ゴブリン親子殺人事件ファイル3
「ホピさん、落ち着いてくださいとは言いません。ただ、少しの間、私の話を聞いてはくれませんかな?どうしたいかは話を聞いた後に、ホピさんが決めてください。誰かを殴るもよし、そのまま己を苦しめるもよし、全てはあなた次第です」
「タカネさん!タカネさんには真実が見えているんですね!」
「ああ。ではまずは、皆さんが一番気になっている犯人についてお話しましょう。犯人はこいつですよ」
そう言ってポケットから取り出した犯人は、人ではなかった。
「え、それって、マツタケモドキ。いやマッタケロンですね!って、タカネさん。そのキノコがナバホさんとアデナちゃんを死に至らしめた凶器だということは、皆知ってますよ!なにせ、僕が皆さんにお話ししましたからね!」
「そうだな。ドヤっとしている助手君の言う通り、このマッタケロンが二人を殺した凶器だ。そして、犯人でもある」
「え?!どういうことですか?」
「つまり、この事件、いや出来事はそもそも誰かの手による殺人ではないのですよ。事故といった方が正しいとも言えますな。ここにいる誰一人、二人を殺そうなんて思った住民はいないのですよ。最初から」
「え・・・?」
犯人と言えば、必ず人がやったものだと誰もが思う。でも、犯人は必ずしも人とは限らない。例えば、落石があって偶然に死んでしまった場合。これは誰かの仕業ではない。落石による犯行。人間的に言えば、そうなるだけだ。
「そ、そんな!それじゃあ、山登りに行って誤って毒キノコを食べて死んでしまった人と同じ事故だったってことですか!?」
「そうだ。偶然が重なった、不運な事故だ。いや、もしこの世界にサダメを司る神がいるのなら、神による殺人ととれないことはないがな。覚えているかね、助手くん?我々が通って来た山道の脇には沢山マツタケモドキが生えていた。もし村長が一か月前に全てのマツタケモドキを採取したのなら、プエブロさんが疑問に思うだろう。なにせ、ここの山菜の生命力は凄まじいようだからな。いつもの時期に山菜が一種類だけ減っていたら気づくはずだ」
「た、確かに!」
「そして、沢山の山菜が生える中、プエブロさんは誘われるようにマッタケロンを採取した。これもマッタケロンの特殊能力かもしれませんな」
カマキリのメスは、交尾中にオスの頭や身体を食べることで養分を得ていることがある。マッタケロンのメスは逆に、周りのメスを毒で排除し、オスを集めるフェロモンを放つことで、その特殊な千年周期を維持していると言われている。
「人から見れば信じられないような事実ですが、これもまた自然の知恵。子孫を残すための術でしかありません。今回の一件の真実は、千年に一度現れた植物による事故死ということです。植物による殺人であり、もちろんそこには、村長やプエブロさんの恨みも妬みも存在していません」
「で、でもな。もしも、もしも俺がマッタケロンのことをもっと良く知ってたら、ナバホとアデナは死なずに済んだんだべ?てことは、俺が二人を殺したのと同じだべ!は、そうだべ…。俺が殺したんだべ」
「それを言うなら、俺だって!俺が、2人に山菜をプレゼントさえしなきゃ・・・」
「そ、そうじゃ・・・。ワシがもっと早く気付いておって、皆にちゃんと知らせていれば・・・」
真相を聞いても尚、彼らと村民たちの顔は晴れなかった。犯人がいないと分かったことは嬉しいが、それでもあまりにも悲しすぎるではないか。
「皆さん、こんな話を知っていますか?」
探偵が突如として、秘儀“語り出す”を発動した。彼はいったい何を語るのか。それは、昔話でした。
~ロミーとジュリー~
昔々あるところに、過酷な運命を乗り越えて結ばれた、ジュリーとロミーがいました。二人は親の反対と権力者の陰謀にも負けず、互いの地位と財産を捨ててまで一緒にいたかったのです。そして、紆余曲折を経て、山の麓まで逃避行をしました。自給自足の生活を始めた二人に、しばらくして幸せな知らせが届きました。ジュリーが妊娠したのです。ロミーはまるで自分が妊娠したかのごとく喜びました。なにせ、これで本当に家族として新しい人生を歩めると思えたのですから。
そして月日は流れ、ジュリーの出産日が来ました。ジュリーは頑張りました。でも医師や助産師もいない山の麓での出産、悲劇の悪魔は舞い降りたのです。ジュリーとお腹に宿った子は二人とも死産し、亡くなりました。ロミーは何が起こったのか分かりませんでした。あんなに愛して、あんなに困難を一緒に乗り越えたジュリーが、あっさりと死んでしまったのです。彼らに第二の人生は訪れませんでした。どうして、自分たちにばかりこんな仕打ちが起きるのか、ロミーは運命を、神を、世界を、目の前に存在している全てを恨みました。そして願いました。何でもするからジュリーを返してくれと。
