初めまして、ゴブリンさん
少しグロい描写があります。
初任給?を得て、後ろめたい気持ちもなく爆睡出来た、探偵とその助手。本日はどうやら、また冒険者ギルドに向かうそうです。あれれー、この2人って、冒険者ギルド嫌々してなかったっけー。「だって、お金欲しいもん」だそうです。やはりお金の力は偉大だそうです。お金さえ手に入れば、何でもしちゃうし、どこへでも行っちゃう。ほら、特にコトハちゃんなんて、頭の上に目が$の銭神なんて乗せちゃって。
「コトハ、その銭神を退けなさい。お金の欲に負けるようでは立派な探偵にはなれないぞ」
「良いんですー、僕は。一生タカネさんの助手として生きていきますー」
(はー、困ったな。コトハにはちゃんとした人生を生きて欲しいのだが。私のように、殺人よりおぞましい人の憎悪と誰かが悲しむ様を見ていたら、コトハの心が壊れるかもしれんからな・・・)
「今日はどの依頼が良いですかね~」
(ま、今のコトハに何を言っても無駄だがな。とりあえず、依頼を探すか)
だが探偵が依頼書を手に取ろうとした瞬間、後ろから、世にも恐ろしい、人の憎悪なんてミジンコほどにも思える、何かが迫って来た。ヤヴァイ、皆、逃げてー!
「あらやだわ~。タカネちゃんたら、そんな俊敏に逃げなくても良いじゃな~い」
「ジョ、ジョーさんではないですか。きょ、今日はどういったご用件で・・・?」
「うふふ。聞いたわよ~。タカネちゃん、あの開かずの金庫を開けてみせたんだって~。しかも、あの狸じいのお店まで繁盛させちゃったとか。すごいわ~。やっぱり私が見込んだ男ね~」
ぞぞぞぞ!!寒気だ。殺人犯を目の前にしても平気な探偵に、ここまでの寒気を感じさせるとは、やはり、ジョー・オカマはただ者ではない。
「だから、クルナギ・ジョーさんですってば、タカネさん。それからマスター、僕たちこれから依頼を探して、お金を稼がないといけないので、失礼します」
「ちょっと待ちなさい、生意気小娘。そんな貴方たちに、とっておきの依頼を持ってきてあげたわよ~ん」
「え!ホントですか!?どんな依頼ですか?僕たちまだDランクなので、大層な依頼はお引き受けできませんけど」
「うふ、大丈夫よ。どうやら、タカネちゃんは頭が切れる良い男らしいから、頭を使った依頼よ~」
「ほう、それは興味深いですな。どれどれ」
オカマスター(いいね、オカマスターってあだ名)から貰った依頼書には、こう書かれていた。
『私は農業を営む者です。実は、“裏山”にゴブリン一族が長年住んでいまして、あ、別に襲われたとかではないのですが、まあ、お互い干渉せずの関係ですので。しかしですね、最近になって、裏山から爆発音や「ムキー」というゴブリンさんの悲鳴がしょっちゅう聞こえてきましてね。少々不安に思いまして、調べていただけると幸いです。あ、でも退治とかはしないでください。悪い種族ではないと思いますので。穏便にお願いします』
ではここで、コトハちゃんによるツッコミをご覧ください。
「いや、裏山にゴブリンが住んでるっておかしいでしょ!それに鳴き声ムキーって猿ですか!あと、この依頼人なんでこんなにゴブリンに優しいんですか!」
「コトハ、女の子なんだから、ムキっとするのは止めなさい」
(ムキー!またお父さんモードだ!)
