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第3話 同じ家に帰るということ

第3話 同じ家に帰るということ



「フリージア様、ご婚約おめでとうございます!」

「殿下、とてもお似合いですわ…!」


 朝礼のあと、わたしはノワール様と廊下を歩きながら、ひきつった笑みを浮かべていた。

 今日は私が屋敷を離れ、学校の後そのまま城に移り住む日だ。エミリーは馬車の中で大泣きし、レオナルドが私につくことを羨ましがって今からでも剣術を習いたいと嘆いていた。


「……では、また授業が終わったら」

「ええ」


 私たちはお互いに上っ面だけの笑顔を交わし、互いの教室に入った。彼と話すのはヴィオレッタとの逢瀬を見て以来だ。その間何も連絡がなかった……というのは嘘で、やれ調度品が届いた、やれドレスの生地は、などの業務連絡ばかりはうちに来ていたから。

 学校で倒れたことを家の人たちは知っていたが、理由を話したのはエミリーだけだった。だからこんなに冷たい人だなんてと憤慨して、余計に私を嫁がせたくないという気持ちが強くなっていたようだ。



◇◆◇◆◇



「ふう……」


 授業が終わって、本当にエミリーが迎えに来ないんだわ、と思うと、帰りの馬車の扉が開いて、新しい使用人が笑顔で迎えてくれても寂しいままだった。エミリーの名前がこうだったかは覚えていないけれど、私は「主のことが大好き」という設定が好きだから、きっとエミリーもそうだったと思う。そう考えると、安心して話せる貴重な相手だったのだ。


 目の前に殿下が座ったけれど、特に話すこともないから外の景色を見て過ごした。 


「……この前の話ですが」


 視線を彼に戻す。この前の、というのはきっと空き教室のことだろう。


「僕は二人で話をしていただけです。他にやましいことは何も」

「ええ、そうですか」

「信じてないですね」

「信じるも何も。殿下が好きなのは彼女でしょう」

「なっ……」

「何にしても。見たのが私で良かったと思ってください。……他の生徒だったら、殿下も私も立場がありませんよ」

「…貴女は嫌じゃないんですか」


 わざわざ嫌かどうか聞くなんて、意地悪な人だ。嫌だと言ったってどうしようもないのに。

 これは決められた物語だから。


 以前通された部屋に、同じように案内される。大きなベッドに、洗練された雰囲気のある家具たち。この部屋にあるものの色が揃えられているからか、外出着のグリーンが浮いているように思える。


 実際、持ってきたドレスはこの着ているもの、そして下着を何枚かだけ。落ち着く物があれば持ってきてもいい、と彼に言われたけど、どうせ新しく彼らの色に染まっていかねばならないのだからと諦めた。


「フリージア様。お着替えを」

「ええ」


 できれば風呂を済ませてからゆっくりしたかったが、国王とお妃が夕食を共にしたいと言ってくださった。髪の毛を乾かす時間も惜しいので、簡単に身なりを整えてもらう。

 鏡の中の私はもう水色のドレスが似合っていて、この瞳の色だけがダルトワ家の人間なんだという実感をもたらした。2週間も前は髪もプリンのまま過ごしていたのに、フリージアとしての気持ちが芽生えてきていることがおかしくすら思える。


 メイド長のような人がまずは私についてくださるようで、私のマナーについてお小言(指導とも言う)を言いつつも私をきれいだと褒めながら支度してくれた。これもこれであたたかいけれど、どうしてもエミリーの友人のような、もしくは姉のような雰囲気を求めてしまう。この人にもきっと失礼だから、早く忘れなければ。


 私を迎え入れる晩餐会のようなものらしく、少人数ではあるが殿下の他に大臣(なんとサラのお父さんらしい)や殿下のお父さん(国王の弟)もその場にいた。関係は良好のようで、とくに派閥争いはなさそうだ。


 なんなくこなして、ようやく部屋に戻る。今度はお風呂だと使用人たちが呼びにきて、笑顔を見せつつも煩わしいと感じてしまった。

 同じ建物に住んでいるのだから、殿下に会えるタイミングもあるのかと思ったが特にそれはないみたいだ。

 ベッドに寝転んだら、意外に疲れていたようですぐに目を閉じられた。



◇◆◇◆◇



「……?」


 ふと、トイレに行きたくなって目が覚める。明日の朝じゃダメかしら?と自分に問いながら寝返りを打って(たまに誤魔化されて寝られるから)、固まった。


 ──部屋に誰かいる。


 急に背筋がさーっと冷たくなった。誰か呼ぶ? でも、どうやって?

 私が寝返りを打ったことで相手も驚いたのか、その人も息を潜めている。私の寝息風の呼吸音だけが部屋に響いた。


 ──5分後。


 私の膀胱は限界を迎えていた。

 やばい、このままだと1日目にして事件が…! 尊厳も何もないって!


