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第1回 アオコ、召喚されてしまう。

 我ながら忙しい人生だった。

 父が家を去り、残されたのは穀潰しの母親一人。

 彼女に代わって大事な青春をバイトに捧げ、友達だってできやしない。


 でもいいのだ。見かねた親戚が私を引き取ってくれることになったのだから。

 しかも向こうは牧場を経営している。

 牛さんに囲まれた平穏で和やかな日々!! 


 煩雑な都会を離れ、のんびり過ごせるのだ。

 はぁ〜、作物も育てたい。とくにトマト、トマトを育ててみたい。

 真っ赤な果実に囲まれたい。

 釣りにも行きたいし、晴れた日にはピクニックもしたい。


 丸一日お昼寝した〜〜〜い!!


「へへ〜、気が早いけど買っちった。ミニトマトの種」


 家に帰る足が早まる。

 帰宅したらすぐに宝箱に種を仕舞おう。


「鉢植えとか、支柱とか、土とか、誰かから貰えないかな」


 時間に縛られるのは仕方ない。社会ってのはそんなもんだ。

 でも人間に束縛されるのはもうまっぴらだ。


 平和と自由を手に、適度な努力と安定した生活を送りたい。

 決して裕福じゃなくてもいい。仙人みたいな人生でいい。


 ……ごめん、嘘ついた。友達は欲しいかな。恋だってしたい。

 あとは、そうだな〜。


 などとこれからの将来への妄想に耽っていると、


「あ!」


 後ろからただならぬ声がした。

 正気に戻って周囲を見渡せば、暴走したスポーツカーが、信号を無視してこちらへーー。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「召喚できました!!」


 可愛い声が聞こえて目を覚ます。

 視界に映る木々、枝や青葉の隙間から青空が見えている。

 手に伝わる土の感触。意識はぼーっとして、頭が回らない。


「あー、え?」


 車に……轢かれた? 公園までふっ飛ばされたの……かな?

 どこも痛くない。奇跡的に無傷だったのだろうか。


 上半身を起こしてみる。

 白いローブを着た金色の髪の女の子がいた。

 結構可愛い。


 女の子は目を大きく見開いて、私を凝視している。


「き、来てください!! 姉上さま!!」


 え、なに? 私の体そんなにヤバいの?

 てかここ……森? 近所に森なんてなかったけど、いったい何kmふっ飛ばされたの私!?


 はっ! はうあ!! わかった、わかってしまった。

 轢かれて、証拠隠滅のために車に載せられて、森に捨てられたんだ!!

 つまりこの子は悪いやつ!! ひき逃げ犯!!


 さ〜て埋めるか〜ってタイミングで目を覚ましちゃったもんだから、ビックリしてるんだ!!


 彼女の叫び声が、もうひとりの女性を呼び込んだ。

 軽装の鎧を着て、腰に剣を差した美女。

 な、なにあの剣。てか、顔に血が付いてるんですけど。


 すでに一人殺ってきました?

 ちゅ、ちゅぎはわたちなんでしゅか〜!?!?!?!?

 せ、せっかくこれから順風満帆スローライフを歩もうと思っていたのに。


「召喚できましたよ!! 姉上さま!!」


「そんな、バカな……。信じられない……。まさか本当に……」


 剣の美女がローブを着た子をじっと見つめる。


「体は? 大丈夫なのかライナ」


「はい、いまのところは」


 ライナと呼ばれた子が、私に跪く。


「私はライナ。こちらは姉のシーナです、救世主さま」


「……え?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ばちくそ長々と語られた説明を要約すると、だ。


 私がいる森は「カロー」という国の国境付近。現在、ゴブリン率いる魔獣軍団と交戦中……らしい。

 けど劣勢になったもんで、藁にもすがる思いで古に伝わる召喚魔法を発動したところ、私が呼ばれたってわけだ。


 えーっと、つまりこれって、いわゆる異世界転生?

 貧乏すぎてスマホもパソコンもなかったからよくわからないけど、学校の図書室に書籍化されたweb小説があったから読んだことがある。

 ま、まさか本当に? 夢? 幻覚?

 でも土の感触も、空気の生ぬるさも、森に生えるいろんな植物の匂いが複合された生臭さも、どれもこれもリアリティがある。


 ライナが改めて頭を下げてきた。


「どうか、私たちに力を貸してください」


 姉のシーナも手を差し伸べた。


「私からも頼む救世主殿」


「た、頼むと言われましても、私戦うとかできませーー」


「名前は何というのだ?」


「無視かよ……。青子、緑都青子。あとそれと、私運動神経ないでーー」


「そうかアオコ殿。……救世主がまかさ女の子だなんて思わなかったな」


「私も自分がいきなり勇者になるなんて思わなかったです」


「うーん、でもなかなか……かわいいじゃないか♡」


「え、どういう意味ですか」


「そんなことより」


 再度無視された挙げ句、シーナはペットでも愛でるかのようにライナを抱きしめた。


「さすが私の妹だ♡ 本当に成功させてしまうなんて天才すぎるぞ♡」


「いやん♡ 姉上さまったら、恥ずかしいですよ♡」


「きゃわいい天才、きゃわ天だなあ♡ ライナは」


 えー、召喚しておいて蚊帳の外かよー。

 こうして私は、貧乏少女から異世界の救世主へと昇格した。


 って、私ののんびりスローライフ計画はどうなっちゃうのー!!

よろしくおねがいします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に面白かったです! [一言] これからも追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!
2023/07/11 21:09 退会済み
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