ファンタジー専門家ではない2人でも一度は聞いたことのある、“ゴブリン”という言葉。ゴブリンとは、ファンタジーに出てくる小人の妖精のことだ。正し、“醜い”妖精だと言われているが。そんなゴブリンが、この国の山に住んでいる。助手ではないけど、おかしいやろ。
「しかしこの依頼。普通に考えて、ゴブリンの繁殖期だから気性が荒くなっているからとか、小競り合いが起きたとか色々と原因が考えられますが。それに、この依頼のどこが頭を使った依頼なのか、ご説明願えますかな、ジョーさん?危険な香りがしますけど、ジョーさん?」
「まあまあ、二人ともそんなに怖い顔しないでちょうだい。それがね、ゴブリン族は、繁殖期はあっても、パートナーの取り合いなんてしないのよ。意外とシャイな種族だから、お見合いとかするのよ~。喧嘩も一族の危機が訪れない限りは起きないって言われてるわ~。だから、私たちも不思議に思ってるのよ。きっとタカネちゃんの頭脳が必要な謎があるのよ。本当はスイの所が担当するべき仕事なんだけど、今手が離せないのよ。兎に角ね、この依頼良いと思うわよ~」
「ゴブリンがシャイで、お見合いをするとは、にわかには信じられませんがね。人間が相手なら職業柄私も良く戦闘しているのであれですが、ゴブリンは未知なのでダメですな。兎に角、コトハを危険に巻き込むわけにはいかないので、依頼はお引き受け出来ませんぞ」
「うふふ、それは大丈夫よ。そう言うと思って、今回は特別に、ギルドから一人助っ人を貸してあげるわ~。これで、貴方たちの身も安全ってわけ」
「助っ人ですか?」
「はいはい、いらっしゃい、カゼカ」
そこに現れたのは、コトハと同い年くらいの少年であった。ボーイだよ、ボーイ。髪はサラサラな桃色、瞳はブラウン。どこにでもいる(いねーよ)可愛いボーイだよ。
「えっと、ジョーさん。お戯れが過ぎるようですな?」
「きゃ、タカネちゃん、その目はダメよ~。怖いわよ~。それに、私は真面目に言ってるのに~。ほら、カゼカ、自己紹介してちょうだい」
「拙者の名は、ミナヅキ・カゼカ。ミナヅキ家当主だ。ジョーさんの頼みだから、仕方なくお前たちの護衛をしてやるぜ。有り難く思えよ」
「な、なんですか、拙者って!侍モドキですか!この歳で当主っておかしいでしょ!それから、なんで上からな態度なんですか!」
「こら、コトハ、ムキー禁止だぞ」
「そうだぞ、チビ。可愛くないぞ。あ、お前男か?どっちにしろ弱そうだな」
「ムッキー!!!」
コトハちゃんはれっきとした女の子なのに!・・・ま、髪は短いし、服装も女の子らしくないから、男の子に間違われるのは今までもあったんだけどね。
「ごほん。ジョーさん、こちらの少年はもしや、魔法が使えるとかですかな?それなら確かに、護衛と言われても文句は言えませんが」
「いや、拙者、魔法なんて使えないぜ」
「へ、ではその身体で、一体何が出来るのかね?」
「タカネちゃん。タカネちゃん達は来たばかりで知らないと思うけど、ミナヅキ家って言ったら、この世界でも有数の剣技を扱うお家柄なのよ。しかもカゼカは、稀にみる才能の持ち主で、この若さで当主になったんだから~。ちなみに、最年少強者でもあるのよ」
「うそーん」
2人は疑心暗鬼満載の目で少年を見た。オカマスターの話が本当だとしたら、この少年は剣の才能が滅茶苦茶あって、しかもかなり強いということになる。
「どうだ。拙者はこんなギルドにいる奴らよりも強いんだぜ!」
「カ・ゼ・カ~!私のギルドの者を侮辱するのは、頂けないわね~」
「や、やめろっ!こめかみグリグリはダメだ。割れるー!」
「はぁー、分かりましたぞ。この少年を連れて、ゴブリンさんたちに会いに行きますよ」
「あらそう!頼んだわ、タカネちゃん!」
(何か、嫌な予感しかしないんですけど・・・。それに、この桃色頭、何でこんなに偉そうなのさ。プンスカ!)
