第12回 二年後(前編)・天才美少女品行方正カロー人、コロロ登場!!
朝、目を覚まして、まず真っ先に庭の植物に水をやる。
今年も順調に紫色の実が成っている。
ナスっぽい見た目だけど、こっちの方がシャキシャキ感というか、水っぽさが強い。
あと味もね。不思議とピリ辛。
もう一箇所、育てるのが難しいらしい植物も問題なく花をつけていた。
小さな白い花びらがぴょこんと顔を覗かせていて、愛らしい。
本によると、どうやらこの子はニンジンやお芋のように根が美味しいタイプの植物らしい。
どのくらい根っこは太くなったかな? 経験の浅い私には検討がつかない。
なんにせよ、収穫はまだまだ先だ。
次回こそシーナさんにも食べてもらいたいな。それができたら、いよいよミニトマトの栽培を始めよう。
「カロー中にミニトマトを流行らせてやる。ぬわ〜!! 考えただけでもワクワクしてきた」
それからダイニングで一人、朝食をとる。
シーナさんとルルルンさんは家を出ていった。
二年前に待望の娘が生まれて、自分の家を建て、そこで暮らしている。
といっても、近所だけど。
トキュウスさんは執政官の任期を終えて法務官になってから、さらに忙しくなってしまった。
起きるのは昼だ。
残るリューナちゃんも……。
「おはよう、リューナちゃん」
自分の部屋で、机に突っ伏すように眠っていた。
机には何冊もの本が重なっている。
「ん……あ、おはようございます。アオコさん」
今年で彼女も一四歳。
ライナに代わってシーナさんの力になるべく、日々勉強をしている。
「なんの本を読んでいたの?」
「航海についての本です。姉上さまは海路での貿易を重要視しているので」
「偉いね。朝ごはん食べたら? 今日はユーナに会える日でしょ?」
「あ」
嬉しそうに立ち上がる。
去年から、週に一度だけクロロスル邸にいるユーナちゃんに会えることになっていた。
本当なら、毎日顔を合わせているはずだったのに……。
なんて、いまさらシーナさんを恨んだってしょうがない。
それからリューナちゃんと家を出ようとしたとき、トキュウスさんが寝室から出てきた。
「おはよう。おや、お出かけかい? ……そうか、今日はユーナに会える日か」
「父上様、もっと寝ていなくて大丈夫ですか?」
「あぁ、昨夜は少し、早く帰れたからね。アオコ、リューナを頼むよ」
はい。と返事をしつつ、トキュウスさんの顔色を伺う。
目の下に隈ができて、やつれている。
法務官としてカローの法を整備に勤しんでいるのだ。無理もない。
噂では、優柔不断な性格が災いして中々仕事が進んでいないらしいが。
「トキュウスさんも、ユーナちゃんに会いに行きませんか?」
「悪いが、これから議事堂に用があってね。次回は必ず行くよ」
そっと、リューナちゃんがお父さんに抱きつく。
「無理しないでください」
「無理じゃないさ。愛する娘たちが暮らす、この国のためだ」
トキュウスさん、本当に良いお父さんだな。
ちょっと頼りないけど。なんてね。
「それに、シーナの足を引っ張りたくないからな」
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家から二〇km程度離れたところに、クロロスルの家がある。
トキュウスさんよりも一回り大きな屋敷だ。
門番に話をして、通してもらうと、
「あ!! リューナ!! アオコ!!」
庭にいたユーナちゃんがこちらを指さした。
「ユーナ」
「リューナ〜!!」
足早に駆け寄って二人は抱きしめあった。
私が出会った頃よりも少し大きくなった二人。
「久しぶりリューナ」
「ユーナも」
元気そうでよかった。
シーナさんの予想通り、酷い目には遭わずに暮らしているようだ。
屋敷の窓から誰かが顔をのぞかせる。
「ん〜? お、ユーナファミリー」
一見美少年にも見間違うほどに中性的な顔つきの、女の子だった。
「コロロもこっち来なよー」
「待って待って!!」
窓から飛び出すと、コロロは裸足で走って私とリューナちゃんを抱き寄せた。
「よく来た我が家族よー!!」
相変わらず暑苦しいな、コロロちゃんは。
コロロちゃんは仲良しになった人をみんな家族扱いする。
仲間意識の強い子なのだ。
あ、ちなみにこの子がユーナちゃんの婚約者、つまりクロロスルの娘さんなわけだ。
「ちょっとコロロ、二人とも苦しいって」
「んえ? あー、ごめんごめん。むー、けどこの感動、他に伝える手段がない」
「まったくー、コロロってば子供なんだからー」
「確かにユーナより一つ下だが、頭もよく、腕っぷしも強く、なにより美人!! 品行方正!! 最強カロー人なのだな!!」
「そーゆーとこが子供なのー」
なんともまあ微笑ましい、元気なカップルなことで。
あー、なんかこの子ら、ずっとこのままでいてほしいな。大人にならず純粋な子供のまま純粋にイチャイチャしていてほしい。
リューナちゃんがクスクスと笑う。
「ユーナと……そっくり」
「ええ!? 私のほうが大人だよリューナ」
「どっちもどっち」
「ひどーい」
コロロがユーナちゃんの背中を叩いた。
「つまり、ユーナの双子のリューナも私と似てるってことだ!! なはは!!」
「おぉ!! コロロ珍しく頭いい!! そうだそうだ、リューナもコロロと似てるー」
「いえーい」
性格は父クロロスルとは正反対だが、知能は似ててもよかったよね。
ていうか、毎日この二人に囲まれているクロロスルが大変そうだ。
可愛いけど、疲れそう。
一歩下がって、改めて楽しそうに笑っている三人娘を眺める。
この子たちが元気でいてくれるから、私はライナの死から立ち直ることができた。
そりゃあこんなに可愛くて天真爛漫な姿を見せつけられたら、誰だって活力だって湧いてくるさ。
何があっても絶対に、守ってあげたい。
「さて、私はこれからシーナさんの家に行くから、じゃあね」
街道を歩きながら、人々の様子を眺める。
心なしか、はじめて街に訪れたときより、笑顔が増えている気がする。
浮浪者の数も減った。
税も軽くなり、市民の負担も減って、みんな穏やかに生きているのだ。
陰湿な暴力とライナの死を経てようやく掴んだ平和。
牛さんは育ててないけれど、これが、私がずっと望んでいたのんびりスローライフ。
ライナ、ちゃんと見ていてくれてる?
会えないのは寂しいけど、私はいまでも、ライナが大好きだよ。




