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第25回 オムニス・ネゴ

 援軍勢に向かって馬を走らせる。

 やがてある程度接近したところで、シーナは速度を落とした。

 悠長に馬を歩かせているのだ。


 ガラム人たちの視線が、シーナの赤いマントへと集まる。


「やつがシーナだ!!」


 一斉に矢を向けられる。


「アオコ、頼んだぞ」


「はい」


 理想の世界へ(カエルム)の次なる力、『誰も邪魔をするな(オムニス・ネゴ)』。

 その効果は、一定の間、時間を飛ばすこと。

 戦の合間でいろいろ試した結果、一つ分かったことがある。


 それは、飛ばされた時間は『無かった』ことになるということ。

 つまり、わかりやすく説明すると、


「打てーーーっ!!」


 放たれた数十の矢は、次の瞬間にはシーナの周囲の地面に突き刺さっていた。


 本来、直撃していたであろう時間が無かったことになり、実質的にすり抜けたのだ。


「な、なんだあいつは……」


「ひ、怯むな!!」


 何度も何度も、矢が飛んでくる。

 もちろん、すり抜けさせたが。

 シーナは私を信頼しきって、ただ悠然と前方を見つめながら馬を歩かせていた。

 誰も邪魔をするな(オムニス・ネゴ)は便利な能力だが、味方の行動も阻害する恐れがあるため、頼り切るわけにはいかない。


理想の世界へ(カエルム)


 今度は時間を遅くして、私はガラム人を殺していった。

 何人も何人も。まるでシーナの近くにいる者が片っ端から死んでいくかのように思わせるため。


 制限時間を迎え、カエルムが解除されると、殺したガラム人たちが地に伏した。

 いったい何事かと、生き残った敵兵は悲鳴を上げる。


 その瞬間、


「好きにさせるかカロー人!!」


 シーナの背後に、細身の男が出現した。

 こいつだ。クロロスルを誘拐し、私たちを苦しめたスキル持ち。


 男が手を伸ばす。


「あ!」


 くそっ、驚きで反応が遅れてしまった。

 きっと、触られながら能力を発動されたら、シーナはベキリア人の本拠地に連れて行かれてしまう。

 こいつは自分だけでなく、近くにいるものも移動させられるはずなのだ。


 男がシーナに触れる。

 私か向こう、どちらが先にスキルを発動できるかの瀬戸際。 


 ダメだ、間に合わない!! シーナが持っていかれる!!


 いや、待て。違う、問題ないんだ。

 スキルを発動されてもまったく問題ない。

 なぜなら、


「な、なぜ移動できない!?」


 シーナのスキル『神に選ばれし者(ファートゥム・レクス)』はスキルの効果を無効にできるから。


「カエルム!!」


 決まった。

 私の勝ちだ。


 それにしても、シーナだって男の出現に気づいたはずなのに、未だ平然と前だけを見つめている。

 とことん信用しているんだ、この私を。


「シーナさんに近づくな」


 男を蹴り飛ばし、剣で突き刺す。

 そして、またスキルが解除されると、シーナは自軍の兵士たちに告げた。


「皆殺しにしろ!!」


 シーナ軍が興奮に身を任せて雄叫びをあげる。

 それが引き金となって、ガラム兵は指示されるわけでもなく潰走をはじめた。

 このままでは、本当にあの化け物に殺される。そう生存本能にしたがって。


「読み通りになっちゃいましたね」


「無論だ」


 均衡した戦況。そこにシーナが到着しただけで、一気に形勢が変わった。

 一切の攻撃が通用せず、側にいるだけで殺される。スキル持ちでさえ殺された。

 まさに怪物。人が歯向かっていい相手ではない。


 これで、ベキリア人に劣らず反抗的だったガラム人は思い知るだろう。これからもカローに……いや、シーナには従順でいようと。


 そして、飢えに苦しみながら最後の力を振り絞って戦っていたベキリア人たちの心が、完全に折れた。

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