ゴブリン親子殺人事件ファイル2
前回のあらすじ。事件現場にて、ゴブちゃんドールをもぎ取ることにより、事件検証に成功?した探偵。その後、喪失中の旦那、ホピさんに事情聴取を試みるも見事に失敗。さて、今回の事情聴取は成功するかな?そして、犯人は?てか、この人たちお腹空かないのかね。一向に食べないね。あれ、最後に食べたのいつだっけ?あはははー。
「コンコンっと。プエブロおるかの?」
「ガチャっと。村長、どうしたんだべ?」
(このゴブリンさんたち、コンコンとかガチャとか言わないといけない暗黙のルールでもあるのかな?)
「実はな、こちらのタカネさんたちが、ナバホの件で話を聞きたいってわざわざ来てくれたんだべ」
「おー、そうかぁ。わざわざこんな山にまで来てくれるなんて、良い人たちだべー。ナバホとアデナも幸せ者だべー」
プエブロはうんうんと頷いた。彼は、オジサンテイストが強い。あごひげとか、頭に巻いているハチマキとか。
「こんにちは、プエブロさん。すみませんが、プエブロさんが事件の第二発見者と伺いまして、当時の状況を聞かせてもらえると助かります」
「ありゃあ、今でも信じられない出来事だったべ。確かあの日は、俺がアデナの誕生祝いに山菜をプレゼントした翌日のことでさ。幸せそうなホピやナバホの顔が忘れられねぇべ」
「では、前日までは特に変わった様子はなかったのですな?」
「俺が見た感じでは幸せそうだったって印象しかないべ。でもな、翌日の夜にな、ホピの叫びが聞こえてきたんだべ。そりゃあもう聞いたことがないくらい、大きな声だったべ。んで、これは只事じゃねえって思って、駆け付けたんだべ。んしたら、ナバホの頭を抱えたまま、腫れあがった状態の顔を殴り続けてるホピがいたんだべさ。俺も理解出来なかったべ。だってよ、ナバホの体がバラバラになってたんだべ。昼過ぎに洗濯物干してるのを見た時は元気そうだったんだべが…」
目を疑う惨状を思い出し、プエブロは目線を下に向けた。それから、ホピの家の庭、洗濯物干しがある辺りを一瞥して、頭を横に振った。
「なるほど、お昼過ぎの時点ではナバホさんはご現存だったと。ちなみに、悲鳴を聞き直ぐに駆け付けたということは、怪しい人物は見ていないということですかな?」
「見てないべ。家の中にはホピしかいなかったしよ。しばらくしたらモハクや村長が来たけどな」
「そうじゃ。ワシが到着した時には、ホピの他にプエブロとモハクしかいなかったべ。野次馬みたいに、家の外に何人かおったがの」
「ふむ。モハクさんはホピさんの友人で、確か向かいの家に住んでいるのでしたな。それならば、ホピさんの声が聞こえて、駆け付けることは可能ですが、プエブロさんが到着した後、しばらくしてから来たのが気になりますな。」
「トイレでもしてたんじゃね?」
「そんな呑気な」
そして、事件があった家の隣に住むプエブロさんに、当時のお昼過ぎから、ホピさんがナバホさんを発見する夜までのアリバイを聞いてみたところ、厳格なアリバイはなかった。昼寝してたとか、飯食ってたとか、散歩してたとか。平和な日常だねー。
「プエブロさん、失礼ですがご結婚は?」
「しとったんだけどなー、嫁は俺がもう少し若い時に病気になって、天国さ行っちまったんだべー。でもな、子供はいるんだぜぇ。俺と違って立派な息子は、建築業で働いてるべ。きっと、もう直ぐ結婚するべ。楽しみだなぁ」
「そうですか。(プエブロさんのアリバイを証明できる人は現時点ではいないと)」
いくら村が小さくて皆の仲がよくても、お互いの行動をずっと見ているわけではない。彼のように独り身は、特に。(なぜ、村長がホピ家族の事件直前のやり取りを知っていたのかは謎でしかないが)。でも、彼が散歩をしていたところを見た人ならいそうだ。
「お話ありがとうございました。我々はこれから、モハクさんにもお話を聞いてきたいと思いますので、これで」