そんな時です、神の一人がロミーの前に現れて、こう告げたのです。「お前にチャンスを与える」と。ロミーはそれを無視し、寝ました。すると、翌日、彼の横には最愛のジュリーがいました。お腹の子と共に。ロミーは自分のほっぺをつねり現実であると確認すると、その奇跡に感謝しました。するとどうでしょう。突如として、矢が飛んできてロミーの胸に刺さったではありませんか。泣き叫ぶジュリーの顔を見たのを最後に、ロミーは死にました。そして神は言いました。「チャンスを与える」と。ロミーは再び目覚めました。そしてその隣には、ちゃんとジュリーがいました。でもすぐに、ジュリーに激痛が走り、死産してしまったのです。ロミーはまた一人になりました。
そしてそれからというもの、まったく同じ現象が起こったのです。目覚めたらロミーが矢に刺されて死ぬか、ジュリーが死産して死ぬかの繰り返し。ロミーは遂に叫びました。やめてくれと。自分が悪かったと。すると神は尋ねました。「チャンスの意味が分かったか?」と。ロミーは分からないと言いました。神はため息を吐き、ロミーに映像を見せました。その映像にはロミーが矢に刺された後のジュリーがいました。神は言いました。「彼女が何でもするからお前を生き返らせて欲しいと願った」と。
そう、その願いはロミーが最初にした願いと同じでした。ロミーはやっと気が付きました。神が言ったチャンスの意味に。そうです、ジュリーが死ねばロミーが、ロミーが死ねばジュリーが、互いに生き返らせて欲しいと願ったのです。何と引き換えにしてでも、例えそれが己の命でも、愛する人の命が戻ってくるのなら構わないと。神は、ロミーにジュリーの想いを知るチャンスを与えたのです。先に死んだのがロミーであった場合でも、ジュリーは同じように悲しみ願うのだと。そしてもし、運命がループするのなら、お互いの願いは一生叶うことはないのだと。死んでしまった者は帰ってはこないのだと。
ロミーは決意しました。ジュリーの命が戻ってくるように願うのを止めることを。でもその代わり、神様に最後のお願いをしました。自分が死ぬまでジュリーの事を愛し続けることを、ジュリーに伝えて欲しいと。神様は頷き、ロミーは長い長い本当の眠りから覚めました。ジュリーが居なくなった後の現実へと戻ってきたのです。ロミーは涙を流しました。でもそれは最後の悲しみの涙。ロミーは涙を拭いて、空に向かって叫びました。生きて、生きて、生きまくって、ジュリーに会いに行くよって。
~おわり~
「なあ、タカネさんっていったべな。その、ロミーの選択はジュリーにとっても幸せだったのだろうか?」
「もちろんですとも。なにせ、結局二人の願いは、愛する相手が生きてさえいてくれれば幸せだっていう思いから生まれたものですからな」
タカネの話を聞き終わったホピは、少し落ち着きを取り戻した。そして、沈みっぱなしだった顔を上げて、タカネを見て言った。
「じゃ、じゃあ。俺がこれからも一生懸命生きて、生き抜いてからナバホとアデナに会ったら、二人は笑顔で俺を迎えてくれるかな?」
「ええ、きっと。生きてくれて、ありがとうって言ってくれると思いますぞ」
「そ、そうかぁぁ。う、うあぁぁーん。ナバホー!アデナー!俺、精一杯生きるからなぁ!!そんで、ちゃんと会いにいくからなぁぁー!!」
そこには、誰よりも、何よりも愛しくて大切な相手を失い、自我を破壊しかけつつも、生きることを誓った男の涙と泣き声が木霊するのであった。愛してるから悲しくてたまらないけど、愛してるから強くなれる。そして、愛してるから、例え君がいなくても君のために生きていけるんだって思える。その事実を、男の背中は、村中に、いやもしかしたら、世界中に見せたかもしれない。
・・・
「村長!この度は誠に申し訳ございませんでした!!助手人生、一生の不覚です」
皆が解散した後、村長の家に戻ったタカネたち。そこで少女は、村長に土下座をした。まあ、悪気は一切なかったけど、危うく村長に冤罪を被せる所だったからね。
「ほっほっほ。コトハちゃんや、良いのじゃよ。それよりも、ホピの心を取り戻してくれたタカネさんたちに、感謝してもしきれんべ。ありがとうだっべ」
