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プロローグ 目が覚めたら、お城に向かう途中でした

 ここのところ、よく眠れていない日が多かった。

 その日も確か、ほとんど眠れないまま取材を終え、終電ギリギリまで会社で記事を書いていた。かけてあった「これ逃したら泊まり!終電用デッドアラーム」で会社を飛び出し、人気のない車両でなんとか間に合った安心感とともに意識を手放したのだ。


「……」


 その割に、お尻が痛かった。かなり。


「フリージア様、もうすぐ王宮へ到着します」


 なんて可愛らしい名前なんだろう。こんな名前の子、きっと顔も可愛いに違いない。いや、むしろ違ったらそれはそれでネタになるかも……。

 と思いながら、まだ目を開けずにいたら、トントン、と肩を叩かれた。


「…?」


 そして私は、言葉を失ったのだ。




第0話 目が覚めたら、お城に向かう途中でした




「あの…」


 やけに近い距離の男の人だ。しかもその人にもたれかかっていたらしく、すみませんと小声で呟いて身体を起こした。クスッ、と向かいの席の女性が笑う。


「フリージア様ったら、昨日は緊張して眠れなかったんですって。お可愛らしい」

「エミリー。お嬢様に失礼だろう」

「だって、ようやくこの日が来たんですもの。私も楽しみにしておりました。……ノワール王子との婚約の儀を!」


 そう言ってエミリーと呼ばれた女性は手を胸の前で組んで、心底嬉しそうな顔をした。可愛らしい人。私は今までもたれていたほうとは反対側に頭を傾けて、目を閉じる。

 ゴン!

 と、鈍い音がして、頭を手すりか何かにぶつけたのがわかった。ズキズキと痛むそこをさすると、エミリーさんは大袈裟に反応する。


「お嬢様!」

「もう。そそっかしいんですから、寝るならこちら側にと言っているでしょう」

「そうじゃないわよ。もう起きる時間ですから。ね、フリージア様」


 そう言って、女性が私の服のすそを捲り上げた。


「ひい!?」


 思わず変な悲鳴が出て、隣の人に助けを求める。


「な、何ですかあなた!?」

「フリージア様! 寝ぼけていらっしゃるのかしら…」


 急に拒絶された女性は怯んだように見えたが、なおもわたしの足を掴んで(このときわたしはなぜか裸足であった)、真っ白なヒールをあてがった。


「なに……なんなの…」


 パニック気味のわたしは、咄嗟に目をギュッと閉じた。すう、はあ、と一定のリズムで呼吸を繰り返す。隣の人が「大丈夫ですか」と言い、背中をさすってくれた。


 目を閉じたまま、わたしはいま見えた情報を整理することにした。


 まず、どう見てもこの中はあの見慣れた電車の風景ではなかった。こう考えている間もお尻は痛い。

 次に、目の前の女性だ。真っ先に目に入った彼女の服装は、黒いワンピースに白のエプロン、いわゆるメイド服と呼ばれるものだった。

 そして私がもたれかかっていた男性。軽装ではあったけれど、奥の方に剣っぽい何かが見えた。

 極め付けは、淡いグリーンのドレスに身を包んだ自分だ。一瞬見えた自分の髪の毛は思いもよらない長さで、しかも淡い金色に輝いていた。


 なんだ。夢か……。


 それなら合点がいく。疲労感+乗り過ごせない緊張感できっと変な夢を見ているんだ。そう考えると少し楽になった。ゆっくり目を開けると、心配そうに目の前の女性が私を見上げている。無理して口角を上げると、ほっとしたような表情を見せた。


「お嬢様。御気分が優れないなら少し休憩しますか。近くに湖があります」

「レオナルド、駄目よ。ノワール様を待たせることになるわ」

「このぐらいなら文句は言われないさ」

「ありがとうございます。そうしてもらえると……」


 レオナルドさんはすぐさま御者にそのことを伝え、馬車は通りがけにある湖で停まった。エミリーさんにあらためて靴を履かせてもらいお礼を言う。ニコッと彼女が微笑んだから、きっとかねてからの関係も良好なんだろう。先に降りたレオナルドさんが手を差し伸べて、軽く頭を下げてその手を取った。日頃スニーカーばかり履いていたせいか、少し歩くのがぎこちない。


 馬が2頭繋がれていて、やはり自分が乗っていたのは電車じゃないんだなと思う。側に寄ろうとすると危ないから、と止められた。

 あきらめて湖のそばに寄り、水面を覗き込む。正直、怖かった。金髪になんて染めたことがない。よくて茶色だが、日本人顔の自分に似合うのか不安だった。


「わっ…!」


 グロテスクな画を覚悟したが、それは杞憂だった。どこからどう見ても別人だ。終電で疲れた顔の20代OLじゃない。それに、なんだか……アニメっぽさを感じる。金髪だからそう見えるだけなのかもしれないけど。


「外の空気を吸ったら少し楽になりました」

「そうですか。…」


 もしかして敬語はダメだったかしらと「ありがとう」と付け加える。ほっとしたような顔になったから、おそらくこれが正解だ。


「ノワール様にお会いするとき、なんて言ったらいいのかな…」

「フリージア様ったら。昨日も一晩中それで悩んでおられましたよ。ほら、こちらを」


 そう言って本を取り出す。また試練が訪れた。この洋風な雰囲気、あきらかに日本ではない。果たして本が読めるのか……!? なんかいいところのお嬢様っぽいし、今更字が読めないとなったらまずいのでは……と思ったが。


「日本語…!?」

「?」


 その問題はなんなくクリアされた。読める読める。なんだ、それなら大丈夫そうだ! そういえばこの人たちとも日本語で話せているし、さすが夢といったところだろうか。



 本の自己紹介によると、私の名前はフリージア・ダルトワ。本当はすごく長い名前らしいけれど、これだけ記されていたからそう名乗ることにする。

 公爵家の一人娘で、家のために王族であるノワールのもとへ嫁ぐことが決まったらしい。彼は現国王の弟の子どもらしいが、かなり……美形とのこと。


「フリージア様。そろそろ馬車に」

「あ、はい」


 受け入れているわけではない。ただ、ワクワクが止まらないのだ。


「帰ったら変な体験したって夢占いの記事も書けるし、夢日記も、そして体験をもとにした小説だって…」


 どうあがいても「ネタ」になる。

 私の書く記事はまだまだ未熟だし、こんなのデスクに訊くまでもなく「ブログにでも書いとけ」案件だ。それでもワクワクしている自分がいる。こんなに面白い機会逃せるはずがないのだ。


「フリージア様~」

「今行きます!」

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