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第79回 ナーサ

 朝日が登る前に起床する。

 畑一面を見渡して、私は大きく息を吸った。


「よし、今日も頑張ろう」


 お水をあげながら、植物たちの健康を管理していく。

 うん。ナスにミニトマト、カローの野菜たちも、みんな元気だ。

 もうじき小さな実が成るだろう。


 気づけばとっくに日は昇り、私や畑を照らしていた。


「アオコちゃん」


 牛舎の方からライナがやってきた。


「牛の餌やりが終わったわ」


「ありがとう、ライナ」


「ねえ、さすがにお手伝いさん増やさない? これから暑くなるし……」


「うーん、やっぱりそうだよね。でも、金銭面で大丈夫かな」


「大丈夫よ。私がキッチリ管理しているんだから」


「た、頼りになるな〜」


 ライナは私の奥さんで、一緒に牧場を経営してくれている。


 優しくて真面目で、私よりも頭がよくてしっかりもの。

 どっちが牧場の主人かわからないくらいだ。


「お昼ごはんどうする?」


「忘れたのアオコちゃん。今日はみんなが来る日よ」


「みんな?」


 遠くからこっちを呼ぶ男性の声がした。

 ライナの父トキュウスさんだ。側にはライナの妹、リューナちゃんがいた。


「やあアオコ、ライナ。元気にしていたか?」


「はい。……リューナちゃんも久しぶり、少し大きくなった?」


 恥ずかしそうに、リューナちゃんが頷く。

 可愛い子だ。


 すると、


「おわああ!! リューナ!! アオコ!!」


 今度はコロロちゃんが走ってきた。

 婚約者のユーナちゃんまで一緒だ。


「ちょっとコロロ、私が先よ!!」


「へへへーん!!」


 二人して私に抱きついてきた。


「アオコ、久しぶりだな!! 風邪引いてないか?」


「ライナ姉さまと喧嘩してない?」


「だ、大丈夫だよふたりとも」


 相変わらず、元気いっぱいのカップルだな。


「リューナも久しぶり!!」


「うん。ユーナ、風邪引いたって聞いて心配したよ」


「もう平気!!」


 遅れて、コロロの父のクロロスルさんが歩いてきた。


「おやおやトキュウス殿。こんなところで油を売っているなんて、執政官のくせに暇なんですなあ」


「あなたこそ、クロロスル『元』執政官殿」


 こっちは相変わらず仲が悪いな。


「ふん、良いかコロロ!! 今日は誰よりもたくさん食べて、我が一族の凄さを見せつけるのだぞ!!」


「はーい!!」


 そうだった。

 今日はみんなで昼食を食べる約束をしていたんだ。

 たしかあと二人は来るはず。


「アオコ」


「うわっ!!」


 いつの間にか、友人のアンリが後ろにいた。


「ちょっと、驚かせないでよ」


「のんきに突っ立っているお前が悪い」


 彼女の隣には、ベキリア人のノレミュがいる。

 二人は結婚しているのだ。


「ふふふ、アオコさん。アンリさんってばこんな態度ですけど、昨晩は楽しみすぎて中々寝付けなかったんですのよ」


「言うなノレミュ!!」


 ホントに、いつまで経っても素直じゃないんだな、アンリは。


 家からテーブルと椅子を運んで、食事を並べていく。

 パンに、スープに、お肉に、サラダ、甘いお菓子。珍しい卵まである。

 ウチの牧場で取れた牛乳や、チーズも一緒だ。


 もう少し先だったら、自慢の野菜を出せたのに。


 さあ食事をしようと席につくと、


「おーい」


 シーナ家がやってきたのだ。


「シーナさん!? それにルルルンさんまで!! 来ないって言ってませんでした?」


「仕事が早く終わってな。駆けつけてきたのだ。お〜、ライナよ。相変わらず可愛いなあ!!」


「ふふふ、くすぐったいですよ、姉上様」


 シーナさんは軍の最高司令官として、人々を襲う魔獣を退治している。

 もともと執政官だったけど、戦争が終わって、憎きポルシウスとも和解し、政治から身を引いたのである。


「アオコちゃん、こんにちは」


「ルルルンさん。お久しぶり……って」


 シーナさんの妻、ルルルンさんの腕の中に、小さな小さな赤ちゃんがいた。


「ナーサちゃんを連れてきてくれたんですね」


「家でお手伝いさんたちに預けようかと思ったんだけど、せっかくならみんなに会わせたくなってね」


 ナーサちゃん、すやすや眠っている。

 可愛いな。


 改めて、みんなで食卓を囲む。

 幸せだ。

 みんな楽しそうだ。

 この世界に来て、ライナと出会って、戦ったこともあるけれど、いまはこうして、牧場でのんびり気ままなスローライフを満喫している。


 ライナが私の手を握った。


「私たちも、そろそろ作る?」


「え!? う、うん!!」


「ふふふ」


 もし、これから先、なにが起きても、この平和を守っていきたい。

 私やアンリ、シーナさんがいれば、絶対に大丈夫だ。


「ごめんなさいアオコちゃん。お手洗いに行くからナーサを頼んでいい?」


「はい」


 ルルルンさんからナーサちゃんを受け取る。

 安心して眠ってる。

 可愛くて、つい口角が上がってしまう。


「どんな不幸が訪れても、必ず守ってあげるからね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私の剣がナーサの腹部を突き刺した。


「くっ!!」


 苦悶に顔を歪め、吐血し、目は真っ赤に腫れていた。


「私を殺して、ただで済むと思うなよ」


「あぁ、だから私が引き継ぐよ」


「は?」


「皇帝になる」


「家族を殺して、皇帝になるって? ふざけるな」


 なるさ。

 かつてのシーナのように。


 ただの貧乏女子高生だった私が、人を殺し、騙し、選ばれ、成り上がってきた。

 最後は、超大国の頂点だ。


「ナーサ」


「……」


「ごめんね」


 夢を見ていた。

 みんなが平和で、笑い合っている夢。

 馬鹿げた夢だ。


 根本的に、私が召喚された時点でライナの死は決定しているというのに。


 ライナも会いたかっただろな。


 ナーサが倒れる。

 涙を流して、呟いた。


「マ……マ……」


 完全に事切れる。

 これまでで一番、後味の悪い殺しだった。



 騒ぎを聞きつけ、数名の兵士と、アンリが入ってきた。

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