しょうがなく依頼を引き受けたタカネ。強いとはにわかに信じられない少年と共に、ゴブリンさんたちが住む山へのいざ出発。
「それでは早速、助手君と少年を連れて、行って参りますぞ」
「いってらっしゃ~い」
投げキッスをしながら3人を送り出したオカマスター。しかし、3人の後ろ姿に向かって、小さく呟いた。
「ごめんなさいね。これも王姫様からのご依頼なのよ。でも、カゼカが一緒だから大丈夫だと思うわ。頼んだわよ、“異世界”からのお客さん」
・・・
徒歩で一時間半。かなり歩いたぞ・・・。都の西、郊外近くにある依頼人の農家宅に到着した。その家の後ろにそびえ立つは、ゴブリン一族が長い間住んでいる、山、通称“リセン”である。(裏山と書いてリセンと読む)。
「おおー!立派な山です!」
「うむ。不思議な雰囲気も纏っているな」
「とっとと依頼人に話聞くぞ」
都の発展に伴い人口やビジネスが増えたため、農地を探していた依頼人の農家さんが、やっと見つけた土地はリセンの目の前であったのだ。どうやら、この山にはゴブリン一族が住んでいるので、今まで誰も買わなかったそうだ。しかし、この農家さんが、ダメもとでゴブリン一族に掛け合ってみたところ、すんなりとリセン前の土地を使用してもオーケーだと言われたそうだ。ゴブリンさんたち、マジ良いやつっす。パねえっす。
「へえ、農家さんはゴブリン一族に会ったことがあるんですね」
「はい、最初は恐怖心もあったのですが、会ってみたらとても温厚で、どこかの田舎っぺを彷彿させるような方たちでした」
「なんか、益々僕が知っているゴブリンのイメージとかけ離れていきます」
「ちなみに、助手君のイメージとは?」
「えっと、ゲーム好きの友達によると、冒険ものの雑魚キャラとして出てきて、大抵新米冒険者に退治されて、稼ぎや経験値の足しにされるんだそうです」
「それは酷いな。でも確かに、依頼の掲示板にはゴブリン退治の依頼もあったな。私にはよく分からん」
「お前らそんなことも知らないのかよ。このリセンに住んでいるゴブリンは青ゴブリン族で、退治依頼が出るゴブリンは、赤ゴブリン族だ」
「なにその、気弱な青鬼と強気な赤鬼の話みたいなの」
「なるほど、では青ゴブリン族は人間に危害を加える虞はないのですな」
「虞なんてとんでもない。このリセンに住んでる青ゴブリンさんたちは、赤ゴブリン共とは比べ物にならないくらい、良いゴブリンさんです」
さらに話を聞くと、どうやらこのリセンという山、都指定保護区に認定されているそうだ。なので、もし外部から不法侵入した者がいた場合、都保護区管理局が直ちに出向くようになっている。ちなみに、農家さんや探偵一行は、事前に管理局から許可を取っているので、リセンに入ることは可能だ。ただこの申請、通るまでに数か月を有するほど、入念に身元調査をされた上で判定される。農家さんは数か月かかったが、探偵たちはジョーさんが伝えただけでオーケーだった。ほんと、何者だよ、あのオカマスター。
「話も聞いたことだし、いざリセンに入るとするか」
「ラジャーです」
「さっさと行くぞ」
(ムキー!護衛のくせに偉そうに!)
ゴブリン村への道中、保護区とだけあって、山の幸とおもしき植物が沢山自生していた。タケノコモドキとか、マツタケモドキとか。そういえば、季節はないのだろうか、この世界は。山道には幸い細い道があり、迷うことなくゴブリン村へ行ける。ただ、ゴブリンさん専用の山道なので、大の大人であるタカネには堪えたようだ。その様はとりわけ、綱渡りをしながら、山登りをしていると言った所だろうか。
「はあああああ。疲れた。足が棒のようだ」
「お疲れ様です、タカネさん」
「けっ、このくらいでへばるなんて、もう歳なのか?」
「こら、少年。君はもう少し、剣よりマナーを学んだほうが良いのではないか」
山頂付近へ到達した、探偵一行。そこで出迎えるは、ゴブリン村の村長だ。お、本当に体が青い。パステルカラーの青だ。なんだよ、そこまでパステルカラーにこだわるのかよ。いや良いんだよ、だって優しい感じ出してるし。パステルカラー、ナイスジョブしてるし。
(パステルカラーゴブリン・・・)
そして、更に着目すべきは、ゴブリンさんたちが来ている服だ。なんとインディアン風の服装だ。村長の胸元の羽飾りが良い味を出している。都だからといって袴じゃない所をみると、彼らは先住民か移民といったところか。
「お主らが、管理局が言っていた者達だっぺか?ようこそ、いらっしゃったべ」
(ほんとだー!田舎っぺっぽい!!)