「おー、モハクか。あいつは良い奴だべ。俺の息子が丁度今、モハクの家のリフォーム手伝ってるんだべ。んじゃまたなー」
プエブロはタカネたちに手を振った後、「ガチャッと」と言ってから自分の家に戻っていった。やはり、「コンコン」とか「ガチャッ」っていうのは、扉を開けるための鍵なのだろうか。いやそんなまさかねー。
「タカネさん、本当にこの村のゴブリンさんたちは仲良しなんですね。お互いに良い所しか言いませんもん。僕、この村の住人の誰かがあんな惨いことをしたなんて信じられません。やっぱり」
「そうだな、私も信じたくはないさ。しかし探偵として、どんな結末が待っていようとも真実を暴かなければいけないのだよ。そこに1人でも悲しんでいる人がいる限りな」
事件現場の向かいに住む、ホピの友人モハクさんは、リフォームがほぼ完成したばかりの家から出てきた。そもそもこのゴブリンさんは、どうやってリフォーム中の家で暮らしていたのだろうか。藻屑とか頭に振って来ないのだろうか。謎だ。
「コンコン。モハク、村長じゃよ」
「ガチャガチャ。よー村長、どしたよ?」
(モハクさんは、ガチャガチャって言ってドアを開けるんだ。おもちゃが出てくる機械を思い出すなー)
ガチャガチャと言って出てきた、モハク。彼はホピと同じ年くらいの青年だ。細身で、ホピよりも身長が高い。
「良いお家ですな、モハクさん。初めまして、我々は一か月前の事件のことでお話を伺いたく参りました」
「おお、人族のひとたちだべ!久しぶりに見たなぁ。一か月前ってホピのとこで起こったやつか?」
「ええ。モハクさんは、ホピさんの大声を聞いて駆け付けたと伺いましたが?」
「そうさ、トイレしてたらな、ホピの絶叫が聞こえたんだべ。もうビックリしてな、思わずトイレと服を汚しちまったさー。んで、ホピの家に行ったらプエブロさんもいたさな」
(あー、カゼカがニヤニヤしてる!ほらなって顔してるー!なんかムカつくー。プンスコ!)
「まさか本当にトイレをしていて、駆け付けたのが遅かったとは…」
「ん?ああ、オラあの時な、直ぐ向かいたかったんだけども、なんせ服が汚れちまったからな。着替えてから行ったんだべ。リフォーム中だったから、服出すのも大変だったけんどな。なんせ、トイレ付近だけで生活してたもんだからー。あはははー」
「そ、そうでしたか」
当時トイレ付近のみで生活をしていたというモハクさん。どうやらトイレ付近の数平方メートル以外はリフォームしていたため、出入りは困難であったらしい。彼はきっと、トイレ付近のみで生活が出来る匠なのであろう。なんてことでしょう、リフォーム後の今でも、テレビや色々な家電がトイレの近くに設置されているではありませんか。これは素晴らしいですね。正にリフォームの意味を無に帰す匠ですね。あはははー。
「ごほん。それでですな、モハクさんの当時の行動を教えて頂きたいのですよ。特に、正午過ぎからホピさんの悲鳴を聞くまでの」
「オラの行動べか。なんか照れるなー。うんとだな、その日はな、まずトイレ行ってプエブロさんの息子のプエブロジュニアと話して、トイレ行ってそれから買い物行ったべな。前の日の夜にプエブロさんに山菜もらったから、それに合う酒を買いたくてなー。酒買った後は、トイレ行って、晩御飯作ったべ。山菜美味かったべー。んで、丁度食べ終わって、トイレ入ってる時にホピの声が聞こえたんだべ」
(トイレ多っ!そのトイレ行きました情報いる!?)×3。村長除く。
モハクは、幼い頃からお腹が弱い。元の世界であれば、過敏性腸症候群とか、消化不良体質とか診断されるであろうが、この世界では彼のお腹を強くしてくれる薬はなさそうだ。お腹は冷やしちゃダメだぞ。