「いえいえ、探偵として当たり前の事をしたまでですぞ。ただですな、村長。例え千年に一度しか起こらない現象だとしても、危険性がある情報については、村全体で共有してくだされ。今回のような悲劇を防ぐためにも」
「そのことについては、本当に反省してるべ。マッタケロンの存在なんて、実物を見るまで一寸たりとも頭に浮かばなかったわい。老いぼれは危機感が足りなくて困るの」
「まあ、起こってしまった事を後悔だけしていても仕方ありませんからな。未来の悲劇を回避するように尽力して頂ければと思いますぞ。それでは、我々は明日の朝、ここを発ちますので」
「もう明日行ってしまうのかい!?それは残念じゃのう。ワシらは何のもてなしも出来ず、申し訳ないべ」
「大丈夫ですよ、村長!僕たちは依頼で、皆さんのために来ただけですから。むしろ、お悩み事がまたありましたら、どうぞ僕たちを頼ってくださいね!」
「おおお、コトハちゃん。ありがたや…。じゃあな、早速明日、帰る前に畑仕事を手伝ってはくれんかの?実は、カブモドキが豊作で、人手が足りんそうなんじゃ」
「へ?」
(じとー。何言ってんねん、コトハ。じとー)
「あはははー。じゃ、じゃあ僕、お先に寝ますねー」
「逃げたぜ」
「逃げたな」
・・・
こうして翌朝、助手君の一言により、本業が探偵である男と、世界の強者の一人とも呼ばれる少年は、朝っぱらからカブモドキを引っこ抜きまくるのであった。まるで、日々の鬱憤を発散するかの様に。ほら、耳を傾けてごらん。心の声が聞こえてくるよ。
(おりゃおりゃおりゃー!カブモドキの分際で、この私に引っこ抜かれるのを嫌がるなんて、百年早いのだよ!貴様らなんか、私が相手をしてきた殺人犯の微塵の恐怖もないのだ!)
(このカブやろう!どの面下げて、このカゼカ様に歯向かってんだよ!あ、あれか。お前ら切られたいのか。そうかMというやつなんだな。ふはは、いいだろう。覚悟しろよ。これぞ、ミナヅキ流奥義“風来連斬”!!!)
「うわー。やばいよこれ。鬼がいるよ。鬼が二人もカブ引っこ抜いてるよ。あれだ。見ちゃいけないやつだ。僕は隅っこにいよっと。ってヤバ!鬼が同時にこっち見た!逃げねば!」
「コトハ!カブが足りんぞ、カブが!」
「おいチビ!こっちもカブが足りねえぞ!」
「いやいやいや、二人ともどんだけカブモドキ引っこ抜いたと思ってるんですか!タカネさんのカブモドキなんて、一部潰れてるし、カゼカのなんて星形とかダイヤ型とかに切られちゃってるじゃん!何やってんですか、二人とも!!」
「この程度の相手では足りんのだー!」×2。
「おー、これは凄い数のカブモドキを収穫してくたのう!ん?なんじゃ、カブモドキの原型がなくなってるべ。タカネさんや。坊主や。これはどういうことなのか、説明をお願い出来るかのう?」
「そ、村長!いやこれはその、すみませんでしたー!」
「わ、悪かったかもしれねー!」
(おー!村長凄い。これが秘儀“普段怒らない人が怒るとむっちゃ怖い”かぁ!僕、初めて見た!)
えー、何だかんだで、都指定保護管理区域のリセン山に住む青ゴブリン一族の怪奇事件を解決し、畑で収穫まで手伝っちゃった探偵たち一行は、ゴブリンさんたちにお別れを告げ、山を後にしたのでした。
・・・
「いやー、無事に終わって良かったですねー」
「うむ。それに今回は本当に驚いたからな。ゴブリンと聞いた時は、魔物の一種だと思っていたが、彼らだって心があり、家族を失えばその心が壊れる程に涙を流し、しかも他者に対する思いやりは人間以上だったりする。なぁ助手君、見掛けだけで相手を判断し関りを避ける者たちは、いったいどれだけ人生を損しているのだろうな」
「そうですね。僕だって、僕って言うし、きっとプエブロさんには最後まで女の子だって気付いてもらえませんでしたけど、これでも僕の個性だって思ってますもん。生き物は見た目じゃないんです。だから、ゴブリンさんたちを見た目だけで、軽蔑する人がいたら、僕が懲らしめてやります!そしていつか僕も、ゴブリンさんたちみたいに、心の温もりをその身にまとえるようになりたいです」
「ああ。それに、コトハは今のままでも十分、可愛いと思うぞ」
「げっ!止めてくださいよ。遂に助手にまで気障なセリフを吐くようになったんですか!?」
「心外だな。まあ、私がここ数日、麗しきレディたちにお目にかかれていないから、フラストレーションが溜まっているのは確かだがな」
(あー。そういえば、この人、女好きのホストやろうだった。まったく!)