「お初にお目にかかります。我々は冒険者ギルドから依頼されて参った者です。この村の村長とお見受けしますが」
「いかにも、ワシがこの村の村長ポモだべ。いやー、山道登って来たっぺか。お疲れだっぺー。ささ、ワシの家で休むといいべー」
「なんだか、気が抜けますね。青ゴブリン族は本当に良い人たちみたいです。それに、村の感じ、特に変わった所も見当たりません」
「そうだな」
「だから言っただろ。お前らがビビり過ぎなんだよ」
(このガキんちょー!プンスカ!)×2。
ゴブリンさんたちの住居はこれまたインディアン風だ。猫村とはまるで雰囲気が違う。中が意外と広いのは同じだが。いやはや、三角住居は独特の味がある。お、ちゃんと敷居が高くなっていて、ネズミ返し的なものもあるではないか。昔の人?の知恵は世界が変われど、変わらんらしい。
「早速ですが…」
「あれは一か月前のことだったんだべ」
(でた、秘儀“語り出す”!)×3。
説明しよう、秘儀“語り出す”とは、相手のことなどお構いなしに、突然語り出すことである。この秘儀、現実の世界で繰り出そうものなら、空気読めない扱いをされ、影者にされるのがオチであるが、何を隠そう、ここは異世界。この秘儀は万能であった。
・・・・・・
―およそ一ヶ月前
“裏山”と書いて“リセン”と読む山に住む、新婚の青ゴブリン夫婦。若旦那のホピと若妻のナバホは、お見合い結婚だ。幼馴染であるにも関わらず、青ゴブリン族の血のせいで二人ともシャイだったが、お互いの優しさに触れて、今ではすっかりラブラブであった。
新婚生活一か月目には、待望のベイビーが産まれた。だってほら、そっちのほうは赤ゴブリン族並みに凄いっていう伝説があるし。この村の新婚さん夫婦は、結婚してすぐ、もうほんと直ぐベイビーが産まれるのだ。ただし、いくら凄くとも、一家に一人しかベイビーは誕生しない。なんでも、“リセン”の面積を考慮して、遺伝子が余り人口を増やさないようにしているとの見解だ。遺伝子は偉大である。
「あなた、この子の名前はアデナにしましょうよ」
「アデナか、うん、良い名だね」
アデナと名付けられたベイビーは、元気な女の子だ。目元は母親のナバホに似ており、口元は父親のホピに似ている。両親の良いとこ取りとは、やはり遺伝子は偉大だ。
「ほら今、アデナが笑ったわ!あなたの笑顔にそっくりね」
「はは、笑った時の目が細くなる所なんて、君にそっくりじゃないか」
「あなた」
「ナバホ」
ストップ、ストップ!!誠に申し訳ございませんが、ゴブリンイチャらぶ夫婦が第二ラウンドへ行こうとしているので、回想を早送りいたします。
お話は翌日のお昼へ。
「コンコンっと。おーい、ホピかナバホいるかー?」
「ガチャッと。あら、お隣のプエブロさん」
「いやー、遅くなっちまったんだが、これ採れたばっかの山菜だべ。誕生祝いにもらってくれ」
「まあこんなに!ありがたいべ。あ、プエブロさんもアデナに会っていってくださいな」
「おー、赤ん坊の名前、アデナいうべか。あやー、こりゃあ可愛いべ」
大量の山菜を持ってきたのは、隣に住んでいるプエブロだ。青ゴブリンの一族は、本当に仲が良く、特におめでたいことがあると、こうして祝いの品を持ってきたり、必要な物がないか、手伝えることはないかと、色んな人がやって来るのだ。
「ナバホ、誰か来ているのか?あ、プエブロおじさん、今晩は」
「お、ホピは今仕事終わったべか。まったく、こんなべっぴんさんもらって、赤ん坊も天使みたいにめんこいなんて、ホピも幸せもんだべ」
「はは、まったくです」
「んじゃ、俺は失礼するべ。ちゃんと山菜食ってくれよ、美味いべから。ガチャッと」
「はい、ありがとうございます」
家の中には、既に子供用の洋服やオムツ、ぬいぐるみ等、様々な貰い物が溢れかえっていた。まあ、ほとんどは誰かのお下がりなのだが、新婚夫婦にとっては有り難いことである。
「見てあなた、タケノコモドキにマツタケモドキまであるわ。今夜はご馳走ね」
「やったな」
そして贅沢なお鍋が完成して、アデナも含めて、3人で山菜を美味しく頂いた。すると、ホピはスプーンをテーブルに置いて、少しナバホの顔色を窺いながら、話を切り出した。
「・・・あ、あのなナバホ、こんな時に言いずらいんだけどさ」
「あら、どうしたべ?」
「いやちょっと、来月から家計費もう少し抑えて欲しいんだべが」
「なんでさ、これでも切り詰めてるべよ」
青ゴブリン族は都が管理している特別指定区域に住んでいるが、古来より続く暮らしは何も変わっていない。自給自足の生活で、自然に産まれる瞬間を大切に、そういう理念の下で暮らしている。だから贅沢はしないし、必要最低限のお金でやりくりをするのが基本だ。
「いやさ、実は、モハクがリフォームするゆうから、お金あげたんだべ。けっこう」