「ではモハクさんは、晩御飯を作り始めるまでは、他のゴブリンさんと接する機会が多かったと。(ふむ、しかしアリバイのない時間は所々にあるな。それにトイレに入っていたことは確証できない。)ついでに、ホピさん一家とは長い付き合いなのですかな?」
「そりゃあそうさな。ホピとナバホとは幼馴染ってやつだべ。昔から良く一緒に遊んだなー。それがこんなことになっちまって、オラはホピに何て言って慰めたら良いか分からんのだべ。ホピは小さい時からナバホにぞっこんだったからさ。よくオラとどっちがナバホと結婚するかで勝負したべなー。ま、いつもホピが勝つし、ナバホもホピが好きなことはオラ知ってたべから、勝つつもりなんてなかったけどよ。あのお見合いも形式的なもんで、すでに相思相愛だったべ」
「仲がよろしかったのですな。モハクさん、お話参考にさせていただきますぞ」
「なんの参考か分からねえけんど、役に立てたなら良かったべ。オラもそろそろトイレ行きたいと思ってたしな、失礼すっわ。ガチャガチャっと」
案の定、モハクは「ガチャガチャ」言って扉を閉めた。もうコトハちゃんはツッコミを入れないぞ。「ぺけぺけ」とかにならない限りは、絶対にツッコまないぞ。
「ねえタカネさん。こんな事考えたくはないんですけど、モハクさんがまだナバホさんの事が好きで、幸せそうなホピさんを見て犯行に及んだ可能性もありますよね?」
「ああ、この手の話は以前の事件でもあったからな。恨みや妬み、劣等感などが長年の間に心の奥底で黒く拡大し、果ては心全体を闇に変える。こうなってしまった人間の行く末は一つ、意中の相手に手をかけ、己もまた限界を迎え、命を絶つ。酷くも悲しい人の末路だ。ただな、モハクさんの目は、闇落ちした人間のそれとは異なっているし、もうすぐ結婚する身で犯行に及ぶとは、青ゴブリン族の性格的特徴から考えてリアルではない」
とりあえず、ポモ村長の家へ戻ろうと、あれこれ話しながら歩いていると、後ろから声が聞こえた。どうやらプエブロさんが追っかけてきたようだ。
「プエブロさん、どうしたんですか?」
「はあはあ。追いついたべ。いやさね、せっかく皆さんがホピたちの為に動いてくれてると思ったら申し訳なくてな。これ、ここ一か月取れるようになった山菜だべ。皆で食べてくれさ。お礼にしちゃ少ないのは分ってるんだべが」
「そんなわざわざ、すみませんな」
「やったー!僕ずっと我慢してたんですけど、お腹が空いて死にそうだったんです。早速村長の家で調理させてもらいましょうよ!」
「やれやれ、助手君は。ん?はぁ、カゼカ少年も目が山菜に釘付けだな。プエブロさん、助かりました。有難く頂戴いたしますぞ」
「んだ。俺も坊やたちに喜んでもらえて嬉しいべ。んじゃな」
・・・
プエブロさんからもらった山菜に、よだれを垂らしている助手と少年のためにも、速足で村長の家に着いた一行。早々と鍋の中に水と山菜をいれ煮込んでいると…。
「ほえー、タカネさんこの山菜たちって、タケノコやマツタケにそっくりですね。美味しそうです!」
「そうだな。これは中々のものだ。どれ一つ味見を。おお、中々の味だな」
タケノコ、マイタケ、ゼンマイ、シイタケと、見たことがある山の幸たち。採れたてということもあって、ちゃんと美味しい。
「村長、この山菜は何という名前なのですかな?」
「ん、どれどれ。おお、これはタケノコモドキに、マツタケモドキってなぬー!!!!!」
ポモ村長は、箸で掴んだキノコを見るやいなや、目を数倍に見開いて大声を上げた。この村長、そんなに目を開けられたんだ・・・。
「ええ!どうしたんですか、村長!そんないきなり大声あげて!」
「こここ、これはマツタケモドキじゃないぞい!ま、まさかこれは伝説の、数千年に一か月間だけ採れるという、マッタケロンではないか!いやー、ワシが生きている間に見れるとはなー。まあこれは猛毒があるんじゃが」