ギルドに戻るまでの道中、いい話をしているのかと思えば、ホスト野郎のせいで台無しになった。でも、コトハはクスッと笑った。だって、世界が変わっても、隣にいてくれる人は変わらないでいてくれるのだから。
「ところで、カゼカ少年はやけに静かだが、どうかしたのか?」
「けっ!実はな、ジョーさんと、お前らがこの依頼を無事に成功させるかどうか賭けをしてたんだ。んでもって、依頼達成しちまうし、拙者の出番は少ないわで、儲けがねーのさ!」
「ほほう、カゼカ少年はそんな賭けをしていたのか。これはオカマスターさん共々詳しくお話を聞かせてもらわないといけませんな?」
「ヤバっ!言わなきゃ良かったぜ。んじゃ、拙者は先に行ってるぜー」
「待てい!今度こそ少年にマナーというものを教えてやる!」
「あ、ちょっと二人ともー!僕を置いていかないでくださいよー!」
・・・
都ギルド“闘喜乱舞”に戻ると、どうやら中が騒がしいようだ。ギルド内には、珍しく冒険者がごった返しており、皆さん何だか荒ぶっている。あ、やだー。誰だよ、酒の瓶投げたやつー。うわ、何だこれ!え、おパンツ?
「タカネさん、これは何事ですか?!なんか訳の分からないものが飛んできたり、『やれー』だの『いけー』だの凄いこといなってますけど」
「私にも分からないのだよ。カゼカ少年は分かるかね?」
「あー。どうせS級の誰かが帰って来たんだろ。ここのやつら、直ぐに決闘申し込むからよ。毎度こんな感じだぜ。さてっと、拙者はジョーさん捕まえてくるか。審判やってると思うから」
「タカネさん、S級って、S級冒険者の事ですよね!?凄いですね、どんな方なんですかね」
「よく分からんが、とりあえず凄い冒険者ということだろう。まあ、あのオカマスターがS級で強者と呼ばれているから、変人の可能性もあるがな」
「やだわ~、タカネちゃん。変人って、私、傷ついちゃう!」
気配なく現るは、オカマスターだ。タカネの寒気は一瞬でマックスになった。いや、まじで気配を消して近づくのだけは止めてください。寿命が縮まるしホラーだし。
「しぇ、しぇー!」
「あら、タカネちゃん、それ面白いポーズねぇ。そういえば、カゼカから聞いたのだけど、リセンの青ゴブリンたちのお悩み解決したんですって~!凄いわ~、尊敬しちゃう!」
「い、いえ、私たちは為すべき事をしたまでですよ。それが結果的に良くなったまでですから・・・!」
だから、近いって!!タカネは両手をあげて、せめてものパーソナルスペースを確保した。ついでに目線を逸らさないと、狩られそうだ・・・。
「でもでも、あの村長なら喜んだに違いないわ~。ほら、これは報酬よ。あの村からの報酬は、ギルドから出るやつにプラスアルファで出るのよ。なにせ、あの性格だからね~。追加報酬を断っても貰ってくれーって言われちゃってね」
「て、え!マスター、村長と知り合いなんですか?!うわ、凄い報酬金額!!」
「ちょっと昔、都政府で働いてるメガネ野郎から頼まれてねー。一度結界の異常を確認しに行かされたことがあるのよ~。それで、村長とも挨拶したってわけ。ほら、今丁度あの群衆の中心にいるやつよ」
「なるほどって、え!あの輪の中にいるんですか!?それってもしかして、S級の?」
「そうよ。あ、そうだわ。折角の機会だし、紹介するわね~!」
そう言って、オカマスターは輪の中へ行き、「はいはい、今日はお開きよ~」と言いながら一人の男性を引っ張り出してきた。この男性は確かにメガネをかけており、細見で、言うなれば委員長タイプのようなガリ勉のような真面目さがあった。灰色の頭にワインレッドの瞳は少し怖い印象を与えるが、何処からどう見てもS級冒険者には見えない。この男、なにがそんなに凄いのだろうか。
「は~い。これが、メガネ野郎よ~。えっとね、こちらが注目の新人であるタカネちゃんとその他よ~」
「俺の名前は“これ”でも“メガネ野郎”でもないと言っているだろう」
「私も注目の新人なのでは決してありませんな」
「その他ってなんですか、その他って!あ、カゼカ笑うなー!」
「もう、細かい事にケチ付けるの良くないわよ~」
興奮が冷め終わっていない冒険者たちの騒がしい声と、タカネたちのオカマスターに対する文句で、ギルド内はカオスだ。
「ごめんなさいね、タカネちゃん。メガネ野郎が来ているせいで、ギルドが五月蠅くって」
「俺のせいでは・・・あるか」
『頼むよ、レン様!レン様なら、皆を助けられるだろ!』
「はいはい、貴方たち~。メガネ野郎はお話があるから、また後でね」
冒険者たちがすがるように男性に近寄って来たが、オカマスターにたしなめられた。どうやら、彼らが騒いでいるのはS級冒険者がいるからではなく、このメガネの男性がいるからみたいだ。
「すまん、タカネと言ったな。ジョーさんから話は聞いている。随分と活躍しているそうだな。改めて、俺は都政府安全管理部門治安抑制局総括課総長のナガツキ・レンだ」
(役職名なっが!!)
