探偵の異世界初仕事
翌日。こうしちゃいられないと、探偵と助手は急ぎ冒険者ギルドへ向かった。何故かって?金だよ。お金が必要なんだー!!(切実)そして、あいにくとギルドにはオカマさんはおらず、依頼は結構張り出されていた。なんでもオカマさん、都政府に招集されたらしいよ。
「よし、我々はラッキーだ。ジョー・オカマは不在、そして依頼表は沢山。助手君、我々でも出来そうな依頼をピックアップしてくれ」
「分かりました。あと、マスターの本名はジョー・オカマじゃないですからね。クルナギ・ジョーさんですからね」
冒険者ギルドをイメージすると、活気に溢れていたり、酒を飲んでいる人がいたりと、賑やかだが、このギルドにはほとんど人がいない。それに、明らかに他国から来たような冒険者ばかりだ。
「このギルド、人気ないんですかね?」
「さてな。1週間前から継続している“大変な事”のせいかもしれんぞ」
「む?どういう事ですか?」
「この依頼票たちを見たまえ。ほとんどの依頼の発行日が7日から8日前。1週間も経過しているのに、これだけの量が溜まっている。確かに、人気がないという事も考えられるが、受付の壁を見る限り、それはないだろう」
コトハは受付の壁を見た。そこには、“BEST GUILD OF THE YEAR”と書かれた賞状が幾つも飾られている。これが意味するのは一つ、このギルドの評価がめっちゃ高いということだ。
「ほへ~!あのマスターってマジモンに凄いんですね!」
「う、うむ。兎に角だな、その凄いギルドで人手が足りない事態が発生しているというのは、些かおかしいとは思わないかね?」
「むーん、確かに」
「まあ、依頼が選び放題の状況は、我々にとっては嬉しいのだがな」
都初心者の2人は、“大変な事”の詳細を知ることも出来ないので、依頼を達成してお金を得ることに専念することにした。けれども、他の冒険者と思しき人々の見よう見まねで、右から左まで、二人は一通り依頼表に目を通してみたのだが、2人揃ってこう呟いた。
「わけわかめだ」
「ですね」
「そもそもなんで、魔物退治の依頼がこうも多いのだ?三つの頭を持つモンスターだの、百の手を持つモンスターだの。この世界は、つくづく我々の世界の常識とかけ離れているようだな」
「あー、タカネさん。そういった系の依頼はSランク所持者又は、Aランク数名のパーティーでないと受けられないみたいです。僕たちはDランクの依頼を探しましょ」
蛇足だが、この世界では、ギルドランクなるものが存在し、Sランクが最上位であり、強者と呼ばれる人々の多くはSランク所持者である。招き猫村長みたいな、ギルドに所属していないが、(元)Sランクと呼ばれる強者もいる。どちらにせよ、Sランクになるには、超人レベルの能力が必要とされている。例えば、古代大魔法を使えたり、自然や天候を操れたり、それこそ百の手をかわし、魔人の喉元に刃を突き付けることが出来るなどなど。え、てこは、あのオカマさんマジでヤヴァくね!?ぷっふ、よし忘れよう。夢に出てきそうだ。「うふふ」とか言いながら攻撃するんだ、きっと。
「えっと、Dランクだと、Dランク指定モンスター退治、迷い家畜の捜索、素材集め系、後は、開かずの金庫を開けてくれっていう依頼くらいです」
「ふむ。犯人を退治することは得意なのだが、魔物退治は遠慮願いたいからな。そうなると、迷い家畜の捜索か、開かずの金庫の依頼だな。報酬金額は、金庫の方が上か」
「どうしますか?ツケが溜まっていることを考えると、金庫の方が良いかもしれませんね。タカネさんなら直ぐに開けられると思いますけど」
「ああ。その可能性は高い。しかしだな、この依頼。依頼が張り出された日付を見てみたまえ」
「え!10年前!?」
「その間、挑戦した者は多々いるであろう。しかし、誰一人開けることは叶わなかったという事だ」
「ほえー、そんなに厄介な金庫なんですかね。もしかして、魔物が住んでたり、古代魔術がかかってるんじゃ」
「その可能性は考えたが、それはないだろう。なぜなら、この依頼はDランクに設定されている。もし、魔物や魔術が関係していた場合、もっと上位のランク指定になるはずだ。つまり、この依頼は危険ではないが難解だということだ」
「なるほど。なんだか気になってきましたね、金庫」
「そうだな、よし、では金庫の依頼を引き受けるとするか」