「ど、毒!!タ、タカネさん今マッタケロンつまみ食いしましたよね!?ああ、タカネさんが死んでしまう!」
「う、ゴホゴホ!そ、村長それを早く言ってくだされ!食べちゃいましたけど、どうなるのでしょうか…?」
慌ててゴホゴホしても、食べてしまったマッタケロンは既にタカネの胃に落ちてしまっている。肝が冷え、青ざめたが、村長は慌てていない。しかも、カゼカ少年も呑気に食べ続けている。どんな肝っ玉してんねん・・・。
「いやー大丈夫じゃよ。この毒は男性には効かんのじゃ。なぜかは知らんが、女性が食べると、体が弾けて死んでしまうらしいのじゃが、男性はいくら食べても平気だと伝えられているんだべ。」
「そ、それは良かったですぞ・・・」
タカネは冷や汗を拭った。
「えー、じゃあ僕は食べれないじゃないですかー。いいですよーっだ。このタケノコモドキ沢山食べてやる」
タケノコモドキを口に詰め込む、少女。そんなにお腹空いてたんだね。いやでも、新鮮な山の幸は本当に美味しい。食感もシャキッとしているし、風味も匂いも、質の良さを物語っている。ま、食べれればの話だけど。
「いやはや、そんな山菜があるだなんて、世の中恐ろしいですな。あれ、村長このこと、プエブロさんたちに知らせた方がよろしいのでは?」
「そうじゃな。まあ、プエブロは食っても大丈夫じゃけどな。今は、ナバホもアデナもおらんから…。プエブロも二人にあげることはないからな」
「ではひとまずは安心ですね。僕はマッタケロン食べれなくて悲しいですけどー」
「助手君には悪いが、このマッタケロンは中々の味だぞ。なあ少年?」
「お?まあな。でも拙者は肉が食いたいけどな」
そうそう。ゴブリンだから、てっきり肉食系のガツガツ系だと思っていたら、こういう山菜とか野菜とかがメインの食事で、だからこそ畑で色々と栽培をしているのだと。
「そう贅沢は言うものではないぞ。・・・そういえば事件の前日の晩は、ナバホさんたちもこうして、家族で食卓を囲んだそうですな。最後の晩餐というべきなのか。ん?晩餐?確かプエブロさんが、ナバホさんにも山菜をあげたって言ってましたな…」
「言ってましたね、アデナちゃんの誕生祝いだって」
「それってつまり…」
「その最後の晩餐で山菜料理食ったんじゃねえの?」
「それってつまり…」
「オーマイガッ!!」
少女は頬に両手をあてて、何とかの叫びのようなポーズをした。タカネは「それってつまり・・・」としか言っていないし、カゼカは気にせず食事を続けているし。
「ん、なんじゃ?お主らどうしたんじゃ?」
「村長、こうしてはいられません。今すぐ皆さんを集めてください!」
「おおお、それは構わんが、どうしてだべ?」
「つまり、こういうことです。この事件の犯人は貴方だぁぁぁあああ!!」
「へ?ワシ?」
なにこの、怒濤の展開。というか、探偵よりも助手が興奮しているではないか。ほら、コトハちゃん。食事中にお行儀が悪いですよ。
・・・
第二発見者である二人が怪しいと踏んでいた探偵一行だが、村長がプエブロ氏からもらった山菜の一つがマツタケモドキではなく、千年に一度現れるという伝説の美女、ではなくマッタケロンであることに気が付いた。実はこのマッタケロン、猛毒を所持しているが、女性にしか効かないという性質を待っていたのだ。何とも男性ひいきな植物である。噂によると、マッタケロンは全て雌らしい。ま、魔性の女がいるぞ!おや、村長のようすが…。
「レディーズ&ジェントルメン、夜が始まったばかりのこんな時間にお集まり頂き恐縮です。我々は、一か月前に起こった凶悪な事件、そう、ナバホさんとアデナちゃんを幸せの空間から追い出した日について調査をしてきました。そして遂に、その二人を死に至らしめた犯人が判明致しましたので、皆さんにお集まり頂いた所存です!」