「まあまあ、あのモハクが!リフォームなんて良いわー。ええことしたべ、そのお金でモハクも立派な家に住めるべ。向いに住んでるから、リフォームの様子見れっかしら。よし、アデナ産まれたばっかだけど、節約頑張るべ」
「すまねえ、ナバホ」
「謝ることなかあ。これもおめでたい事だべ」
いや、青ゴブリン族どんだけ良心に溢れてるんだよ!というツッコミはさておき、新婚夫婦は幸せの絶頂にいた。
「さ、冷めない内に食べるべ!」
「ああ!ほら、アデナ、美味しいべか?」
「あう~」
アデナは嬉しそうに笑った。ゴブリン族は人族と違って、産まれた時から胃が丈夫だから、けっこう何でも食べれたりするのだ。
そして、アデナを寝かせた後は、将来について語りあって、イチャらぶした。それはもう幸せであった。
・・・・・・
―現在
「ポモ村長、ちょっとよろしいですかな。今まで語られた内容は、新婚夫婦の幸せ物語としか取れないのですが」
「そうだべ、素敵な話だべ」
「タカネさん、どうしますこれ?何の事件性もないですし、ご老人お得意のエンドレスストーリーを聞くだけで終わってしまいますよ」
「ああ、分かっている。カゼカ少年なんてあっという間に寝てしまっているしな」
村長の家で事の発端を聞いているタカネたち。だが、新婚夫婦のイチャラブストーリーから中々進展しない。いや、この村長、なんでこんな詳しく知ってるんだよ・・・。むしろ怖いぞ・・・。
「村長さん、僕たちこの村の様子が可笑しいって聞いて来たんですけど」
「知っとるべ。確かにこの村は今、可笑しいべ。みんなピリ辛してるべ」
「ピリ辛?」
「んだべ。だけん、ワシが今、事の発端を話してるんだべ」
「ふむ、どうやらその新婚夫婦が関係しているようですな。分かりました、では話の続きをお願いします」
「まかせるべ。あれは、あの幸せ一杯だった日の翌日のことだったべ」
あのー、コトハちゃんがピリ辛を気になって仕方ない様子なんですけど?あ、はい、話し始めるのね。
・・・・・・
豪華な晩餐と共に、益々の幸福と、アデナの健やかな成長を願った翌朝。旦那のホピはいつものように学校へと向かった。学校といっても、ホピは学生ではない。教師として、チビゴブリンたちに勉強を教えているのだ。簡単な計算や、社会科と称して人族の暮らしを主に。そして、妻のナバホは家事をこなし、娘のアデナのオシメを変えたりと、なんら不思議な所はなく過ごしていた。
「ほら、アデナ~。まあ、笑ったわ~!」
一ついつもと違う所を上げるなら、この日はホピに珍しく残業があったくらいだ。どうも、生徒の一人が親と喧嘩をして、家に帰りたくないと駄々をこねていたのを慰めていたらしい。温厚な青ゴブリンにも思春期はあるのだ。
「いやー、ただいまナバホ、アデナ!遅くなってすまなかったべ。あれ、ナバホ?可笑しいべ、いつもなら玄関まで来てくれるのに。寝てしまったんべか?」
そう、ホピが家に帰ると、ナバホとアデナは寝ていた。永遠に目覚めることのない眠りだが。双方とも、身体がバラバラになっていた。それはもうバラバラに。指の関節や足の関節まで綺麗に分かれているのだ。
「あ・・・あああ・・・」
ナバホは食卓の床の上に体のパーツが散乱している。アデナに至っては、ベビーベッドの上のため血溜まりができて、これまたバラバラの体のパーツが半分以上血に浸かっている。ゴブリンといえど、人型なので、背の低い人族と同じような体の形をしているのだ。それゆえ、バラバラになっていても、何となく何処のパーツなのかが分かる。そして、幸いにして、関節部分のみ切断されているので、内臓は飛び散ってはいない。
「な、ななな、なんだべ!ナバホ!ナバホ!はは、可笑しいべ、ナバホが手足の取れた人形の様になってるべ・・・。そもそもこれは、ナバホなのか…。あ、顔が、ナバホの顔がある。そ、そうだ。アデナ、アデナ、お母さんが…。うそ、だろ…。アデナまで。訳が・・・分からないべ」
彼の目は震えていた。呆然のあまり「ははは・・・」と薄ら笑いのような音が口からポロポロと溢れてしまっている。だが、それは次第に、この意味不明な現実に対する怒りへ変わった。
「そうか、これは夢か。昨日幸せ過ぎたから、神様がちょっと怒って悪夢を見させてんだべ。ほら、起きるべ、ホピ。早く起きるべ。それで、またナバホの笑顔のお早うを見て、アデナにお早うって言うんだべ。く、そ。早く起きろって、目覚めろって言ってんだろっっ!!!」
ホピは自分の顔面を殴り続けた。ほっぺが青白く充血しようとも、鼻と口から血が噴き出そうとも、ひたすら殴り続けた。悪夢が覚めてくれると信じて。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。