探偵は依頼書を手に、ギルドOLへ受諾を申し出たのであった。ギルド“闘喜乱舞”のギルドOLさんは、人型狐族のお姉さんである。やはり、狐と袴は似合うものである。笑うとどうしても、胡散臭くなってしまうのを除いて。だってほら、狐顔だもん。何か裏を感じるもん。あ、ほら。依頼表を確認した時に一瞬「あんさん方みたいなのが、この依頼を引き受けるなんて、おバカにもほどがあるどすえ」って思ったぞ、このギルドOLさん。
「ほな、これでこの依頼はあんさん方のもんどす。せいぜいおきばりやす~」
「ありがとうございます、お嬢さん」
「(タカネさん。あの人の言葉って京都弁ですかね?なんだか闇のオーラが見えた気がするんですが、気のせいですかね)」
「(分からん。レディの心は、世界一の難題だからな。)さ、とっとと依頼を済ませに行こうではないか」
ギルドから徒歩十分。この依頼の金庫がある家へ着いた。てか、近くね?うん、世間は狭し。依頼人の家は、どうやら茶屋を営んでいるようだ。暖簾には三色団子が描かれている。建物全体がパステルカラーの緑と黄緑のドットだから、三色団子なのかすら分からないが。ねえ、なんで?なんでせめて三色団子だけでも色変えなかったの?!茶屋だから緑系なのは分るけど、この団子は認められんぞ。
「さてと、店主に話を聞きましょうか」
「助手君もツッコむのは止めたんだな」
「ツッコんでますよ、心の中でね!でもね、口に出すと疲れるんですよ!プンスカ!」
「はは」
プンスカしながら店内に入ってみた。カウンター席とテーブル席があり、内装はちゃんと茶屋のイメージに沿っていた。お客さんはいないが。
「すみませーん、開かずの金庫の依頼を引き受けた者ですが。店主さんいらっしゃいますかな?」
「おや、随分と久しぶりに金庫に挑戦しに来たんだねえ」
出てきた店主さんは、人型狸族のおじいちゃん狸さんであった。なんか、招き猫村長と話が合いそうだな。お互い「ふぉっふぉっふぉ。」とか言って語りあっちゃったりなんかして。
「それで、さっそく問題の金庫を見せて頂けますかな?」
「見せるもなにも、そこにあるぞい」
「え、どこですか?」
「これじゃよ、これ」
「いや、コレコレ詐欺は止めてくださいって!」
「詐欺じゃないぞい。ほれ、これじゃぞい」
そこにあったのは、そう、かの有名なタヌキの置物。あの小脇に酒入徳利を抱えたタヌキの置物だ。ちゃんとお腹も適度に出ているし、でべそだってちゃんとダイアル式の鍵になってるし←、お目目だって明後日の方向を見ている。ていうか、もう目はいってしまっている。何処へ?さあね、タヌキのみぞしる世界なのさ。
「なんでやねん」
「これが、ワシらの茶屋“ぽん”が長年開けられずにいる金庫ぞい。まあ、開かんとも縁起が良いと思って、こうして置いておるのだぞい」
「なんというか、ツッコミどころが多すぎて、頭が忙しいです。僕」
「私もだ・・・。ごほん、えー、それでは暫しこの置物を調べさせてもらいますぞ」
「頑張ってみるがいいぞい。ワシはあっちで世界通信でも読んでおるからの。ふぉっふぉっふぉ」
(なんだろう、この狸じいさん、ウジャイなー)
かくして、探偵はタヌキの置物の隅々に亘るまで調べた。いやこの図、まるで変態だ。だってまるで、タヌキの置物をまさぐっているかのようだから。これが本来の四角い金庫の形なら恰好がつくというものを。まことに残念である。
「なんか、分かりましたか?タカネさん」
「ああ。助手君、このタヌキの両目どう思う?」
「えっと、完全にいっちゃってますね。ある意味、ホラーです」
「そうだな。いってしまっている。だが、注目すべきは、この目の周りだ。可笑しいとは思わないかね?」
「うーん、あ、ほんとだ!まつ毛みたいな線が沢山ありますね。なんか目を一周の円とすると、90度ずつに一本太い線があって、短い線が二本ずつ太い線の間にあります。目だけではなく、まつ毛もいっちゃっているようですねー」
タヌキの目の周りにある線は、子供がイタズラ描きをしたわけではなく、しっかりと正確に規則正しく書かれてから焼かれたようだ。
「そうだ。この両目にある線がカギかもしれん」
「えー、この変な線がですか?」
「謎とは変なものであることが多いのだよ、助手君。それに、この感じ、どこかで見覚えがないかね?」
「うーん、見覚え。うーんとー。あ!なんだか時計に似てます!ほら、12時、3時、6時、9時の部分がこの太い線で、残りの線が残りの時間を表しているような!」
「その通り。無理矢理感が否めなくもないが、このまつ毛モドキたちは時計の各時刻を表しているのであろう。そして、この黒目の位置。左目は丁度10時と11時の間、つまり10時30分を指していて、右目は4時と5時の間、4時30分を指していると思われる。」
