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第72回 ルルルン

 ルルルンさんが亡くなった。

 シーナがいなくなって生命力が著しく低下した上、可愛い義妹のユーナに殺されかけたのだ。心身ともに弱りきって、病に侵されてしまったらしい。


 初代皇帝の妻ではあるが、本人の希望で慎ましく弔われた。

 街外れの一族の墓に、棺桶ごと埋められる。


「うっ、うっ、ママ……」


 ナーサが膝をついて号泣していた。

 たったひとり、最後に信じられる者すらいなくなったのだ。


「ナーサ、ルルルンさんは最期になんて?」


「シーナママのように、自分と周りを信じて突き進みなさいって。ひとりにしてごめんって」


 無難だな。

 私も泣くべきだろうし、泣きたいくらいルルルンさんが好きだったが、涙がでない。

 悲しいという感情は、確かに胸にあるのだが。


「ナーサ、シーナやルルルンさんに恥じないよう、これからも政務に励もう」


「……」


 無視か。

 怒るつもりはないが。


 それから墓標を立てて、葬儀も終わろうかとしたころ、


「遅れてしまったわね」


 褐色の肌をした、中年の女性が側近を引き連れやってきた。

 湖の国の王にして、シーナの愛人、キリアイリラだ。


 来るとは言っていたが、まさか本当に……。


 ナーサは腕で涙を拭うと、皇帝らしい凛々しい顔つきを維持し、握手した。


「この度は、どうも」


「いえいえ」


 キリアイリラが私に向けて微笑んだ。


 ナーサに聞こえないよう、耳元で語りかける。


「よくもまあ来れましたね。あなたにとっては敵では?」


「同じ女を愛した仲よ? 敬意くらいは払うわ」


 ルルルンさんは来てほしくなかっただろうけど。


 キリアイリラが墓標の前で祈りを捧げた。


「ここに辿りつくまで街を見て回ったけど、ずいぶん変わったわね。まるで、別の国のよう」


「あなたが最後にカローにきたときは、まだシーナは皇帝ですらなかったですね」


 私のスキルで浮気の発覚を防いでやったのだ。

 まぁ、ルルルンさんは察していただろうけど。


「まさに、シーナの国」


「ここには、いつまで?」


「ふふ、さっさと帰れと?」


「別に」


「もう少し滞在するわ。いいでしょう? ナーサ皇帝」


 ナーサがもちろんと頷いた。

 キリアイリラにはポルシウス討伐の際の恩がある。

 それに、湖の国はカローの友好国。


 無下にはできまい。


「せっかくだわ。この期にいろいろ語り合いましょう。シーナの娘さん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ただいま」


 ベッドで横たわるリューナに近寄る。

 リューナは、ルルルンさんが亡くなったことを知らない。

 教えていない。


 これ以上、刺激するわけにはいかないから。


「いよいよ、私たちだけになっちゃったね」


 この家には、もっと大勢の人間がいた。


 ライナがいた。

 トキュウスさんがいた。

 シーナがいた。

 ユーナがいた。


 みんなでご飯を食べて、おはようとおやすみを言い合った。


 でも、いまは私とリューナだけ。


「家、広くなったね」


 戻りたい。

 戻れたらいいのに。


 時間を遡る第三のスキル、『色褪せない想い(プリームス・アモル)』では、数分前しか戻せない。


 プリームス・アモルを覚えて一年以上、幾度かスキルを発動したが、戻せる秒数は数十秒増えただけ。

 何年も、となるには、どれくらい熟練度を上げなくてはいけないのか。途方もなくて考えたくもない。


「寂しいね」


 リューナの頬に触れる。

 私に残された最後の家族。


 そろそろ会議に参加しないと。そう立ち上がろうとした瞬間、


「アオコ……さん……」


 リューナが、私の腕を掴んだ。


「リューナ……」


 喋れるように、なったのか。


「元気、だして、ください」


「……」


 たまらなくなって、抱きしめる。

 よかった。よかった。少しずつ、元に戻りつつあるんだ。


「うん、元気だす。がんばるよ」


 懐かしい。

 昔こうやって、ライナに慰めてもらったことがある。


「わたしは……」


「ん?」


「ライナ、お姉さまの代わりには、なれないけど」


「……」


「いつだって、愛しています。アオコさんの、帰る場所として」


「リューナ……」


 代わりになんてならなくていい。

 リューナはリューナだ。

 私の中には未だライナがいる。それは変えようがない事実。


 しかし、リューナのこともーー。


「私も愛してるよ」


 唇を重ねる。

 私は、ずっと何かに縛られて生きてきた。

 この世界に来る前は親に。

 ライナに。

 シーナに。


 けど、リューナを絶対に守るという決意だけは、私の意思だ。

 私は、独りじゃない。

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