思った。

たまご天だけに。


でも、助けてくれなかった。

そもそも、お客さんも店員さんも、近くにいなかった。

落としてしまった殻みたいに、心が粉々になりかけた。

たまご天だけに。


えっぐるぐる見回しても、誰もいないなぁ。

そう思った。

たまご天だけに。


誰かが助けてくれる。

そんな考えが駄目だった。

半人前っていうか、未熟っていうか。

僕って半熟だよな。

そう思った。たまご天だけに。


ちくわ天とか、カニカマ天とか、カボチャ天とか。

他にも、いろいろな天ぷらが安かった。

おいしそうだった。

でも、他の天ぷらには目がいかなかった。

視線は。たまご天だけに。


たまご天って、無性に食べたくなるよね。

あたたかくて、やわらかくて、おいしいから。

たまご天が、恋しくって恋しくって、たまらないときがある。

あたたかくて、やわらかくて、おいしいから。

まあ普段から、小石食っているわけじゃないけども。


今まで、人が恋しくなかったのにな。

困っている人を、助けることはあっても、

助けてほしいと思ったことは、なかったのに。


急に、人が恋しくなった。

骨折は、人を人恋しくさせるんだな。

骨折は、インドよりも、人生観を変えるのか?


結局、たまご天は買えなかった。

完治後に、たまご天が売っていたなら。

たくさん買って、ミニたまご天御殿を作るんだ。

はっ?

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 たまご天、美味しいですよね。 たまに食べたくなります。 スーパーで売っていたんですか!? 私の周りでは見ないな。 羨ましいです。 是非、骨折を治して、丼を食べてやりましょうよ!…
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