「ほー、でもその時刻が分かっても、その時刻は何を表しているんですかね?」
「助手君、知っているかね。タヌキの置物は古来より、店の店頭に置かれることが多い。店と時刻、この二つのワードが示すもの、それは開店時刻と閉店時刻の可能性が高い」
「いやいやでも、10時半に開店して、4時半に閉める店なんてありますか!?」
「すいません、ご店主!この店の開店時刻と閉店時刻は?」
「いきなりなんぞい。朝は10時半に開けて、夕方の4時半には閉めるぞい。なんせ、ワシは早寝遅起きじゃからの。ふぉっふぉっふぉ」
(ウジャイ)
狸の店主は呑気に酒を飲みながら“世界連盟発行”と書かれた新聞を読んでいる。まあ、確かに客が悲しい程いないからねー。その内潰れるぞ、きっと。
「まさかのまさかにピッタリ当たっていますね」
「ご店主はああ言ってはいるが、恐らく、この茶屋が創業以来この時間設定だろう。そもそも、夜に団子を食べにくる客も少ないしな。開店が遅いのは、あれだ、狸族は寝坊が多いのだろう」
「とりあえずこの、いっちゃっている目とまつ毛の謎は分りましたが、これだけでは金庫は開けられませんよ」
「ああ、そこでこの徳利だ。この徳利には縦に三十二と書かれている。そして、よく目を凝らしてみると、三と二の文字だけ各線が矢印のようになっている。三の文字は右矢印が三本。二の文字は左矢印が二本だ」
「うわー、細かい!よくよく見ないと気づきませんね、これ。あ、てことは、この、でべその二重ダイヤルを右に三回、左に二回、回せば良いんですね!」
「確かに、皆そう考えるだろう。実際、この矢印に気が付いてダイヤルを回してみた者もいるだろうしな。しかし、なぜ長年開かずのままだったのかを考えると、ただダイヤルを回すだけではダメなのだよ」
「えー、じゃあどうしたら良いんですか」
「分からんかね、助手君。この開店時刻と閉店時刻を使うのさ」
タカネは、いっちゃっている目と睫毛を指さした。でも、開店時間と閉店時間を使うというのは、どうしたら良いのだろうか。だって、その時刻にダイヤルと合わせても開かないのだ。
「え、あ、もしかして10時30分を1030として、4時30分を430として、足して1460、引いて600。それぞれの数に掛ける3と掛ける2をして、えっと、それから…」
「ははは、助手君。落ち着きたまえ。そんなに深く考える必要はないさ。ほら、でべその二重ダイヤルの周りをよく見ると、これまたさっきのまつ毛と同じように時計のようになっているだろう。だからこう、単純に、一段目のダイヤルを開店時刻に設定し、二段目のダイヤルを閉店時刻に設定する。それから一段目を右に三回、二段目を左に二回、回すのさ。もしもダメなら、今度は開店時刻と閉店時刻を逆にしてやってみれば良いだけだ」
「あ、そっか。今まで挑戦してきた人たちは皆、ダイヤルを回すスタート地点をゼロに合わせて考えてたから、ダメだったんですね」
「そう、しかも、ちゃんとスタート地点が正しくないと、たとえマグレで回した後の位置が当たっていたとしても、開かないようになっているという訳だ。一種の固定概念を利用したトリックだな。助手君、せっかくだからやってみなさい」
「あ、はい。えっと、これをこうして、ああしてっと。・・・おー!タカネさん、開きましたよ!」
こうして遂に、10年間、開かずの扉を死守してきたタヌキの置物の金庫は異世界から来た探偵の手によって開かれたのであった。そう、タヌキの丁度いい感じに出ているお腹という名の扉が…。絵面はホラーであるがね。
「ご店主、お待たせいたしました。開きましたぞ」
「え!ごふっ!ゴホゴホ。それは本当なのかぞい?!」
店主のくせに、客が来ないからって、今度は三色団子をほおばっていたらしい。それを詰まらせたのだから、自業自得というものだろう。心配なんてしてあげないんだからね。
「ふぉー!!開いておる!本当に開いておるぞい!いやはや、期待はしておらんかったんじゃが、まさか開けるとはのう。お主、ワシが代表して礼を申しても良いぞい!よくやったぞい!」
(スーパーハイパーウルトラ、ウジャイ)
ともあれ、肝心のタヌキの置物の腹の中身なのだが、タヌキの内臓ではなく、一冊のボロボロになった薄い本が入っていた。薄い本ってそっち系の本じゃないよ。本の中身はなんと…!一種のレシピが載っていた。え!?それだけ!?金塊が入っていたり、お宝の在処が書かれてたりするんじゃないの!?
