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雑用キャンパー就活太郎  作者: 木兎太郎
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第十話

「そ、そやつらは……我が優秀な部下であるぞ?」

「確か精鋭だとか言っていましたね」

「もしかして、我が戦闘は……茶番だったのか?」

「歴史に残る戦争でも、視点を変えれば茶番になります。古龍との戦闘中に疲弊した勇者を討伐する。報告の際には、想定以上に勇者は奮闘し、古龍では討伐が難しかった為に手を下した――から、大手柄でしょ? というのが彼らの狙いでしょう」

「つまり、全てはオマエの言った通りか」


 しょぼんと俯くリオン。口元には自嘲的な笑みを滲ませ、聖剣を床に刺した。投げやりな動作にも関わらず、背には「ズンッ!」の二文字。厄介なスキルだな、と思いつつも、太郎は古龍に視線をやった。


「久しぶり。最近の調子はどうだい?」

「まあまあだわよ。可も不可もない隠居は出来ているかしら」

「不殺の約束も守ってくれているようだね」

「でも、簡単なことではないの。わっちのスキルが向いているだけ」

「敵の体力を削るのに持ってこいだからね。おかげで何度も戦争を回避しているよ」

「はぁ、龍使いの荒い人間だわね」

「みんな生きるのに必死なのさ。ガーデニアに戻ったら褒美を頼んでみるよ」

「濃厚なワインを龍単位で一年分ってどうかしら?」

「国中の工房が禿げるだろうね。ひと月分でどうだい? もちろん龍単位で」

「とびっきり辛い生ハムも付けて下さる?」

「それならいけるかも。きっとギルド長が何とかしてくれるさ」

「運搬用の龍を出す用意があると伝えておいて」

「ハハハ、切り札には持って来いの文句だ」


 ジトッとする濡れた布のような視線に気づいた。その視線を確認すれば、やはりリオンからの不満が込められている。太郎は彼女の考えを読めた。オマエも私を利用して、自分の利益を高めているだけだろ? という軽蔑の視線である。


「龍相手には、随分と解けた口調である。異種族恋愛かね?」

「そこに軽蔑は無いですが、今回は違いますよ。ですが、友人ではあります」

「ふん、我をどうするつもりだ?」

「あぁ……何か勘違いをされているようです。別に何もしませんよ」

「嘘だ! 我々を捕えて手柄を得るつもりであろう?」

「いいえ、手柄は要りません。これ以上の身分は邪魔になるだけです」

「で、では……この後はどうするつもりなのだ?」

「予定ではリオンさんに彼らを連れ帰ってもらうつもりでした。聖剣を失って逃亡という窮地から、逆賊を捕えて妨害を証明……とすれば、そこに義があるでしょう」

「な、なぜ、赤の他人である我にそこまで?」

「それが僕の受けた依頼だからです。あなたを国に帰せと受けました」

「依頼を達成するだけなら、聖剣を失った我を武力で追いだせたはずである」

「……強いて言えば、リオンさんが美人だったからかもしれませんね」

「そんな、それだけで?」

「――冗談ですよ。保証できることと言えば、害を加える気がないことくらいです」

「……オマエという男が、さっぱりわからないよ」


 どうやら太郎の言い分を信じたようで、保証された安全に溜息を落とす。もはや彼女の威厳は、とことん死んでいて哀愁が満たしていた。そんな様子に太郎は指先で頭を掻きつつ、この後のことを考えている。これで全てが済んだなら、どれだけ楽だったか――未だ、事態は終息していない。


「まだ終わりじゃありません。先ほど説明した予定は、既に頓挫しています」

「どういうことだ?」

「見ての通りに、1人だけ足りませんから」

「……そういうことか。この事態は、既に報告されていると?」

「その可能性はありますが、断言はできません。今のところ確実なのは、最後の一人が戦争派と繋がっていること。そして、このままリオンさんを生かして帰国させるはずがないことです。おそらく別の部隊を連れて戻るでしょうね」


 太郎は顎を撫でつつ「それも勇者を確実に屠れるような強力な部隊を」と足した。その一言に、リオンの表情が曇る。そこで太郎は顎を撫でつつ思考の水面に身を沈めた。正直いって状況は芳しくない。これ以上に手を貸せば、流石に依頼の越権を問われる可能性が高い。このまま三人の魔導士を連れて、彼女を帰国させるのが丸いのだろうか。その場合は、彼女が道中で始末されるかもしれない。死体は瓦礫山脈にでも放られて、結局は戦争になる。世間には疎い太郎も、流石に戦争は避けたかった。


 あまりに人為的かつ平らな天井を見上げながら、太郎は溜息をほうった。


「ここで野営でもしませんか?」

「「…………は?」」


 古龍からも、そしてリオンからも冷たい反応が返ってくる。自分の巣で野営などされれば、確かに邪魔なだけだ。しかし、ここ瓦礫山脈で上手く人の視線から隠れられるのは、この古龍の洞穴だけだ。あとは単なる瓦礫が満たしており、魔法を使えば遠くからでも様子を窺えるかもしれない。


「まあ、わっちの話相手になるのなら、無きにしも非ずだわよ」


 古龍の方は砕けた。未だにリオンの表情は険しいままだ。


「オマエの役割は、我を追い出すことではないか」

「これは作戦です。後続部隊を待って、リオンさんが迎撃する。その戦闘に勝てば、義を持って帰国できる。但し、負ければ死あるのみ。いつもと同じですよね?」

「負ければ死あるのみ、か。確かに日常茶飯事ではある。だが、後続部隊は強力なのだろ? 勝てる見込みの方が薄いはずだ」

「それなら死ぬだけです。戦って死ぬか、逃げて死ぬか、どちらを選びますか?」

「無論、戦って死ぬ方を選ぶのである」

「で、あれば、僅かでも勝機を高めるべきです」

「まさか、手を貸してくれるのか?」

「それは都合よく考えすぎです。しかし、古龍の巣で戦うのなら、アドバンテージはリオンさんにあります。交戦時には姿を隠しますが、敵は餌でも取りに行ったと考えるはず。いつ戻るか解らない危険な状況下では、いずれミスを犯すはずです」


 しばらく困った顔をしてから、彼女は渋々と言った様子で「わかった」と答える。おそらく、勇者を屠れるほどの部隊が、それで動揺するとは思えないのだろう。だがしかし、彼女は戦うしかないのだ。それで道を切り開くのが、勇者なのだから。


「おそらく後続部隊は一日ほど要するはずです。魔導士からの連絡が無ければ、リオンさんの状態を確認する為に古龍の巣を進むしかない」


 太郎は大きなリュックを下ろして、そこから必要な道具を取りだした。古龍の影響もあって、やや冷えるから天幕も忘れずに準備する。洞穴だからと甘くみて、翌日の体調に響かせては野営組合としての身分が廃る。


 ――では、野営をしましょう。


 太郎の明るい声に、リオンは苦い顔をして、エメロッテは朗らかに笑む。三人の不釣り合いな関係は、さらに歪さを増していた。


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