「ん~……」

「!」


 声を出す。眠りが浅いことをどうにかアピールできれば……。と思ったが、使用人の誰かが廊下を話しながら歩いていく声がした。そんなに大きい声ではなかったけれど、十分気になる。これだと私が起きると判断したのか、その人物は部屋を出て行った。


 せめて1分、と頭の中で数えて、あたかもトイレで目が覚めたように(実際そうだけど)起き上がる。

 用を足して部屋に戻ろうとすると、レオナルドと鉢会った。


「殿下と話でもしたんですか?」

「え? いいえ。何かあったの?」

「先ほどすれ違ったので。あまり遅くまで起きてはいけませんよ」

「ふふ、はい。おやすみなさい」


 レオナルドは笑って、殿下ならまだあの辺りにいると思いますよ、と中庭を指差した。暗いからもう部屋に戻るようにととってつけたようにも言って。

 そういえば、彼には何も言ってないんだったな。ありがとう、と言って一応声をかけてみるか、と中庭のほうに歩いていく。レオナルドの言ったとおり、静かに歩いている姿を見つけた。


「ノワール殿下」


 一応深夜だからと声のボリュームに気を遣ったつもりだったが、彼にとっては驚く大きさだったらしい。肩をすくめてこちらを振り返り、私の姿を捉えるとほっと肩を落とした。そういうところもこの顔だからか可愛らしく見えて羨ましい限り。


「ああ、貴女でしたか」

「夜のお散歩ですか?」

「え、ええ」


 つい声をかけてしまったけれど、もし私の部屋に来ていたのが彼だとして、その真意を見誤ってはいけないことを思い出した。1年猶予をもらったと思っていても、彼が今日明日私を殺したって不思議はない。


「もしかして、起こしてしまいましたか?」

「私の部屋にいらしたんですか?」

「ええ。眠れているかと心配で」


 この言葉をどこまで信じればいいのか。だけど、1%の確率に懸けてお礼を言うことにした。


「ありがとうございます。お優しいんですね」

「いや。…君は妻となる女性ですから。不便があったらいけないかと思いまして」

「?」


 だから、それが優しいと言ってるんだけど。なんだかきまりが悪そうだ。


「……すみません。というのは母の受け売りで」

「あはは! そういうことでしたか」


 言いつけを無視することだってできたのに、そうしなかったということはそれぐらいの優しさは持ってるってこと。鵜呑みにしてはいけないと思ったけど、彼だってまだ10代だ。きっと素直な一面もある。…多分。それが最も顕著に出た部分が、あの日の「2番目の女性」発言なんだろうけど。


「それに、伯母上からもなるべく夜を共に過ごすようにと言われてしまいまして」

「へえ…」


 それはびっくりだけど。なんにしても、無理やり何かが起こると言うことはなさそうだ。


「殿下が優しい方で良かったです。期限付きですけれど」

「フリージア、あまりこの話は外では」


 私が笑うと、彼もきまりが悪そうにしながら、でもほっとしたような顔を見せた。私が彼のことをいろいろ吹聴しないように、機嫌を損ねまいとしているのかも。


「では、せっかくなのでお話をしてくれませんか?」

「お話ですか?」

「はい。ここから」


 わたしは自室の方を指さす。


「あちらまで、お送りいただけないかしらと…」

「ええ、ええ。わかりました」


 王子はかんたんに、1日過ごしてみての感想を聞いてきた。櫛やあの髪飾りがかわいかったと言うと、外国から取り寄せたのだと微笑んでいる。


「むしろ、晩餐会での態度で何か言われないか心配でしたけれど」

「そんなことありませんよ。マチルダも褒めていました」


 マチルダというのはあのメイド長の女性だ。


「殿下がここまでやってくださってるのだから、私も殿下のために頑張らなくてはいけませんね」

「え?」

「私、ちゃんと応援しますから。大丈夫ですよ!」


 仲間を作るには、まず自分が害のない人間だとアピールしなければならない。


「私にできることがあればおっしゃってくださいね」

「フリージア…?」

「あと、お部屋には鍵がかけられるようにしてくださいませんか? 殿下だったからよかったものの、他の人も入れるかと思うと怖くて」


 わざとらしく二の腕のあたりをさすって彼の様子を窺い見る。


「護衛が廊下に立っていますが」

「いくら殿下でも無断で入ってくるのはちょっと」

「……わかりました。謝ります。勝手に入ったことは」


 わたしはうんうんと満足げに頷いた。


「ですが、鍵をかけたら僕が入れませんよね」

「ん?」

「僕も鍵を持たせてもらえるという認識でいいのでしょうか? それならかまいませんが」

「ああ……」


 まあ、確かに夫婦となるんだからそうなるか。むしろ鍵をつけてたら入ってくるなってアピールになっちゃうし。本当はそのつもりだったけど。


「殿下がお一人でいらっしゃるなら。それ以外だと緊張してしまいますし」

「普通逆ではありませんか?」


 くすっと笑って、自分の発言が常識はずれだとようやく気づいて顔が熱くなるのを感じた。確かに、こんなのいつでも来い!と言ってるようなものだ。


「で、殿下のことを信頼していますから」


 この言葉で誤魔化されてくれたかどうかは定かではない。


「では、また明日」

「はい。おやすみなさい」

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