「えっと、これはどうやら秘伝のレシピのようですね。何々、『秘伝レシピ“五色団子フォンデュ”の作り方。五種類の味の違う団子を作り、チョコフォンデュやチーズフォンデュに付けて食べるとあら不思議、味が変わります。そのままでも美味しい。付けて二度美味しい。それが五色団子フォンデュ』だそうです。ちゃんと五色団子の作り方も書いてありますよ。味に関しては疑心暗鬼ですが」
「ふぉっふぉっふぉ。それは早速作って売り出すぞい!」
「この中身なら、面倒くさい解錠なんてしなくても、壊しちゃえば良かったんじゃないですか?」
「これこれ。中身が分からないからこそ、解錠するのだぞ」
狸じいさんは、厨房の奥へと消えていった。後日、この五色団子フォンデュを売り出したところ、空前絶後の人気となり、めっちゃ儲かった狸じいさんが、夜な夜な札束を数えて、「ふぉっふぉ、ふぉっふぉ。」と言っていたとかいないとか。まあ、秘伝のレシピなるものに期待し、捕らぬ狸の皮算用を狸自身がやっちゃったもんだから、世の中不思議な事もあるもんだ。
「なるほど。“他を抜く”タヌキの置物の中には、他の店に負けないレシピが隠されていたということか」
「何ですか?」
「いや、世界が違うのに似た物は存在しているのだと思ってな」
「お金儲けは世界共通なんです」
「はは、その様だ」
鐘、いや、金は鳴る。文明が発展した世界で、金が存在していない世界などあるのだろうか。どれだけ技術が進歩しても、近未来的になっても、お金という概念が消える日はこないのかもしれない。
・・・
「あら、おかえりやす~。諦めて帰って来たどすか~?どれ、また依頼表を貼りなおす手間がかかりますわ~」
「いえ、その手間は不必要ですぞ。この通り、依頼は達成しましたからな」
「へ?」
依頼書に書かれた狸じいによるサインを確認した、ギルドOLさん(タマコさんと言うらしい。あるあるな、名だね!)。まるで死人が目の前に現れたかの様に驚くタマコさん。狐を馬に乗せたようとはこのことである。狐自身が、落ち着きをなくしているけどね。
「タマコさん、大丈夫ですかね。相当取り乱していたみたいですけど」
「大丈夫さ。人を見た目で判断してはいけないということが分かってもらえて良かったではないか。それに無事、報酬10000エンも得られた」
「前から思っていたんですけど、言語とか文化とかお金の単位まで日本と同じって可笑しくないですか?」
「それはそうだな。異なる世界がここまで同じ物を共有する可能性はゼロではないかもしれないが・・・。ふむ、これも我々を召喚した者が関係しているのかもな。神ならば可能かもしれん」
「あれ、タカネさん、神様信じてないって言ってませんでしたっけ?」
「ああ、信じてはいない。探偵という職業柄、実際に目にしたものしか信じない主義だからな。しかし、魔法だの、しゃべる猫だのを目のあたりにしては、神様も存在すると言われても疑えなくなったのだよ」
「僕も同じです。もうなんでも来いって感じです。いやー、これで安心して今日は宿で寝れますね!10000エンももらえるなんて!依頼に書いてあった報酬よりも多いですけど」
「ああそれは、依頼人が、今後繁盛間違いなしだから、前借で謝礼を報酬に追加してくれたそうだ」
「はは、本当に繁盛すると良いですけどねー」
彼らはまだ知らない。五色団子フォンデュブームが、もう直ぐそこまで来ていることを。そして、コトハちゃんもその虜になってしまうということを!
・・・
初依頼達成後に、猫村に帰ったらドヤドヤニヤニヤしながら、宿へ向かった、コトハちゃん。でもね、その顔は止めたほうが良いよ。お嫁にいけないよ。
「コトハ、その顔止めなさい」
(あ、僕を名前で呼ぶ時は、お父さんモードになってる時だ!これはいけない)
「ん?今度は何を笑っているのかね?」
「すみません、つい嬉しくて。やっぱり、自分たちで働いたお金で生活するのが一番ですよね。いや~、すっきりです。あ、僕ナターシャちゃんにツケの分と今日の宿泊費払ってきますね。おっと、食事代もあるんだった」
(まずいな。コトハを金の亡者になるように育てた覚えはないのだが。たまに事件がなくて、赤字だと言ったのがマズかったのか・・・?)
(今更)忠告しておこう。タカネとコトハは親子ではない。コトハは、若くして亡くなったタカネの友人夫婦の子供である。友人夫婦の死後、彼女がまだ小さかったことから、タカネが世話をし、一緒に住んでいるのだ。それで、タカネはたまに、お父さんっぽくコトハに接してしもうことがあるのだ。まあ、コトハがタカネの助手になったのは成り行きだけどね。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。