村長宅の前に一堂に会する村民たち。そう、これから全ての真相が暴かれようとしている。ただ、その真相を話そうとしているのは、探偵ではない。
「タカネさんや、犯人とはどういうことなのじゃ?!」
「それは…」
「そうです、ずばり犯人はポモ村長あなたです!」
「ポモォォォ…!!」
(ホモォみたいにリアクションする人初めて見た・・・)×その場にいた方々。
「助手君?」
「ふっふっふ、タカネさん。今回はこの助手にお任せください。いやー、なんとも簡単な事件でした」
コトハは探偵気どりなポーズで、推理を語り始めた。タカネは困惑したが、とりあえず聞くことにした。でも、それ以上に困惑しているのは村長と村民の方たちだ。
「コトハちゃんや、ワシがナバホたちをやったというのかい?」
「ええ。まず事件前日の深夜、村長はコッソリと山菜が採れる場所を訪れ、マツタケモドキを全て採取したのです。プエブロさんが早朝に採取に行くであろうことを見越してね」
「な、なんでワシがマツタケモドキを全て採らなければならんのだべ?」
「それはもちろん、マツタケモドキを全て採ることにより、マッタケロンのみを残し、それをプエブロさんに採らせるためです!(ビシーん!決まった!)。そして村長、あなたはプエブロさんが毎週いつ山菜取りに行くのか知っていましたね。だから、プエブロさんが山菜取りに行く前日を狙って行動に出たのです!」
おお、コトハちゃんがいつになく生き生きしている。そして、タカネはいつになく「やれやれ」な顔をしている。
「まっとくれ。マッタケロンってなんだべ?」
「やはりプエブロさんや、他の住民の皆さん方はご存知ないようですね。マッタケロンとは千年に一度収穫できるキノコです。そして、今回の事件の凶器として使われました。なにせ、猛毒が含まれてますからね」
「え!それは変だべ。確かに俺は、一か月前に山菜採りをした時に、マツタケモドキとは少ーし違うようなキノコをちょっと採ったべ。でも、俺もモハクも、ホピだって食べたけど大丈夫だったべ」
「それもそのはずです。マッタケロンの毒は女性にしか効かないのです!」
「そ、そんな…!じゃ、じゃあ俺がナバホたちを殺しちまったのか…。俺がそのキノコあげたばかりに…」
純粋な青ゴブリンたちは、コトハの話を聞いて一斉にどよめき始めた。プエブロが毒キノコをあげたため、ナバホとアデナは死んでしまったのだと・・・。
「なぁチビ。それおかしくねーか?だって、他の住民がマッタケロンを収穫して、もし女が食べてたら他にも遺体があるはずだが、二人しか死んでねーぞ」
「チビじゃないってば!いいですか、それこそが、村長の狙いだったのです。村長は元々希少なマッタケロンをほんの少しだけ残しておいたのです。確実にプエブロさんに採らせるためにね。美味しそうなキノコを見つけたプエブロさんは採られずにはいられないでしょうから」
「まっとくれ。なぜワシがプエブロにマッタケロンを採らせなきゃいかんのじゃ?」
「どうせ、プエブロさんからナバホさんたちへのアデナちゃんの誕生祝いが決まらず、悩んでいると聞いて、山菜はどうかとでもアドバイスしたのでしょう。そして、その機を逃さんとした村長は、プエブロさんにマッタケロンを採らせ、それをナバホさんにあげさせ、二人を殺したのです!」
「確かに俺、村長に誕生祝いについて相談したべ!」
「ほら、プエブロさんからの証言も取れましたよ」
コトハ探偵(仮)のドヤ顔が加速した。
「なあ、仮に村長がやったとして、なんで村長は二人を殺したんだ?」
「カゼカには分からないでしょうね。長年の後悔や悲壮感が時に殺人の動機になると言います。村長は、一人の時間が多く、孤独感や死の恐怖と心の中で戦っていたのでしょう。そしてそんな時に、あまりに幸せそうなホピさん一家を目撃し、心に溜まっていた闇が溢れ出したのです。彼らにも同じ孤独と恐怖を味合わせてやりたいという、闇の凶器がね」