「活躍しているなど、滅相もないですぞ。私はタカネ、そしてこっちにいるのがコトハです。最近こちらに参りましてな、まだ何も知らない只の人間二人ですよ」
「そう、謙遜するのは良くないぞ。まあ、能ある鷹は爪を隠すという。なに、ジョーさんの世話は頼んだ」
(うへー、絶対に嫌だ!)
「うふふ」
だから、近い!近いって!全く、油断も隙もない。レンには迫らないくせに、どうしてタカネにはグイグイ来るのか。
「そ、それよりもレンさんは、S級冒険者でもあるんですね!もしかして、兼任してお仕事してるんですか?」
「ん、少年、兼任とは言えないだろうな。俺は都政府の仕事が本職で、冒険者は趣味みたいなものだ。本業で少しでも時間が空くと、依頼を受けるといった感じだ。今回もこうして、依頼達成の報酬を受け取りに来た」
「ほわわ!凄いです!仕事も出来て、強いんですね!僕には無理です」
「そんなことはない。少年にもきっと出来るだろう。そうだ、カゼカはいないのか?あいつにも話すことがあったんだが」
「あれ、さっきまでいたのに」
「差し詰め逃げたか。まあ良い、もし会ったら、午後の定期総会にちゃんと出席するよう言っておいてくれ」
「定期総会?」
「定期総会っていうのはね~、都に家を構える由緒正しきお家柄の当主たちが集まって、都に異常がないかとか話会う場なのよ~」
説明しよう。定期総会とは、現都統治者であるクレナイノ・ミコト・サクノミヤの門下に集まる十二人の名家たちの会合である。十二名家の一つ、ミナヅキ家現当主であるカゼカはもちろんのこと、都政府安全うんちゃらの総長であるS級メガネ冒険者レンもナガツキ家現当主なのである。しかし、十二名家の当主たちは、曲者が多く、月に一度開かれる定期総会を欠席する者が後を絶たないため、都の王姫であるミコトも手をこまねいているという。「カゼカとか、カゼカとかが出ないわけよ。めんどくせーって言ってさ、これだから子供は嫌なのよ!プンスカ!」と王姫が言っているとかいないとか。
「確かに子供には荷が重すぎるようにも思えますけどな。それに、カゼカ少年は子供の中でも子供ですからな。マナーがなっていないのですよ。マナーが」
「タカネに賛成だな。あいつはまだガキだ。姫には申し訳ないが、しょうがないと言えばしょうがない」
「ほえー、都にはお姫様がいるんですね。ミコトさんでしたっけ、一度で良いから会ってみたいなー」
「ほほう、少年だからな。姫に興味を抱くのも無理はないか。ただ、あのお方は止めておけ。口では説明できんが、とりあえずあのお方はダメだ」
「ぼ、僕は少年じゃな-」
「おっと、そろそろ時間か。二人とも会えて良かった。今後の活躍を期待しているぞ」
と言い残し、メガネ野郎ことナガツキ・レンはギルドを後にした。後日、オカマスターからコトハが女の子であると聞かされたレンは、口元を抑えて顔を真っ赤にしていたという。そして、「馬鹿な、この俺が性別を見間違えるだと。いやまて、確かに可愛らしさがあるとは思っていたのだ。いやでも、なぜあの時俺は…」などとブツブツ独り言を言い、都政府安全なんちゃらの部下から心配されていたとかいないとか。あれれー、また一人ヤヴァイ人がいるよー。あれかな、あれなのかな、ロリコ…。は!背後から殺気が!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。