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第32回 神に選ばれし者

「隊列を崩すな!!」


 ちょっとずつ後退しながら応戦する。

 現在なによりも優先すべきは、包囲網からの脱出。

 幸運にも、敵の増兵は綺麗な円形を描いて私たちを囲んでいるわけではない。

 地形を上手く利用すれば、抜け出せる。


「私が殿しんがりを務めます!!」


 大丈夫、こっちにはスローと時間飛ばしがあるのだ。

 それに、兵の質ならこっちの方が格段に上。

 あのベキリア戦争を超え、統率も各兵士の能力も強まっているのだ。


 補充要員として入隊したベキリア人も、強者揃い。


 寄せ集めの軍隊なんかに劣るものか。


「ア、アオコ隊長助けて!!」


「待っていますぐ!!」


 理想の世界へ(カエルム)で時間を遅くし、味方を救う。

 解除された直後、今度は別の兵士が討ち死にした。


「あ!」


 くそ、間に合わない。

 シーナやノレミュは無事か? 離れてしまったから安否がわからない。

 こんなとき、アンリがいてくれたら……。


「やつがアオコだ、こ、殺せ!!」


「くっ!!」


 再び私だけの時間を生み出し、返り討ちにする。

 このまま私が一人で攻め込んで元老院やポルシウスを殺すか?

 ダメだ。強力なスキル持ちが護衛しているかもしれないし、後ろの味方を守る役がいなくなる。


 唯一希望があるとすれば、敵がこちらを攻撃するのに対して些細な躊躇いがあるということ。

 気持ちはわかる。だってお互い、同じ国の人間だから。

 友達がいるかもしれない。仕事仲間や、親戚がいるのかもしれない。

 それを、その気持ちを踏みにじって、許せない。


 しかしどうする。後退しきれるのか。

 仮にできても反撃は可能なのだろうか。


 いやだ、負けたくない。

 殺されたくない。あいつらなんかに!!


 途端、シーナ軍が立ち止まった。


「な、なに?」


 今度はなんだ?


 まさか、退路を絶たれたのか?


 犬の姿の伝令係が走ってくる。


「アオコ殿、シーナ様から言伝が」


「なんですか?」


「『よく持ちこたえてくれた、存分に攻め込め』」


「は? だってまだ……」


 けたたましい雄叫びが戦場に鳴り響いた。

 ふと目を凝らすと、東の方角から見覚えのある集団が包囲を突破し、敵本隊に突撃しているのが見える。


 ベキリア戦争の終盤、敵の増援として戦ったもう一つの民族。

 その名も、


「ガラム人。……な、なんで」


「シーナ様がなにかをしたのは間違いないでしょう」


 横から強烈な一撃を食らい、ポルシウス軍に動揺が走る。

 そうなっては、急ごしらえの軍隊の統率は一気に乱れるだろう。

 現に、敵兵たちは足を止め、事態の観測に勤しみだす。


 反撃のチャンスだ。


「アオコ殿!!」


「う、うん。一気にケリをつける!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結局、日を跨ぐことなく決着がついた。

 ポルシウス軍が大打撃を受けたことにより、加勢していた他国の兵たちが見切りをつけて退散したのだ。


 今後、どう転ぶかわからないカロー政権を考えれば、下手にシーナを刺激し続け、恨みを買われるわけにもいかなくなったのだろう。


「はぁ……はぁ……」


 夕日が沈んでいく。

 視界の端から端まで広がる無数の屍が、赤い日差しに照らされる。


「終わった……」


 シーナが後ろから近づいてきた。


「いま、元老院やポルシウスを捜させている」


「そうですか」


「いやはや、本当に運がいいな。我々は」


 敵兵の死体を弄っているガラム人たちに視線をやる。

 戦利品が欲しいのだろう。


「なんで、ガラム人が……」


「ベキリアを出る際、やつらに下知しておいたのさ。追って兵を出せと。戦力は多いにこしたことはないからな。それから伝令係を使って、情報のやりとりをしていたわけだ」


 数日前の夜、テントで読んでいた手紙はそれか。


「予想では、ガラム人が国境付近に到着するのは明日だったのだがな」


「え!?」


「間に合って助かった。ベストなタイミングで、横から攻撃してくれた」


 自信満々にシーナが微笑む。


「ガラム人、我が軍、そしてアオコ。お前たちが私の味方で良かったよ」


 私は、私のスキルが最もチートだと自負していた。

 だって世界に影響を及ぼす能力だから。

 けど、違った。

 最も強く、恐ろしいのは、この人の先を読む力と、みんなを従えるカリスマ性。

 そして、強運。


 シーナは、神に選ばれているのだ。

 世界の頂点に立つ存在として。

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