コトハちゃんは、どこかで読んだことがあるような推理小説のセリフをドヤ顔で言った。タカネは思う。推理小説も隠しておけば良かったと・・・。いや、隠しても見つかっちゃうんだけどね。
「お…おい。その…話は本当だべか…?村長」
鉛のような低音を響かせ、聴衆の輪を割って入って来た男。それは、妻と子を同時に失ったホピであった。彼は筋肉や脂肪が枯れてしまった身体を、必死に動かし探偵一行の下へ来たのだ。たった一つの真実を求めて。
「ホ、ホピ!違うのじゃよ、ワシは何もしとらんべ!」
「いいえ、村長。僕の事は騙せませんよ。何せ村長しかマッタケロンの存在を知らなかったんですからね!山菜狩りを生きがいとしているプエブロさんでさえ、知らなかったキノコについて、村長は随分と詳しく知っていたようでしたからね」
「それは村長として、この山についての知識を持っていたから知っていたんじゃよ。それに、ワシは寂しくなんてないぞい。亡くなった家内と死ぬまで人生を謳歌すると約束したからの!」
「そ、そんなこと信じられません!」
おっとー!村長のあまりの真っ直ぐな瞳に、コトハ探偵(仮)が狼狽えたぞ!で、結局の所どうなの?タカネよ。
「助手君。村長を一方的に攻めるのはいけないな」
「タカネさんまで!僕の推理は完璧のはずです!」
「な…なあ。結局なんで俺はナバホとアデナを失ったんだ…よ…?村長じゃないなら、誰なんだよ…。プエブロおじさん、あんたか…?そういや、随分とナバホとアデナが可愛いって言ってなもんなぁ…。俺が羨ましくなってやったんだろ。そうだよ、だってあんたがマッタケロンをナバホに渡したんだもんな…。あんたが…俺から家族を奪ったのか…。」
心に大きな穴が開いた彼は、温厚で有名な青ゴブリン族と思えない言動をしている。親しき隣人を疑い、悲しみなのか怒りなのかよく分からない感情で、身体を震わせて。
「お、落ち着くべホピ!確かに、あのキノコをナバホに渡しちまったのは俺だ。さっきも言ったけんど、俺が殺したのと変わんねえ。でも、俺は知らなかったんだべ!俺はあの山菜が持毒を持つマッタケロンだって知らなかったんだべ!だって、俺自身も食ったし、大丈夫だったから…」
「そうですよ、ホピさん。プエブロさんは犯人ではありません。むしろ、村長に犯人に仕立て上げられたのです。なにせマッタケロンの毒が女性にしか効かないと知っていたのは村長くらいなのですから。そもそも、タカネさんがマッタケロンを食べてからのオーバーリアクションは変でしたし。やっぱり村長が犯人なのです。」
「だ、だからワシはやっとらんべー!」
「犯人はみなそう言うのです。テンプレってやつなのです」
「村長がやったのか…。そうか…。ならさ、村長。俺の事も殺してくれよ。今すぐナバホたちの元へ行かせてくれよ!」
「ホピ、どうしたのじゃ!?ワシらの種族がどれだけお互いのことを、大切に思っているのか、忘れた訳じゃないべな!?ワシや、ここにいる村の誰かが、ナバホたちを殺したと本当に思っとるのか!?お主も心の中では気づいておるのじゃろ、ワシらが犯人じゃないことを!」
「はは、そう思いたかったよ…!でもな…、ナバホとアデナは死んじまったんだべ!誰かのせいにしないと心が抑えられないんだべ!俺は…、この後悔の気持ちをどう対処したら良いか分からないんだべ!だから、頼むべ…教えてくれ…。誰が二人を奪ったんだよぉぉぉおおおお!!!!」
「おいおい。こいつまたパニクって暴れだすんじゃねーか?また気絶させるか?」
「いや、大丈夫だ。私が話をする」
そう言い、少しずつ我を失いかけ、何に対してもがき抗えば良いのかもわからなくなったホピに近づく探偵。果たして、彼は一ゴブリンを闇の沼から救い出すことは出来るのか?
最後までお読みいただき、ありがとうございます。